第21話

「これは一体どうゆうことだ…?」


 土曜日のお昼頃。中間テストから解放された俺は、その期間に溜まっていたアニメを消化していた。そしてお腹が空いたので、キッチンに向かいながらスマホでメールを確認すると———結茜さんから一通のメールが届いていた。


 メールを開いて内容を確認すると、『御影くんは一日限りの撮影体験に選ばれました』と書いてあった。そして詳しい話は学校で話すと書いてあり、これ以上は何も分からない状態だった。


「一日限りの撮影体験…?」


 そんな体験が出来るような募集に応募した記憶はないし、その体験をするにあたり結茜さんが連絡してくることも謎だ。


「とりあえず詳しい話は学校でしてくれるみたいだし、待つしかないか」


 俺は結茜さんに「分かった」とだけ送り、カップラーメンを作ってアニメの続きを見ることにした。



◇◆



 月曜日の放課後。二日前に送られてきた内容を聞くために、いつもの空き教室へとやってきた。

 扉を開けると、すでに結茜さんは室内にいて、ペットボトルの紅茶を飲んでいた。


「お待たせ」

「いつも思うんだけど、御影くんってこの教室に来るの遅いよね。同じタイミングで終わっているのに、何をしているの?」

「特に変わったことはしていないよ」   


 単純に行動するのが遅いから、空き教室に来るまでに時間が掛かるだけ。……よく行動が遅くて、紫音にも怒られているんだよな。


「逆に結茜さんは来るのが早いよね。ホームルーム終わったら、すぐに教室を出ているし」

「当然でしょ。 あのままいたら、授業の質問やくだらない話に付き合わされるだけだし」

「その話をクラスメイトが聞いたら、委員長としてのイメージが崩れていくね」

「そもそも、いまの格好の時点でイメージはかなり崩れていると思うけどね」

「確かに…そうだね」


 この空き教室に来たら、結茜さんは必ずウィッグを外し、制服を着崩している。そんな姿を見たら、確かにイメージは崩れるな。


 鬼頭さんみたいなイレギュラーがいない限り、結茜さんの格好が肯定されることはないのだけど。


「それで土曜日のメールの件だけど、あれは一体どうゆうこと?」


 近くにあった椅子に腰を下ろしながら、結茜さんに尋ねた。


「一日限りの撮影体験に御影くんが選ばれたの」


 結茜さんは「おめでとう」と、手をパチパチしながら言ってきた。


「その撮影体験って何? そんなのに応募した覚えがないし、そもそも結茜さんが連絡してくることが謎なんだけど?」

「その辺の詳しい話をいまからするから、一気に質問をしないこと!」

「……分かった」


 どうして咎められているのか分からないけど、反論したら話が進まない気がしたので頷いた。


「まずは撮影体験について話すね。撮影体験とは、私と一緒に雑誌の撮影をすることができて、その撮影は後日雑誌に掲載されることになるの」

「つまり撮影に参加したら、俺は全国デビューをするみたいな感じになるということ?」

「するみたいではなくて、雑誌で全国デビューをすることになるわね」


 マジかよ…。冴えない俺が全国デビューとかあり得ないだろ。さらに“幻の妹“との共演で、ファンの人たちから恨まれそうな予感がする。


「大丈夫よ。プロのスタイリストによって、御影くんは変身するのだから」

「色々と複雑だな…」


 スタイリストさんによって変身するのは嬉しいんだけど、雑誌に掲載されるのが全くの別人に見えるんだろうな。……だからと言って、素の自分のままで掲載されるのも嫌だし。俺って面倒さい人だな。


「でも学校の人たちにはバレないから、御影くんにとっては都合がいいのでは?」

「確かに学校の人たちにバレないのは大きい。バレて質問攻めされるのは嫌だし」

「質問攻めはうざいよね。 記者の人たちも周囲の人の質問をよく聞いてほしいよ」

「結茜さんも大変だね」

「幻の妹なのでね」


 結茜さんは満面の笑みを向けてきた。


 そして「次は選ばれた話ね」と言葉を続けた。


「御影くんが選ばれたのは、私が御影くんを推薦したから選ばれたの。 だから応募した記憶がないのは当然だよ」

「俺の知らない所で勝手に推薦して、勝手に話を進めないでほしいのだけど…」

「ふふふ。 だけど話は進んでいるから、断ることは不可能だからね!」

「問答無用で強制じゃん」


 別にいいんだけどさ。結茜さんとの撮影は楽しそうだし、雑誌の撮影なんて経験は普通は出来ないから断る理由はない。


「私が連絡した意味が分かったかな?」

「大体、分かったよ。 これは結茜さんが連絡してくるね」

「理解してくれたようだね。 これで撮影体験の概要は終わりかな」


 なるほど。全ての話を聞いた上で、もう一度考え直すとしても———やはり断る理由はないな。


「もう決まりだけど、御影くんは撮影体験会に参加してくれるかな?」

「質問の意味… まあ参加しますよ」

「ありがとう!! それで撮影は六月初旬の土日のどっちかになるから、また連絡するね」

「分かった」

「それじゃあ、解散!!」


 唐突だなと思いつつ、俺たちは雑談しながら下駄箱に行き、帰路に着いた。

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