第23話

 店内に入店すると、目の前にはカウンター席があり、周囲にはテーブル席が数席あった。

 その中で俺たちはテーブル席へと案内され、お水とおしぼりを店員さんから貰った。


(てか、普通に一緒に入店しているし)


 受付で人数を一名と書いたはずなのに、入店の時に呼ばれたのは二名。その時点で違和感を覚えればよかったのだが、鬼頭さんに主導権を握られて何も出来なかった。


「コラボ料理って、どれになるの?」

「ちょっと待ってね」


 メニューを開きながら鬼頭さんは聞いてきたので、返事をしながら俺もメニューを取った。


 メニューにはグランドメニューやデザートといった種類があるが、目当てのコラボ料理は別のメニューが用意されていた。


「コラボ料理はこっちのメニューだね」

「もう一個の方だったか〜!」


 鬼頭さんと一緒に見るために、コラボメニューを机の真ん中に置いた。


「どれも美味しいそう〜 辛さレベルも変えることができるんだね」

「変更できるのはありがたいけど…おかしいだろ」


 辛さレベルとは辛さ控えめから超激辛までが普通なのだが、このお店は控えめはなく大辛から始まっていた。俺にとっては地獄のレベルだった。


「私は辛味噌ラーメンにしようかな。辛さレベルはMAXにして」

「よくMAXで食べれるね… 俺は無難にチャーハンにしようかな。辛さレベルは一番下で」

「一番下でも大辛だから、御影くんにはかなり大変そうだね」

「推しを当てるためだ。意地でも完食するよ」

「頑張ってね!」


 注文する料理が決まったので、机にあるベルを鳴らした。そして店員さんがやって来て、それぞれの料理を注文した。


 それから五分後には、注文した全ての料理が机の上に届いた。


「おぉ…!!辛味噌ラーメンが真っ赤だ」


 鬼頭さんは自分の料理を見て、かなり驚いていた。それもそのはず、メニューの辛味噌ラーメンは味噌の色に少しだけ赤色がある感じだったのだが、実際に届いたのは真っ赤な粉が大量に掛かったラーメンだった。


「その粉の量はやばいな」

「辛さレベルMAXだから期待はしていたけど、これは予想外だよ。御影くんのは少し赤いけど、それほど辛くはなさそうだね?」

「絶対に辛いと思うのは俺だけなのか…?」


 鬼頭さんの言う通り、俺が頼んだチャーハンは普通のより少し赤い。だけど香りから激辛の刺激がうっすらと漂って来るので怯えていた。


「それくらいで悲鳴をあげていたら、私のラーメンなんか食べれないぞ〜!」

「そのラーメンを食べるつもりはないから、特に問題はない。それよりも、グッズの方が大事だ」

「激辛料理より、グッズ目当てで入っているもんね〜! この袋を開ければいいんだよね?」

「そう。 その中に十二星座の戦士たちがランダムに入っているんだよ」


 コラボグッズであるコースターは、料理と一緒に付いてきた銀色の袋の中に入っている。

 銀色の袋だと中身の透視が出来ないので、開けるまでは何が当たっているのかドキドキしている。


「それじゃあ、早速私のを開けるね!」

「お願いします」


 激辛料理はこれ以上食べたくないから、何が何でもここで足を当てておきたい。そして図々しいかもしれないけど、鬼頭さんには是非とも当ててほしい。まあ自引きする気満々だから、結茜さんの推しを当ててくれたら最高なんだけどね。


 鬼頭さんは丁寧に銀色の袋を開けて行き、袋の中に手を入れてコースターを取り出した。


「おぉ〜! 可愛い青色の女の子が当たったよ!」


 青色の女の子。それは水瓶座の美少女戦士では?

