第20話

 土曜日。中間テストが無事に終わった私は、お姉ちゃんと一緒に雑誌撮影の仕事のために都内のスタジオに来ていた。

 

 スタッフさんとの打ち合わせと撮影までは少し時間があるので、控室にて待つことになった。


「久しぶりの結茜ちゃんとの撮影だ〜! 今回も可愛い写真を沢山撮ってもらおうね〜!」

「お姉ちゃんはしゃぎ過ぎ…スタッフさんたちがいるんだから、もう少し落ち着いてよ」

「もしかして、結茜ちゃん恥ずかしいのかな〜」


 お姉ちゃんは私の頬をツンツンしてきた。


「そのツンツンするのやめて。最後の方はかなり痛いし、撮影前だから跡をつけたくない」

「そんなことを言わないでよ〜 お姉ちゃんは結茜ちゃんとお話したいだけなのに」

「なら、普通に話をすればいいじゃん」


 そんな構ってアピールをしなくても、私はお姉ちゃんの話に付き合ってあげるのに。


「ほんと!それじゃあ、昨日までの中間テストの手応えを聞いちゃおうかな〜」


 あっ…話題が変わる感じなのね。

 てっきり、撮影の話をするのかと思っていた。


「手応えでいえば完璧だよ。今回も学年順位で上位を狙える合計点数は取れたと思う」

「ほんと結茜ちゃんはよくできた妹だね。お姉ちゃんは嬉しくて自慢したくなるよ」

「自慢はしなくていいし、それにお姉ちゃんだって頭いいでしょ」


 お姉ちゃんも高校時代は成績が良くて、生徒会副会長をやっていたほどだ。私は成績が良くても、生徒会とか入っていないから自慢されるほどではない。


「だけど、私は“委員長“ってあだ名はなかったよ」

「それはクラスメイトが勝手に付けたあだ名で、本当は私は好きではないの」

「この前も“委員長“って呼ばれて、素直に返事をしていたのに?」

「だって…周囲の人達がそう呼ぶようになったから、今更断れなくなって…渋々」


 それに対して、御影くんはほんといい人だ。

 私のことを委員長と呼ばないし、ちゃんと名前で呼んでくれる。それだけでも好感を持てる。


「なるほど… それなら生徒会長を目指せば?」

「………っは?」


 何がどうなって生徒会長を目指すことになるんだよ…。生徒会長なんて面倒くさいし、何より目立ちたくない私がやることは絶対にない。


「やるわけないじゃん」

「結茜ちゃんが生徒会長になったら、委員長のあだ名が会長になってカッコいいよ〜?」

「委員長と呼ばれるのも嫌だけど、会長と呼ばれるのもさらに嫌だね」

「もしかして結茜ちゃん……目立ちたくないの?」

「目立つことはしたくないね」

「それじゃあ、モデルの仕事をするのは嫌い?」


 確かにモデルは目立つ仕事だ。

 だけどモデルの仕事に関しては嫌いではない。メイクさんの技術で可愛くなれるし、プロのカメラマンさんによって最高の写真を撮ってくれる。


 私が目立ちたくないのは学校での話だ。

 そもそも私が羽衣結茜だとバレないように地味目な格好をしているのに、変なことでバレてしまったら元もこうもない。


(鬼頭さんと佐伯くんにバレたのは予想外だったけど、あっちも秘密があったしお互いさまだよね)


「モデルの仕事は好きだよ」

「それなら良かった! 結茜ちゃんにはモデルの仕事を専属でやってもらいたいからね!」

「ちょいまち、いつ私が専属になると言った?」


 私は専属になる気はないのに、お姉ちゃんはどこで専属になると思ったんだ?


「高二で専属モデルデビューを計画していたのに、結茜ちゃんはやってくれないの〜?」

「私の知らな所で勝手に話を進めないでくれない? 私が断ることを考えなかったの?」

「それに関しては、「お姉ちゃんが説得します」って言っちゃったから…」


 お姉ちゃんらしいとは思うけど、何も考えなしに行動はしないでほしいな。


「お姉ちゃんは———」


 私が話そうとした時、後ろから声を掛けられた。


「結茜さん、七蒼さん、お待たせしました。これから撮影に関して打ち合わせをしたいと思います」


 スタッフさんは挨拶をすると、私たちの対面に座った。


「羽衣結茜です。本日はよろしくお願いします」

「羽衣七蒼です。よろしくお願いします」


 私たちはスタッフさんに挨拶をして、私はお姉ちゃんに小声で話し掛けた。


「(とりあえず、専属の話とかは保留ね)」

「(は〜い)」


 簡潔に話をまとめて、私はスタッフさんに視線を戻した。視線を戻すと、スタッフさんが一枚のプリントを私たちの前に置いた。

 そして「こちらを確認してください」と言ってきたので、私はプリントに目を通した。


「なにこれ…?」


 私はプリントを見て、そして驚いた。

 プリントには『一日限りの撮影体験』と書かれていて、内容は羽衣結茜が選んだ一般男性と雑誌の撮影をするものだった。…どうゆうこと?


