第10話

 室内に入って来たのは、同じクラスメイトの鬼頭静香と佐伯七音なおとだった。


「(どうしてあの二人がここにいるの?! 先に帰るって言ってたよね?!)」

「(結茜さん、落ち着いて。 それよりも気になるのは二人の関係の方じゃない?)」


 結茜さんを落ち着かせつつ、改めて二人の方に視線を向けた。


(カースト上位の鬼頭さんと佐伯くんの関係性が気になるな。どう考えても接点がないし、隠れて会っていることにも引っかかる)


 そう、俺たちみたいだ。秘密を共有した者同士で集まり、そして密会をする。


「あっ……先客がいた」

「静香。その先客はクラスメイトの御影くんだよ」


 そう言われると、鬼頭さんは俺の顔をジーッと見て、そして佐伯くんの方に視線を戻した。


「やばいじゃん。私たちの関係が、ついにクラスメイトにバレてしまったということじゃん」

「それは静香が何も考えずに扉を開けるから、後々面倒くさいことになるんだよ」

「ここの空き教室は人が来ないで有名だったはずなのに〜!!」

「リサーチ不足だな」


 二人の会話を聞いて思ったのは、俺のことは気付いていても、結茜さんのことは気付いていないことだ。まあ学校での姿と目の前の姿では全然違うから当たり前なんだけど、モデルの方でバレるとは微かに思っていたんだけどね。


「(御影くん、この状況どうする?)」

「(結茜さんのことはバレていない様子なので、結茜さんは先に教室を出ますか?)」

「(そうだね。バレる前に退散すれば、あとは御影くんが頑張ってくれるもんね)」

「(その頑張りが大変なんですよ)」


 結茜さんは鞄を手に取り、「では、お先に」と扉から出ようとした時、


「何逃げようとしてるのかな? 中之庄結茜さん」


 鬼頭さんが結茜さんの手を掴み、満面の笑みを向けて引き止めてきた。


「な…何のことですか? それに中之庄結茜って誰のことです? 人違いだと思いますけど」


 うん…。頑張ってはいるんだけど、目が泳いでいるから、自分が中之庄結茜だって自白しているんだよね。ほら、鬼頭さんの顔がニヤけてきたし。


「校外学習のルート決めを委員長に頼んだけど、ちゃんと決めてくれたかな〜?」


 おや?鬼頭さんが何やら仕掛けてきたぞ。

 確かに本人であれば反応して返事を返してくれると考えるな。それで当事者の本人である結茜さんはどうかな———あっ、ダメだ。体が震えている。


「委員長は真面目だから、ちゃんとルート決めはやってくれているよ。まあ周囲の人達に合わせて、適当に決めてくれてもいいんだけどね」

「だよね! 校外学習なんだし、集合場所までは自由に行動したいよね!」


 その言葉を聞き、結茜さんは壁に手を置きながらダメージを受けていた。

 頑張れ…!ここで耐えれば、二人には正体をバレずにやり過ごせるぞ!!


「それより、その人が委員長だってほんと? 見た目とか殆ど違うけど」

「間違いない!! 確かに見た目は違うけど、委員長の時のオーラが出ているから!!」

「俺にはオーラが見えないけど、静香が言うんだったら間違いないんだろうね」


 佐伯くん…?どうして鬼頭さんの言葉を、そこまで信じられるの?


「そろそろ教えてくれないかな〜?」

「……」


 結茜さん悩んでいるな。ずっと手を握られている状態だから逃げられないのは分かっているけど、カミングアウトをするべきか…と。それをチラチラと俺の方に視線を向けて助けを求めるのはやめてほしいな。俺だって分からなくて困っているから。


 なので、俺は一つ頷いた。

 それはカミングアウトするしかないという意味だ。ここまで来たら逃れられないしね。


「分かった。とりあえず、手を離してくれない?」

「あっ、ごめん」


 鬼頭さんが手を離すと、結茜さんは一つ深呼吸して二人の方に視線を向けた。


「鬼頭さんの予想通り、私は中之庄結茜だよ」

「ほら〜! 私の言った通りだったでしょ!」

「マジか…全然見た目が違うじゃん」


 佐伯くんの言いたい事は分かるぞ。俺も初見の時は見た目が違くて驚いたもん。


「その姿を見て思ったんだけど、もう一つ委員長は秘密を隠しているよね?」

「こ、これ以上は秘密なんてありませんけど?!」

「秘密は無いって言っているんだから、あまり委員長を揶揄うなよ」

「私は揶揄っていないよ。委員長が話さないなら、私から言うけどいいの?」

「な、何のことでしょうかね?」


 結茜さん…それだとボロが出ているよ。

 てか、鬼頭さんってクラス内ではカースト上位にいながら人との関わりを大事にしているイメージがあったけど、ここまで凄かったとは。


「ズバリ!!その姿は羽衣結茜の姿!!つまり中之庄結茜=羽衣結茜は同一人物である!!」


 結茜さんのことを探偵風に指差しながら、自分の推理を語っていく鬼頭さん。

 

 その光景を見ながら、何故か拍手をしている佐伯くん。……なんで?


「証拠は…?」

「何だって〜?」

「だから、私が羽衣結茜という証拠を出しなさい」

「ふふふ…いいでしょう。これが貴方が羽衣結茜という紛うことなき証拠だー!!」


 鬼頭さんが出してきたのは、スマホに映し出された一枚の写真だ。ただの写真なら問題はないのだが、この写真が羽衣結茜が写っている写真だった。


「その写真がどうしたの? 私と見比べるつもりなのかしら?」


 それは墓穴を掘るのでは…?!と思っていると、結茜さんがチラッと視線を向けてきた。

 そして鬼頭さんが写真に視線を向けている隙に、俺の方に口パクしてきた。


(えっと…あ、い、お、お、う…?)


 それは何だ?何かの暗号になるのか?

 いや、結茜さんが口パクで、そんな器用なことはするとは思えないな。となると———『大丈夫』と言っていたことになるな。……俺って凄くね?


「見比べるつもりだったけど、写真と見比べたら確定だったよ」

「これは…確かに言い訳が出来ないね」


 結局、『大丈夫』と言いながらも、鬼頭さんたちに見破られるんだよなぁ。そうじゃなくても、途中から反論が弱くなってたし、時間との問題だったかもしれないな。


 結茜さんはその場に崩れ落ちた。


「くっ…バレるはずではなかったのに」

「結茜さん。バレるバレない以前に、もう少し表情を出さないようにしましょうね」


 俺は結茜さんの元に近寄り、肩に手を置いて話し掛けた。


「そんなに顔に出ているの…?」

「顔にも出ていますし、体もかなりソワソワしていましたよ」

「うっ…それは隠しきれていないね」

「ですね」


 俺は苦笑した。

 すると、後ろから声を掛けられた。


「ずっと気になっていたんだけど、中之庄さんと御影くんってどんな関係なの?」

「あっ、俺も気になっていたんだよ。 普段から一緒にいる所を見たことないから」


 どうやら次に質問攻めに合うのは俺のようだ。

 だが、俺も二人に聞きたいことがあるから、それを踏まえて答えていこう。


「質問に答えるのはいいけど、まずは二人の関係を教えてくれないかな?」


 その質問をすると、二人は急に固まった。


 

 

 

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