第14話
ファミレスに移動した俺たちは昼食をタッチパネルで注文し、取ってきた飲み物で一息付いていた。
(アイスティーが身に染みて…美味しい)
疲れた体にガムシロを入れたアイスティーを浸透させていると、七蒼さんが最初に話し始めた。
「今日は突然お邪魔してごめんね。 結茜ちゃんがどーしても御影くんに会いたいと言うから〜」
「違うでしょ?! お姉ちゃんが紫音ちゃんからの情報を見て、無理矢理誘ってきたんじゃん!!」
「あれれ〜? 私の記憶には嬉しそうにしている結茜ちゃんが浮かんでくるんだけどなぁ〜?」
「お姉ちゃん…それだけは本当に辞めてほしいんだけど?」
「あれ…結茜ちゃん。 その手は…」
俺は一体何を見せられているのだろう。
とりあえず、二人の会話から分かったことは、七蒼さんが結茜さんを連れて俺たちに会いに来たことくらいか。
(結茜さんは話ことがあったから会いに来ても変ではないけど、七蒼さんが来る理由が分からない)
隣にいる紫音は目の前の光景を見て笑っているので、止めるついでに七蒼さんに尋ねた。
「七蒼さんに聞きたいことがあるんですけど?」
「な…なに?」
俺の呼び掛けに返事をする七蒼さん。
それと同時に結茜さんは七蒼さんにちょっかいを出すのをやめた。少し機嫌は悪そうだけど。
「七蒼さんが俺たちに会いに来る理由って何ですか? 会いに来る理由が想像できなかったので」
「そうだね〜 私が二人に会いたい理由は…興味があるからかな〜」
「きょ…興味ですか」
紫音に興味を持つのは分かるけど、俺にまで興味を持たれることでもあったか?考えただけでも、一つも思い浮かばないな。
ただ一つ言えるのは、隣の紫音はかなり興奮していると言うことだけだ。
「そっ! 紫音ちゃんは言わなくても分かると思うけど、雪翔くんの方は理由を言わないとだね」
そこへ、ねこロボットが料理を運んできたので話を中断して料理を取り、各々の机の前に置いた。
そして七蒼さんは飲み物をストローで啜ると、先程の話の続きを始めた。
「雪翔くんに興味が出たのは結茜ちゃんを助けた時で、私たちのことを知っていてもモデルの○○さんだ的な目で見てこなかったからかな」
まあ羽衣姉妹が目の前にいたら、誰でも興奮してお近付きになりたいよな。……と考えると、いきなり家に伺って弁当を食べた俺たちって、凄い迷惑な客になるのでは?
「その考えですと、いきなり家に伺ってお弁当を食べた俺たちはマイナス評価になるのでは?」
「それは結茜ちゃんから許可が出ていたから、マイナス評価にはならないよ」
「そうだよ!! 私が許可を出したんだから、御影くんは気にしなくてもいいんだよ!!」
「で、もう一つ気になった理由が、これなの! 滅多に男の子に懐かない結茜ちゃんが、家では雪翔くんの話を楽しくしているからね〜」
えっ……。結茜さんが俺のことを家で話してくれているの…?! それに男子に懐かない———確かに委員長の時も男子と一定の距離感を保っているように見えたな。
「お…お姉ちゃん?! なに出鱈目なことを言っているのかな!! 私が御影くんのことを話すなんて」
結茜さんは顔を赤くしながら、ないないと手を横に振っていた。
「それなら、どうして結茜ちゃんは慌てているのかな〜? 出鱈目なら慌てなくてもいいよね〜」
「それは…お姉ちゃんが…」
「それ以上の無言は肯定と捉えてもいいのかな?」
「お姉ちゃんの言い方の問題に腹が立っただけだから!! 別に慌ててないし」
何度目の姉妹喧嘩?いや、姉妹のじゃれ合いを見せられているんだろう。
それでも最近は素の結茜さんをよく見るようになったな…と思う。学校では知られていない(例外四人)結茜さんの姿を、自分だけに見せてくれるのは嬉しいな。
「とりあえず、初対面の日に変な視線を向けないでよかったと思いました。それがあったら、今こうしてお二人と一緒にご飯を食べることもなかったでしょうしね」
「そうだよ!! お兄ちゃんは私という者がいるのだから、女性耐性はあるもんね」
「今まで黙っていた奴が、急にしゃしゃり出てくるなよ。それに紫音は目をキラキラに輝かせていたからな?」
寧ろ、紫音のせいで七蒼さんに嫌悪感を抱かせていたかもしれないんだよな。まあ裏目にはならず、逆に気に入られたのは紫音のコミュ力が関係してそうだけどな。
「あの羽衣姉妹を目の前にして目を輝かせないなんて、その人には生きる価値はないよ」
「急に辛辣な言葉を言ってくるな」
「本当のことだもん」
「紫音ちゃん、私たちはそこまでの価値はないからね? 結茜ちゃんと楽しく撮影しているだけだし」
「そうそう。 だから、私たちに目を輝かせていないからって、生きる価値ないと言ってはダメよ?」
「結茜お姉ちゃんと七蒼お姉ちゃんが言うなら、私の考えは改めまーす!」
七蒼さんと結茜さんの言葉のおかげで考え直してくれたが、実の兄である俺の言葉には耳を傾けてくれなかったことが少し悲しかった。
「ほんと…辛い」
「御影くんは頑張っているよ! 紫音ちゃんのことや私たちのことを考えてくれているんだから!」
「結茜さん…ありがとうね」
その言葉だけで、いまの俺には癒しだ。
すると、七蒼さんがパンっと手を叩き、紫音の方に微笑してきた。
「それじゃあ、紫音ちゃんは今から語尾を付けて話をしてね!」
「うっ…うん?! その罰ゲームはメールの時だけだったのでは?!」
「そうだったんだけど、急に紫音ちゃんの“にゃん“か聞きたくなったから…お願いね!」
手を合わせながら優しく微笑してきた。
この笑顔をされた紫音は当然、
「分かりました…にゃん」
こうなるのだった。
「それじゃあ、結茜ちゃんと雪翔くんも語尾に“にゃん“を付けて話をしてみて〜!」
「どうして俺まで?!」
「それを言うなら、私にまで飛び火が来ているんですけど〜!!」
「三十分だけでいいから、お願いね!」
もちろん、俺も妹の結茜さんも七蒼さんの笑顔には負けるので、
「三十分だけですからね…にゃん」
「お姉ちゃん…許さない…にゃん」
こうなるのだけど、結茜さんの語尾付けは破壊力抜群だった。紫音も隣で悶絶していた。
それから三十分間は地獄のトークが行われ、15時頃に俺たちは解散となった。
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