第15話

 校外学習当日。各班ごとに決めた集合場所で、俺は一番最初に現地に着いていた。普段から5〜10分前行動を心掛けているが、今回に限っては15分前に着いてしまった。


 あまりにも暇なので、スマホでゲームをすることにした。いま遊んでいるゲームはロールプレイングでレベルを上げて様々なダンジョンを攻略する流れだ。そのゲームで激アツのフェスガチャが現在来ているのだ。


 フェス限ガチャには強いキャラが沢山おり、中でも男性キャラはカッコよくて、女性キャラは可愛いのが多い。今回は女性キャラが追加されたので、何としてでも手に入れたいところ…。


(全部回しても10連2回分…頼むぞ!!)


 俺は【ガチャ】ボタンを押して、画面をタップした。すると画面には10個の金卵が出てきて、一つずつ割れていき…


「10連目爆死…か」


 気を取り直して、もう一度【ガチャ】ボタンを押した。画面をタップし、10個の金卵を一個ずつ確認していくと———男性キャラの限定が当たった。


「限定キャラではあるけど…俺が欲しいのは追加された可愛い女性キャラなんだよ!!!!!」


 もう10連と考えたが、メールBOXやミッションで貰えるダイヤは全て受け取り済み。

 なので、もう引くことは出来ない…。来月フェスガチャが来るまで貯めるしかないのだ。


「ここで手に入れられなかったのは痛いな…絶対に人権キャラになると思うんだよな〜」


 俺が悲痛の叫びをしていると、背後から女性の声が聞こえてきた。


「何が人権キャラになるの?」


 振り向くと、そこには真面目委員長モードの結茜さんが立っていた。

 


「ゆ…結茜さん?!」

「そんなに驚くことはないじゃん。 あと数分で集合時間になるんだし」


 スマホを確認すると、確かに集合時間まであと数分になっていた。

 いつの間にか15分も経っていたのかよ。ガチャやキャラの強さを調べていただけなのに…。


 とりあえず、結茜さんがどこまで俺の話を聞いていたかが問題だな。


「それより、結茜さんはいつから後ろにいたの?」

「えっとね、『限定キャラの可愛い女性が欲しいんだよ〜!!』ってところかな?」

「ほぼ最初からじゃないか!!」


 しかも20連目を引き終えたあとだから、結構オーバーリアクションをしてた気がする…。


 思い出せないけど、結茜さんの顔がニヤけているから何かしらしていたんだろう。


「そうだね! 何だか面白そうなことをしていたから、後ろから御影くんを観察していたの」

「俺の観察している暇があったなら、早く集合場所に来てくださいよ」

「だって、御影くんが楽しそうにしているのに、ここで話し掛けていいのかなって」

「何も問題はないですよ。寧ろ、結茜さんに俺の痴態を見られたことが辛いです」

「あれ… 時々敬語になるけど、どうしてタメ口で話してくれないの?」

「それは…癖だから」


 未だに敬語になるのは、きっと結茜さんのことを心のどこかでは、まだ完全には信用していないからだと思う。……でも結茜さんには沢山良くしてもらっているし、完全に信用できるようにならないと。


 結茜さんがジッーと見つめてきた。


「本当に癖なのかな?」

「う、嘘を言う訳ないだろ」

「目が泳いでいるよ〜 とても怪しいな〜」


 結茜さんがさらに目を近づけてきた。


(ち…近い。それにいい香りがする)


「結茜さん。他の人の視線も気になるから、一旦離れよ」

「そ…それは」


 結茜さんが周囲に視線を巡らせ、一度瞬きをすると、俺の方に視線を戻した。

 

「確かに離れた方が良さそうね」


 結茜さんは一歩引き、再度口を開いた。


「とりあえず、タメ口で話すように努力はしてよね? 私とタメ口で話せるのを光栄に思えなさい」


 確かに鬼頭さんみたいなフレンドリーの人はタメ口で話しているけど、基本的にはクラスメイトたちは敬語が多いな。


「確かに光栄だね」

「ちょっと、何ニヤけているのよ!! こちらは至って真面目に言っているのに!!」

「いや、自信満々に言い切っていたから」

「やっぱり、御影くんは生意気だね」

「またそうやって…」

 

 言い返した所で何も変化が起きることはないと分かっているので、俺は軽く返答した。


 そして時間を確認するためにスマホを確認した瞬間、また背後から声が聞こえてきた。


「委員長〜!!お待たせしました!!」

「御影くん、鬼頭さん、遅くなってごめん」


 振り向けば、手を振って走ってくる鬼頭さんと佐伯くんが見えた。


「お二人とも集合時間に5分も遅刻とは何事ですか? ちゃんと時間通りに来てください」


 おっ…!先程までは羽衣結茜モードだったが、二人が来たことにより中之庄結茜モードになったか。


「委員長さ、私たちにはバレているんだし気楽に行こーうぜ! あと黒髪なんだね」

「学校行事なんですから、黒髪なのは当然です。それと委員長モードで行きます」

「私は不良モードの委員長と話をしたいのに、七音どうしたらいいの〜?」


 鬼頭さんは佐伯くんに抱き付いた。


 ……人前で抱き付くのに抵抗がないのか?! 

 俺なんか結茜さんに近付かれただけで、かなりの動揺したのに…。佐伯くんすげー。


「静香、ここは一旦落ち着こうね。 今回は学校の授業でいるんだから我慢をしようね?」

「………七音の言う通りにする」

「静香、偉いね」


 佐伯くんが頭を撫でると、鬼頭さんの顔が緩んできた。そして鬼頭さんは深呼吸をすると、結茜さんの方に視線を戻した。


「委員長…今日は我慢するけど、後日不良モードでお話をしてくれる…?」

「……」


 結茜さんが俺の袖を軽く引っ張ってきた。

 視線を向けると耳を貸せという感じのジェスチャーをしてきたので、耳を傾けた。


「(私、鬼頭さんと仲良くなれるのかしら)」

「(前回で仲良くなれたんじゃなかったの?)」

「(そう思ったんだけど、改めて対面して話をしたら苦手意識が…ね)」

「(とりあえず、1日だけ付き合ってあげたら?)」

「(御影くんが私の言うことを聞いてくれるなら、考えてあげるよ)」

「(そこで俺が出て来る理由が分からないけど、それで鬼頭さんの願いを叶えられるならいいっか)」

「(その言葉忘れないでよね!)」


 結茜さんはスマホを見せてきた。

 その画面は録音画面で、いまの言葉を言質として撮られていた。


「(お手柔らかにお願いしますね)」

「(楽しみにしていてね!)」


 結茜さんは微笑し、そして鬼頭さんの方へと向かった。


「1日限定でならいいですよ」

「本当?」

「本当です。それで学校でお話でいいのですか?」

「欲を言えばお出掛けしたいけど、それはまだ楽しみに残しておきたいから、学校でお願いします」

「分かりました」


 結茜さんは頷き、そして深呼吸をした。


「それでは時間も押していますので、早速校外学習を行いましょう」

「あれだけ話をしたのに、委員長はブレないな〜」

「それだけ内と外で区別しているんだろうね」

「あはは…」


 二人のコメントに苦笑しつつ、予定より少し遅れて俺たちは行動を開始した。

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