 ということは、結茜さんの推しだ。


 結茜さんはコースターを俺の方に向けた。

 やはり水瓶座の美少女戦士だった。


「それは水瓶座の美少女戦士だね」

「この子は水瓶座なんだね! それでこの子は御影くんの推しなのかな?」

「俺の推しは獅子座だから違うよ」

「それじゃあ、この子はいらない感じ?」

「そんなことはない。その子も是非とも譲ってほしいです」

「御影くんの推しは獅子座なのに、水瓶座もほしいの? どうして?」


 どうしてと言われても、結茜さんが水瓶座の美少女戦士の推しだから———とは言えないよな。

 ただでさえ、不良モードを鬼頭さんにバレて機嫌が悪いのに、アニメのことまでバレたらさらに機嫌が悪くなりそう。その情報源が俺だと知られたら、何をされるか分からないし…。


 とりあえず、好きだからこそ全種類集めるのは当然で通用するだろう。……してくれないと困る。


「好きなアニメなら推し以外も全部集めるのは当然なんだよ!だからこそ、水瓶座も欲しい」

「なるほどね〜 それなら渡してあげてもいいよって言いたいところだけど、元々渡す契約なんだから力説しなくてもよかったんだよ」

「鬼頭さんがいじめてこなければ、俺が力説することもなかったんだよ」

「少しだけ揶揄っただけだよ〜 それよりも、御影くんの方も開封してみれば?」

「そうだね」


 鬼頭さんペースに若干の不安を持ちながらも、俺は自分の銀色の袋を開けた。


(獅子座…獅子座来い…獅子座をお願いします)


 心の中でお願いをしながら、袋の中に手を入れてコースターを取り出した。

 そしてコースターを見ると———赤色の戦士が描かれていた。


 赤色の戦士。つまり俺の推しである、獅子座の美少女戦士を自引きすることに成功した!!

 

 俺は嬉しさのあまりその場でガッツポーズをした。すると目の前から含み笑いが聞こえてきたので視線を向けると、鬼頭さんにいまの言動を温かい目で見られていた。


(は…恥ずかしい)


 咄嗟に腕を引っ込めて、顔を逸らした。


「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに〜 御影くんが好きなキャラが当たったんでしょ?」

「そうなんだけど…喜んでいる姿を他人に見られるのは恥ずかしくて…」

「御影くんって、人見知りなの? それとも他人のことを信用できないとか?」

「人見知りでもあるし、他人を信用することもできていないね」


 鬼頭さんにはこう伝えたが、一応信用できる人は二人はいる。一人目は妹の紫音だ。紫音は少し生意気だけど、とても頼りになる妹だ。

 もう一人が結茜さんだ。仲良くなって日は浅いが、それでも秘密を知るものとして信頼関係を築いていると思う。……これが信用できる人に分類されるかは、俺には分からないけど。


「そうなのか〜 私と話が出来ているから人見知りではない感じがしたし、私のことを信用してくれていると思ったんだけどな〜」

「俺の場合は数回話せば、人見知りでも一応話すことはできるんだよね。期間が空いたらリセットされるけど…」

「それって、一週間話さなかったとしたら、その一週間後は沈黙の挨拶をされるってこと?」

「間違ってはいないかな」


 沈黙の挨拶になるから分からないけど、ただ会釈だけして教室に向かったり、自分の世界に入っている可能性はあるな。


「私、沈黙の挨拶をされたくないから、御影くんに毎日朝の挨拶をすることにするね!」

「 !? 朝の挨拶じゃなくても、昼休みとかに話し掛けてくれればいいのだけど」

「朝の挨拶は基本! だから朝の挨拶をして、御影くんともっと仲良くなって信用してもらうんだ!」

「その…頑張ってね」

「御影くんこそ、ちゃんと挨拶を返すように頑張ってよね?」

「努力します」


 とは言ったものの、今まで挨拶していなかった人に挨拶をしたら教室でかなり目立つんだろうな…。

 目立ちたくはないけど、鬼頭さんは一度言い出したら絶対に実行する行動力があることが、最近分かってきた。だから佐伯くんの凄さが改めて実感できる。とりあえず、『おはよう』の返答が出来れば問題はないよね。……家で練習かな。