「あの…私が選んだ一般男性と雑誌の撮影体験って、よく理解ができないのですが?」

「何も説明ないと理解できないよね」


 スタッフさんは苦笑すると、プリントの内容について説明を始めた。


「これは編集部が募集して、結茜さんに一人を選んでもらうことを予定しているの。だけど結茜さんが一緒にやりたい人がいるなら、その人でもいいと編集長から許可は貰っているよ」

「凄く素敵なイベントですねぇ〜! 結茜ちゃんとの撮影で選ばれた人は幸せだね〜!」


 お姉ちゃんは幸せそうな顔を浮かべていた。


 確かに“幻の妹“と呼ばれている私と雑誌の撮影体験できるのは幸せだろう。だけど、全く知らない男性と一緒に撮影は———怖い。


 編集部のことだからちゃんとした人を選ぶと思うけど、私に選ぶ権利があるなら推薦を選ぶ。


 そして、私が一緒にやりたいと思うのは———


「それでは結茜さん、一般募集にしますか?それとも結茜さんの推薦にしますか?」

「推薦でお願いします」

「ほほう、即答ですか。結茜さんに即答させるほどの男の子…とても気になりますね」

「あの…期待されると、その友達は緊張してしまうので期待しすぎないでくださいよ」


 御影くんは人に期待されるのとかは苦手そうだし、知らない所で評価が上がっていたら尚更だ。


「ごめんね。 それで七蒼さんも、その子のことを知っているのかな?」

「はい! 彼はとってもカッコいいのですよ! 結茜ちゃんが襲われそうになった時に助けてくれたり、彼の妹は可愛し最高ですよ」

「なにそれ〜! 私もその男の子のことが気になってきたよ」

「あの…盛り上がるのはいいのですけど、そろそろ話を進めませんか?」

「ごめんね。 それじゃあ気を取り直して、撮影体験をするのは、その男の子で決定にしましょう。 連絡に関しては結茜さんに任せてもいいですか?」

「はい! 何がなんでも説得して、彼を撮影に絶対に連れて行きます!!」


 断られそうになっても、絶対に肯定させてやる!

 だって知らない人とやるより、御影くんと一緒に撮影をした方が楽しいもん。


「楽しみにしているね!! 撮影では見たことがない素敵な笑顔を浮かべている結茜ちゃんを、もう一度見たいからね!」


 その言葉を聞いて、私はすぐに下を向いた。

 ……えっ。私、撮影よりも素敵な笑顔を浮かべていたの? 御影くんと一緒に撮影できるから、顔が緩んでいたの…かしら?


 だけど、一つだけ分かることがある。

 これは恋愛感情ではない!!

 絶対に恋愛感情をまだ抱いていないから!!


「揶揄わないでください!! とりあえず、連絡しておきますから、他に大事なことはありますか?」

「結茜ちゃんは日時と詳細を伝えるだけで大丈夫だよ。他のことは、私たちに任せなさい」

「ありがとうございます」

「結茜ちゃんと雪翔くんの撮影か〜 私もその日の見学しようかな〜」

「全く問題ありませんよ! 七蒼さんも是非来てください。そして撮影に参加しますか?」

「します!」

「分かりました。七蒼さんの参加する方向でも、企画をさらに進めていきますね」


 私の為の企画イベントのはずなのに、お姉ちゃんも参加したら趣旨変わるでしょ。

 まあとやかく言うつもりはないから、このままスルーしてもいいかな。


「これで打ち合わせは終わりになります。 五分ほど休憩したのち撮影をしますので、準備をお願いします」

「分かりました」

「はい!よろしくお願いします!」


 スタッフさんは立ち上がり、部屋を後にした。

 残された私たちは撮影の準備を進めつつ、私は御影くんに打ち合わせした内容を簡潔にまとめてメールした。そして撮影をする為に、お姉ちゃんと一緒にスタジオへと向かった。

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