第9話

【結茜:空き教室に集合!!】


 月曜日。普段と変わらない学校生活を送り、家に帰ろうとしたら、結茜さんからメールが届いた。


(何の呼び出しだろ…?)


 そう思いながら階段を登り、三階の空き教室に着いた。そして扉を開くと———座席で何かを調べながらまとめている結茜さんがいた。あと真面目委員長から幻の妹に既に戻っていた。


「お待たせ。それで俺を呼んだ理由は?」

「遅〜いよ。これを見たら分かるでしょ?」


 校外学習関係だったか。この学校は大型連休明けの一週間後に校外学習を行い、二週間後には中間テストがあるから五月はなかなかのハードスケジュールなのだ。


「校外学習のルート決めだね」

「他人事のように言っているけど、御影くんも私と同じ班なんだから関係あるんだよ?」

「関係はあるけど、ルート決めに関しては結茜さんが率先してやるって言ってたんだよ?」


 校外学習では各クラス六班四人で行動することになる。その班分けで俺は結茜さんと同じ班になれた。知らない人となるより、一人でも知っている人がいると安心するから、ほんと良かった。


「そうなんだけど…思ったよりルートが決まらなくて、やっぱり意見は大事だなと思ったの」

「確かに意見は大事だけど、残りの二人がどんな意見をくれるかが問題だな」

「そうなんだよね〜」

 

 結茜さんが頭を悩ませるのは無理もない。


 残りの二人の内、男子の方は平均値の男って感じで質問すれば意見をくれるだろう。もう一人はこの間お土産をくれたカースト上位の女子だ。彼女に至っては『何処でもいいよー』って感じなので、実際意見を聞かなくても大丈夫だとは思うけど。


「それで二人には連絡したの?」


 結茜さんは横に首を振った。


「二人の連絡先は知っているんだよね?」

「知っているよ」

「なのに連絡をしていないって…意見を聞く気はあるんだよね?」

「聞く気はあるけど、聞きにくくて…」


 結茜さんは遠い視線を向けながら苦笑した。


 まあ自分に任せてと言った手前、あとで意見を聞かせては難しいわな。


「仕方がない… 俺たち二人で決めようか」

「助かります」


 俺は結茜さんの対面に座り、ルートプリントに目を通した。ルートはお昼までが自由行動で、午後からは一学年全員で水上バスに乗ることになっている。結茜さんが悩んでいたのは午前の部分になる。


「午後の集合場所が赤レンガ倉庫だから、その間の区間を歩くとして外せないのは中華街だな」

「中華街ではお昼を食べる予定だよ。その間の区間には何があるかな?」

「現地の様子は分からないから、当日は気になる場所を歩く感じでいいんじゃない?」

「でもルートをプリントに書いて提出だから、そんな風には書けないよ?」


 どうせ他のグループも適当にルートを書き、当日は違う道を歩くだろう。だから俺たちも簡潔なルートでいいと思うけど、結茜さんが納得してくれるかだな。


「多分、他の班も適当にルートを書くと思うから、俺たちもルートだけは簡単に書けばいいんじゃない?」

「う〜ん」


 あまり納得した様子ではないな。

 だけど、この方法ならルートに悩まずに書き終わるから難しくても納得してもらわないとだな。


「納得は出来ないかもしれないけど、早く終わらせるには簡潔に書くしかないよ」

「だよね〜」


 簡潔に書いてみるよ、と言った。

 そして結茜さんは止まっていた手を動かして、プリントにルートを書いていく。


 それから数分が経ち———


「書き終わったー!!」


 と結茜さんが両手を上げながら言った。


「お疲れ様。これで校外学習関係は一通り終わったことになるのかな?」

「提出物は終わりだね! あとは班全体に連絡するだけだけど、これは明日でいいでしょ」

「まあ連絡することではないし、報告は明日でもいいと俺は思うよ」

「だよね!それなら〜」


 とニヤニヤしながら、結茜さんはプリント類を片付けると、俺の方に視線を戻して言葉を続けた。


「少しの間だけ話をしない? 時間は大丈夫?」

「全然大丈夫だよ」


 現在の時刻は午後16時30分。少しだけ話をするくらいなら問題がない時間だ。

 それより話の内容が気になるな。結茜さんとはよく話すようになったけど、こう改まった形で言われると少し緊張してしまう。


「それで話をするって、どんな話をするの?」

「まずは昨日の話からね。 改めて、ナンパ男から私を守ってくれてありがとうね。これで二回目だね」

「どっちも俺自身が、結茜さんを助けたいと思っただけだから、そんな畏まらないでね」

「ふふふ、ありがとう。 でも一回目の時に助けてくれなかったら、私は男性不審になっていたかもしれないし、二回目のナンパ男の時は男性恐怖症になった可能性もあったかもしれないよ」


 二回とも未遂で終わっているが、助けがなかったらその可能性もあったかもしれない。

 だからこそ、改めて結茜さんを助けられて良かったと心から思う。友人としてね。


「なら、助けられて良かった。もし助けられなかったら、結茜さんのファンにどんな事を言われていたか想像ができないな」

「私のファンはそんな酷い事を言わないからね? でも恨まれたりはしていたかもね〜」

「それを笑顔で言う結茜さんが一番怖いですよ」


 でも過激なファンの人ならやりそうだな…。

 想像しただけで寒気がする…。


「とりあえず前回と今回のは完全なるプライベートだから、表沙汰になることはないから安心して。それでも、何故か情報が出てくるんだけどね」

「情報統制や情報漏洩は徹底してくださいよ」

「その辺は事務所がちゃんと守ってくれるはずだから大丈夫!!」

「そうですか」


 多分だけど、結茜さんに関する情報がいつか出てきそうだな。芸能ゴシップの人達によってね。


「それで話は変わるけど、美少女戦士の新フォームのガチャ情報がさっき更新されていたよ!!」

「それは確認済みさ!」


 突然話題が変わり驚いたが、その話題は俺も大好きな美少女戦士だったのですぐに対応できた。

 何故なら、公式SNSの通知をオンにしているからだ。アニオタは情報も命だしね!


「流石、御影くんだね!」


 あっ、名前が元に戻っている。

 まあ約束はお出掛けの時だけだったから仕方がないけど、ちょっと寂しいかな。


「新フォームは絶対に手に入れたかったし」

「私だって欲しかったから確認していたけど、御影くんに負けたのは悔しいなー!!」


 結茜さんは唇を尖らせた。


「いや、何処に勝負があるの?!」

「どちらが先に新情報を伝えられるか」

「それなら勝負ではなくて、情報交換でいいのでは? 互いに推しアニメなんだし」

「そうなんだけど、何か負けたくないじゃん?」

「俺はそう思わないけどね」


 実は結茜さんって、アニメに対しても負けず嫌いが発揮するのか?定期試験だけではないのか。


 そんな事を考えていると———


「ここなら誰も来なくて話せそうじゃない?」

「本当に入って大丈夫なの?」


 扉から男女が教室内に入って来た。


「「 !? 」」


 俺たちは同時に視線を向けると、そこにいたのはクラスメイトで、校外学習では同じ班になっていた二人だった。


 

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