第13話
こちらに三人が向かって来ているのが分かった俺は、人の邪魔にならないように壁際のベンチへと移動した。
移動したことに気付いた紫音は中之庄姉妹に一言言うと、一人だけこちらに向かって来た。
「これ、お兄ちゃんのお水ね」
「ありがと…じゃなくて、結茜さんたちがいる理由を、俺は知りたいのですけどね〜?」
紫音から水を受け取りつつ、俺は二人が来ている理由を聞いた。まあ紫音と七蒼さんの共謀だとは思うけど、本人の口から聞かないと分からないしな。
「偶然、スポーツジムの入り口にいた!」
「本当は?」
「七蒼お姉ちゃんとメールしてた時に、お兄ちゃんがジムに行く話をしてきたから伝えたの。そしたら、七蒼お姉ちゃんが結茜お姉ちゃんを連れて行くねって返信きたから待ち合わせしていたの」
「素直に答えるのかよ!! 次も遠回しで答えてくると思ったぞ」
「そんなことする訳ないじゃん〜! 時間の無駄になる訳だしさ〜!」
まあ…いいか。大体予想は付いていたし、別に驚くことではない。
「とりあえず、結茜さんたちが来ることを事前に教えてほしかったんだが?」
「そんなことをしたら、お兄ちゃんにサプライズにはならないでしょ?」
「別にサプライズにする理由がないだろ…」
紫音に呆れながらに言っていると、受付を終えた中之庄姉妹がやって来た。
そして七蒼さんは何の躊躇いもなく俺の横に座り、微笑すると口を開いた。
「雪翔くん〜 紫音ちゃんを怒らないであげてね? 今回の件は私が提案したことだから、ね?」
紫音ではなくて、七蒼さんの提案なの?
俺は半信半疑のまま紫音の方に視線を向けると微笑しながらサムズアップをし、結茜さんの方を向くと小さく頷き苦笑してきた。
確かに七蒼さんの提案らしいが……。
その提案に紫音が乗った時点で同罪だな。
「分かりました」
紫音は嬉しいようでガッツポーズをした。
「怒ることはしませんが、何かしらの罰ゲームは用意しておきますね」
紫音はその場でガクリと膝から崩れ落ちた。
(リアクションが面白すぎるだろ)
とりあえず罰ゲームと言っても、そんな厳しいものにするつもりはない。だって、俺が考えるのが面倒くさいからだ!!
「もし宜しかったら、七蒼さんが罰ゲームを考えてもいいですよ?」
「えっ!! 本当にいいの?」
「俺なんかより七蒼さんに考えてもらえた方が、紫音も嬉しいと思いますし」
「任せて!」
七蒼さんはサムズアップをして、ウキウキしながら紫音の元へ話し掛けに行った。
これで紫音への罰ゲームはご褒美に変わったかもしれないが、紫音が喜んでくれるならそれでいい。
すると、肩を叩かれた。
視線を向けると、呆れた顔をした結茜さんがいた。
「お姉ちゃんに罰ゲームを任せるなんて、大変なことをしたわね」
「……えっ? どうゆうこと?」
「お姉ちゃんの考える罰ゲームは大体が語尾に鳴き声を付けることなの。最近ハマっているのが“にゃん“だから、罰ゲームはこれになると思うよ」
語尾に鳴き声を付ける…だと?!紫音はともかく、結茜さんや七蒼さんがやっているのを想像しみると———
「御影くん。ニヤニヤして気持ち悪いよ」
こんな風に女子から引かれた言葉を送られてくるんだよね。
「ごめん、気が緩んでいた」
俺は頬を両手で軽く叩き、深呼吸をしてから言葉を続けた。
「それよりも、よく七蒼さんの罰ゲーム事情を知っているね。兄弟姉妹でも知らないことが多いいことがあるじゃん?」
「私の場合は家でゲームをしていた時にお姉ちゃんが参戦してきて、そして私が負ける」
「つまり?」
「私がお姉ちゃんの罰ゲームを受けている」
結茜さんはその時のことを思い出したのか、恥ずかしそうにしながら語った。
「その…大変だったね」
「本当だよ… あれはアニメのキャラがやるのが一番効果的なのに、私がやっても可愛くないでしょ?」
「えっと…」
確かにアニメのキャラがやったら可愛いけど、結茜さんも可愛いのでは?ファンの間で“幻の妹“と呼ばれているから、絶対に負けないと思うけど。
「可愛い…のでは?」
「 !? けっ…結構、生意気なことを言うのね」
そんなことを言いつつ、半分照れているように見える結茜さんの方はどうなんですかね?