「月曜日の学校が楽しみだね〜♪」

「全教科のテスト返却もあるし、挨拶をしないといけないし楽しみではないよ…」

「そんなこと言ったらダメだよ? それが嫌だからサボるのも許さないからね?」

「鬼頭さんは俺の親か何かですか?」

「御影くんの親になるくらいなら、妹になった方が楽しそうだな〜」

「積極的な妹は一人で十分だ」


 鬼頭さんは紫音と同類だと思う。それで鬼頭さんも妹とかになったら、積極的な二人から何をされるか分からない。……想像しただけで怖い。


(この話は早く終わらせないとだな)


 そう思い、周囲を見渡して話題を変えるネタを探していたら、目の前に絶好の話題があった。


「鬼頭さん、話をしていたからラーメンが伸びて来ているのでは?」

「うそ…?! マジじゃん!!」


 料理が届いてから五分は経っていた。

 なので、鬼頭さんのラーメンは少し伸びているのが目視で分かった。俺のはチャーハンなので、少し冷めただけで何も問題はなかった。


「とりあえず忘れないうちに、御影くんにコースターを渡しておくね」

「感謝します」


 俺は鬼頭さんからコースターを貰った。


 これで結茜さんも喜んでくれるだろう。結茜さん自身は激辛料理が得意なのかは分からないけど、こーゆうお店には行かない雰囲気があるして。


「それじゃあ、いただきます!」

「いただきます」


 俺たちは食事の挨拶をしてから、それぞれの料理を一口取り、口元へ運んだ。


「これは…痺れと辛さがとても刺激的で美味しいけど———これは辛すぎる…」


 激辛得意の鬼頭さんは机の上で震えていた。


 そして俺はというと———


「米一粒一粒に辛みパウダーが付いていて、口の中にかなり広がってくる…」


 激辛苦手な俺にはかなり苦痛だった。


 それから20分ほど時間を掛けて料理を完食し、俺たちは店を出た。


「凄い刺激的な料理だったね」

「激辛料理なんて二度と食べたくない」

「だけどコラボしたら、御影くんは食べに行くんだよね?」

「………そうなるんだよね」

「その時はまた声を掛けてよ! 私が手伝ってあげるからさ!」

「それは有難いけど、何か裏があるのでは?」


 今回も見返りがあるから手伝ってくれたようなものだし、二回目も裏があるに違いない。


「本当は見返りは欲しいけど、次は見返りとかは無しで無償で手伝ってあげるよ」

「怪しい…けど、とりあえずコラボが来たらお願いするよ」

「任せて! それじゃあ、私は買い物があるから月曜日の挨拶を忘れずにね〜!」


 鬼頭さんは複合施設の方に向けて、手を振りながら走っていった。俺はその後ろ姿に手を振りながら、見えなくなるまで見送った。


 そして俺は激辛料理で疲労困憊になっていたので、帰宅することにした。



◇◆



 その日の夜。俺は結茜さんにメールを送った。


【雪翔:今日、激辛料理のコラボ料理を食べてきて水瓶座の美少女戦士のコースターを当てました】


 すぐには返信が来ないだろとスマホを机に置こうとした瞬間、スマホが震えた。

 画面を見ると、結茜さんから返信が来ていた。


【結茜:そのコースターください!!激辛料理は苦手ではないけど、なかなか行く時間がなくて諦めていたの。だから水瓶座の美少女戦士欲しい!!】


【雪翔:もちろん、結茜さんにあげるよ】


【結茜:ありがとう!!御影くんの推しはどうだったの?】


【雪翔:俺の推しも当たったよ。水瓶座と獅子座の二枚をピンポイントで当てた感じ】


【結茜:ナイス! 色々と気になることはあるけど、月曜日に持ってきてね!!】


【雪翔:忘れずに持って行きます】


 そして結茜さんから『ぐっない』と書かれたスタンプが送られて来たので、俺も『おやすみ』のスタンプを送り返した。


 メールを終えた後、忘れないうちに結茜さんに渡すコースターをスクールバッグの中にしまった。

 

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