第22話

「ついに挑戦する日が来たか」


 ある休日。俺は都心へと足を運んでいた。

 目的は大好きなアニメである美少女戦士のコラボグッズを貰うためだ。


 今回のコラボでは戦士たちがお店の衣装を着て、接客しているイラストになる。そのイラストがとても可愛くて、どうしても欲しいのだが———そのコラボ先が激辛料理のお店なのだ。


「なんで激辛料理とコラボなんだよ…」


 俺は激辛料理が苦手なのだ。

 苦手と言っても中辛までは食べれるのだが、真っ赤に染まったスープ系は問題外だ。


(その激辛料理とコラボとか……俺にとっては地獄でしかないぞ…何で激辛料理にするんだよ)


 だからと言って、コラボのグッズを諦める訳にはいかないのだ。推しである獅子座の美少女戦士が本当に可愛いから!!


 ということで、コラボをしている激辛料理店へと着いた。着いてすぐに目に入ったのは、十二星座の戦士たちのイラストが入った壁紙と行列だ。


 壁紙イラストは食後にスマホで撮ることにして、俺は行列に並ぶことにした。行列には七組くらい並んでいるが、回転率は早いのですぐに店内に入れそうだ。


 待っている間、俺は動画サイトでアニメを見ることにした。視聴するのは当然美少女戦士だ。

 動画サイトにはリメイク版とオリジナル版の二つがある。リメイク版は映像が最新技術によって鮮明になり、かなりの綺麗さで視聴ができる。オリジナル版は数十年前なので映像は少し荒いが、その当時の良さが出ている。どっちも視聴はしたことがあるが、今回はリメイク版の方を選んだ。


 スマホと耳に付けたBluetoothイヤホンを繋ぎ、動画を再生した。


 再生するとオリジナル版の時から人気があった名曲が流れ、ここだけで胸が熱くなるのを感じた。

 それから第一話なので日常が始まり、謎の敵が現れて力に覚醒するまでが描かれていった。


(とても良かった)


 アニメに感動していると、後ろからトントンと肩を叩かれた。後ろを振り向くと、微笑している鬼頭さんが手を振っていた。


「き…鬼頭さん?!」

「御影くん、やっほー! こんな場所で会うなんて偶然だね〜!」

「本当に偶然なの…か?」

「偶然なのは本当だよ。用事で都心まで遊びに来ていたら、激辛店に並んでいる御影くんを見かけたの。それで話掛けようかな〜って」

「なるほど。 それで鬼頭さんは何故列に並んでいるのかな? 別の用事で来ていたんだよね?」


 俺の後ろには列が出来ていなかったので問題はないのだが、いつの間にか鬼頭さんは話しながら並んでいた。……並ぶ理由はないはずだが。


「そうなんだけど、御影くんが並んでいるのを見て、激辛料理を食べようかなと思ったの」

「よく理解出来ないけど、鬼頭さんって激辛料理は得意だったりする?」


 もし得意だったら、コラボ料理を頼んでもらい、コラボグッズの手伝いをしてもらいたい。

 それで推しのグッズが出たら、是非とも譲って欲しい。


「余裕で得意だよ!」

「 !! 是非とも推しを当てるために、コラボ料理を頼んでほしいです」

「う〜ん…私に見返りがないと、手伝う気にはならないかな〜?」


 カースト上位め…。激辛料理が好きなら、見返りとか無しで普通に手伝ってほしいよ。

 それにしても見返り…か。俺が鬼頭さんにしてあげることなんて———ないよな。


「見返りって… 俺には何もないよ?」

「確かに御影くんだけなら何もないけど、御影くんにも出来ることが一つだけあるよ」

「一つだけ?」


 なんだろう?俺が出来て、鬼頭さんが喜ぶことなんて何も思い付かないけどな。


「それは———御影くんには不良モードの委員長の写真を提供してもらいます!!」

「ゆ…結茜さんの写真?! しかも不良モードの?!」

「そっ!最近、私たちは空き教室に行っていないでしょ? そろそろ見たいとは思っているんだけど、委員長は絶対に隠れるから見れないの。 目の保養の為にもお願いね!」


 鬼頭さんは首を傾げながら手を合わせて、最後にウインクをしてきた。


 目の保養って…。だけど結茜さんに写真を撮るのはなかなかの至難だ。後日行われる一日撮影体験は抜きにしたら、理由がない限り結茜さんを撮ることはほぼ不可能だろ。


「普段の日に結茜さんを撮るのは難しいぞ?」

「空き教室で理由を無理矢理作って、委員長に写真を撮らせてもらうしかないね。 てか休日の日とかに遊んだりしないの?」

「一回だけ休日に遊んだよ」

「その時は不良モードの格好だよね?」

「不良モードというより、芸能系モード?」


 あの日は道行く人全員が振り返ったり、コソコソ話題にしていたくらいに目立っていた。

 その姿を不良モードというより、芸能系と言った方がしっくりくる。


「芸能モードだと…委員長は一体いくつのモードを持っているんだ」

「芸能モードと不良モードはイコールにしてもいいと思うよ。制服か私服だけの違いだし」

「なるほど…そうなってくると、私服姿の委員長も見たくなってくるね…」


 これは…。なんだか嫌な予感がするぞ。


 鬼頭さんは「よし」と言って、微笑しながら言葉を続けてきた。


「御影くんに任務を与えます。委員長の不良モード姿と私服の芸能モードの写真を一枚撮ってくること。それを条件として、コラボ料理を頼んで推しを当てる手伝いをしてあげよう」


 何で少し上から目線なんだよ。それに口調も少し変だし。とりあえず任務は激ムズだけど、推しを当てる為には背に腹はかえられないよな。


「撮影できるかは分からないけど、できる限りのことは頑張ってみるよ」

「とーっても期待して待っているからね!」

「期待されるとかなり緊張するな… それで期限はあるのか?」

「期限は無期限!! それだけ難しいことは分かっているから、焦らずにベストショットを頼むよ!」

「鬼頭さんに気に入ってもらえる写真を撮れるように頑張るわ」

「ファイト!」


 鬼頭さんはガッツポーズをして、任務の応援をしてくれた。……さすがカースト上位だ。応援の仕方がとても可愛いな。


 そして店員さんに呼ばれて、俺と鬼頭さんは店内へと入店した。

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