とは言えないので、簡単に言い返す程度にした。
「どこが生意気なんですか?!」
「そんなことは知らなくていいわよ。それよりも、お姉ちゃんたちの話が終わったみたいだよ」
また話題を変えたと思いながら、二人の方に視線を向ければ、満面の笑みをしている七蒼さんと何かぶつぶつ呟いている紫音が目に入った。
「罰ゲームは決まりましたか?」
「もちろん! 私の提案した罰ゲームを快く引き受けてくれたよ!」
「お姉ちゃん、何の罰ゲームを言ったの?」
「そ・れ・は…私とメールする時は語尾に“にゃん“を付けることです!!」
「「……」」
俺と結茜さんは視線を合わせた。
そして結茜さんが「でしょ?」と感じに目で訴えて来たので、俺は小さくて頷き苦笑した。
「それじゃあ、私と紫音ちゃんは一緒にウォーキングしてくるから、お二人さんは自由にしててね〜」
「お兄ちゃん…私、頑張ってくるね」
「お…おう」
死んだ魚の目をした紫音は、七蒼さんにランニングマシンに連れて行かれてた。
(頑張れ紫音! 逆に考えれば推しの人とトレーニングが出来るんだぞ!)
そして俺は結茜さんの方に視線を戻した。
「俺たちはどうしようか?」
「そうだね… とりあえず、フィットネスバイクでもやりながら話さない?」
「いいよ」
俺と結茜さんはフィットネスバイクへと移動した。そして設定を終え、漕ぎ始めた瞬間、結茜さんが先に口を開いた。
「あれから一週間… 鬼頭さんと佐伯くんは私のことを言わないでくれているけど、本当に信用しても大丈夫だと思う…?」
まあバレたのは私のせいだけどね、と苦笑しなが続けて言った。
確かに最初バレた時は俺もやばいとは思ったけど、翌日の教室は至って普通だった。このことから二人は秘密を守ってくれたと分かる。
それでも結茜さんは心配なんだろう。
「だけど俺たちだって、あの二人の秘密を知っている訳だし少しは大丈夫だと思うよ」
「そう…だよね。 それならいいんだけど」
歯切れが悪いな。まあ心配になるのは分かるけど、どっちが心配なんだろう?
「鬼頭さんと佐伯くん、心配なのはどっち?」
「………鬼頭さん」
「確かに…」
カースト上位の女子は何でもかんでも友達に話をするイメージがあるもんな。
(それで、いつの間にか噂が広まって、クラスでの肩身が狭くなるんだよな)
ほんとカースト上位の女子は怖い。
「とりあえず、現状は様子見でいいんじゃない?」
「それじゃあ〜 もし何かあったら、御影くんが全部対処してくれるのかな〜?」
「そ…それは…出来る限りのことはするよ…」
この秘密がクラスにバレるとしたら、鬼頭さんたちが言うか、結茜さんの自爆。俺は他人の秘密は絶対に守るから除外した。
そして俺が『様子見』と言った以上、その時の対処は手伝うのは当然だ。
結茜さんは微笑した。
「その時は頼んだよ? 雪翔くん!」
「 !? 」
突然の名前呼びに顔が熱くなるのが分かった。
そして俺が何かを言い返そうとした時、別行動していた紫音と七蒼さんが戻って来た。
「二人ともお待たせ〜!」
「あれれ〜? お兄ちゃんの顔が赤いけど、どうしたのかな〜?」
「本当だー!! 雪翔くんの顔赤いよ〜!」
二人して俺を揶揄わないでくれ…!!
「別に…顔赤くなってないし」
「嘘だ〜! お兄ちゃんが視線をずらしている時は、何か隠している時だと知っているんだからね」
「雪翔くんにそんな理由があったなんて、結茜ちゃんも覚えておくのよ!」
「そこで私に振る理由が分からないけど、一応記憶には留めておくよ」
「もう…三人とも辞めてくれ〜!」
そして俺たちはトレーニングジムを退室し、近くにあるファミレスへと移動することになった。
(滞在時間…二時間半)
俺の筋トレ予行練習は三人(主に妹)によって、何の成果のないまま終わったのだった。
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