第18話

 ある日の休日。校外学習が終わり、一週間後に迫ってきている中間テストに向けて、勉強会が行われることになった。


 主催者は鬼頭さんで、参加者は俺、佐伯くん、そして結茜さんになる。場所は結茜さんの家だ。


「確かに中間テストの勉強は大事だよ。だからと言って、この格好を自宅でしないといけないのよ!」


 結茜さんは机をバン、と叩き、鬼頭さんに向けて悲痛の叫びをした。


「だって、後日不良モードでお話してくれるって約束したのに、いつまで経っても約束守ってくれないからじゃん〜!!」

「それは…その…こっちだって色々とあったの」


 色々あったというより、鬼頭さんに不良モードを見せたくなかったんだろうな。雑誌で見られる時と、生で見られる時で何かしら思うこともあるんだろうし。……ただ秘密の関係は、もう少しだけ続けていたかったな。


「怪しい〜!! 七音もいまの発言怪しいと思ったよね?」

「う〜ん…怪しいと言えば怪しいけど、それを問い詰めるのはよくないかな?」


 おっ、佐伯くんは鬼頭さんの扱いがほんと上手だな。いまの発言だと、鬼頭さんの言葉を否定せず、そして結茜さんのことを遠回しに守った。


(普通の青年なのに…同い年なのに…カッコ良すぎるだろ!!)


 憧れの眼差しを佐伯くんに向けていると、それに気付いて微笑してきた。

 俺もそれに対して微笑し返すと、突然結茜さんが手を叩いき、口を開いた。


「そこの三人、テスト勉強をそろそろ始めない?」

「確かに委員長の家に来てから、既に十五分も経っているじゃん!」

「静香が色々と駄々こねているから、時間だけが過ぎていくんだよ?」

「今回に限っては私ではなくて、委員長が大半を占めているけどね」

「だから鬼頭さんは何で話が元に戻るのかな…」

「それが私だからです!」

「意味が分からない」


 結茜さんは額に手を当てながらため息をついた。


「とりあえず俺は静香の勉強を見るから、委員長は御影くんと一緒にやってて」

「それだと勉強会の意味がないのでは?」

「御影くんの言う通り、勉強会なんだから皆んなでやった方がいいと思うんだけど?」

「だからこそ、二手に分かれた方がいいんだよ。静香は教え方は上手いけど、偶に脱線するから」


 俺は結茜さんと顔を見合わせ、そして「分かる」と同時に発言した。


「委員長も御影くんも酷くない?! 私って、そんなに信用ないのかな〜?」

「テスト勉強をする数時間で、脱線することなく真面目に勉強していたら信用してもいいわよ」

「もちろん! でも休憩とかは挟んでほしいかな…さすがに集中力が欠けるから」

「その点は構わないわよ」


 結茜さんの了承を得て、鬼頭さんはガッツポーズをして「頑張るぞ!」と言った。

 そして佐伯くんと一緒にテスト勉強を開始した。


 鬼頭さん、行動に移るの早いな…。それに合わせられる佐伯くんもほんと凄い(n度目)


 さてと、俺もテスト勉強をするか。

 高得点は取れなくても、赤点は絶対に取りたくなきからね———


 と教科書に手を伸ばしたら、結茜さんが声を掛けてきた。


「御影くんは苦手な教科はあるの?」

「英語と物理が一番苦手かな」


 中間テストは英語、数学、現国、世界史、物理になる。その中でも英語と物理は理解不能だった。


 英語は英単語を覚えるのが苦手だし、物理に関しては何も言えない状況だ。


「なるほどね。確かに苦手な人が多い教科であるけど、その二つは基本暗記だから覚えるしかないね」

「結茜さんは苦手な教科はないの?」

「あら?私が委員長と言われている理由を忘れたのかしら?」

「完璧主義者の結茜さんでしたね」

「そうよ。 だから御影くんが苦手な二教科も簡単に教えられるのよ」


 なるほど…。常に講座順位が一位の結茜さんに教えてもらえるのは有り難いな。教え方も上手そうだし、何より自分の頭が理解が出そうと言っている。


「よろしくお願いします」

「任せなさい!それじゃあ、英語から始めようか」

「お願いします」


 教科書とノートを使って教えるために、俺の真横に座った。そして丁寧にテスト範囲の説明を始めてくれたのだが…


(とてもいい匂いがする)


 結茜さんが動くたびに長い髪がさらりと揺れ、それに乗ってシャンプーの香りが漂ってきた。


 こんなの……集中できる訳ないじゃん!!

 そもそも香りだけでドキドキしているのに、顔がこんなに近ければ尚更だ。


 そしてチラッと視線を向けた時、結茜さんも同時に顔を向けてきた。


「ちゃんと説明を聞いていたの?」


 少し不満そうな顔をしながら聞いてきた。


「聞いていたよ。うん…結茜さんの説明が上手くて、とても分かはやすかったよ」

「……そう。なら、ここの問題を解いてみて」

「えっと…」


 指定された問題を見ると、英文を訳す問題だったのだが———分からない…。


 とりあえず知っている英単語を訳して、それに合わせて英文を作ってみよう。


「解けました」

「確認するわよ」


 結茜さんは解いた問題を見て、赤ペンで何かを書いていった。そして返されて確認すると、点数と解答が書かれていた。


「御影くん。英語に関しては多少でいいから、英単語を覚えた方がいいね。そうしないと、テストで訳す問題は全て点数取れないわよ」

「ですよね… 自分でも分かってはいるけど、暗記系はどうも苦手で…」

「苦手でも、頑張って覚えるしかないよ。 物理も英語も覚えておけば、きっと役に立つことがあるし」

「そう…ですね。 とりあえず、今回のテスト範囲の英単語や公式は覚えてみます」

「最初はそれでもいいんだけど、英単語に関してはほぼ全て覚えなさい」

「結茜さん、辛辣すぎますよ」

「愛の鞭よ」


 結茜さんはニヤリとして言った。


 それは愛の鞭にはならないですよ…。俺にとっては暗記するのが苦痛だから…。


「ほら、心の中でぐだぐだ言っていないで、手を動かしなさい」

「結茜さんが厳しいよー!!」


 そんなことを叫びながら、ノートに英単語と訳を書いていった。


 そして鬼頭さんと佐伯くんは、俺たちのやり取りに興味を示すことなくテスト勉強に集中していた。

 

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