第9話:社畜、後輩女子とフェンリルの朝散歩をする


「うーん……はっ!」


 目覚ましがなる1分前ぐらい。身体が反射的に目を覚まして、俺はうるさいアラームが鳴る直前のところで止める。うーん、今日は二日酔いにならずにすんだっぽい。昨日よりはまだマシだ。


「ワンワン」


「おはようフィル。お前はもう起きてたのか」


「ワワワワーン」


「はいはい、水飲んだら散歩に行こう。あ、そうだ。朝倉さんは——」


「先輩、お水です!」


「ありがとう朝倉さ……え!?」


 自然な流れで水を受け取ってそれを飲んでしまったが、朝倉さん俺より先に起きてたのかよ!? あんなにぐっすり眠ってたのに……しかも俺より元気そうだし、もう化粧とか済ませてるみたいだ。


「昨日は色々ありがとうございます。先輩に家で寝かせてもらったみたいですし、お水も近くに置いといてくれて助かりました。それに、なんだか気を使って先輩を庭で寝かせてしまったみたいで……」


「いや、気にしなくていいよ。フィルがここに誘ってくれたから寝ただけだし。朝倉さんこそ昨日は楽しかったよ、ありがと」


「え、えへへ……そう言ってもらえるとすっごい嬉しいです! そうだ、今から先輩お散歩に行くんですか?」


「うん、家の近くにあるダンジョンで毎日散歩してるんだよ。朝倉さんもくる?」


「はい、ぜひ!!! フィルちゃんとお散歩楽しみ〜ねー、フィルちゃん!」


「ワンワン!」


「よし、行くか」


 そして俺たちは家の近くにあるダンジョンの中に入って、第一階層の中をのんびりと散歩した。ここは相変わらずモンスターは出現しないし、フィルが思いっきり走り回れる草原が広がっているから気楽に散歩できていい。


「へぇ、家の近くにこんなダンジョンが……。企業が介入したりはしてないんですか?」


「ここは地元の人もほとんど知らないような無名なところだから。まぁなぜかこの前は変な配信者が暴れてたけど……」


「あ、ここでフィルちゃんと先輩が大活躍したんですね! でも不思議。どうしてあの配信者はこのダンジョンを選んだんでしょう?」


「うーん、邪魔が入らないと思ったんじゃない? 人が来ないしここ」


「確かに……あ、フィルちゃんまってー!」


「ワワワンワンワーン!!!」


 フィルにつけるリードはまだ見つからないので、いまだに散歩中野放しにしている状態なのだが、フィルはたまに突然走り出したりして俺を困らせようとしてくる。

 いや、ただ単に本能のまま動いているだけかもしれないけど……。


「や、やっと追いついた……フィルちゃん早いよー」


「ほんと身体能力とんでもないよなお前……よしよし」


「くーん」


「お前、また餌が欲しいのか? 全く……そうだ、朝倉さん餌あげてみる?」


「いいんですか!? じゃあフィルちゃん、大好きなビーフジャーキーだよー!」


「ワン!」


「きゃああああああああもぐもぐしてるところ可愛いいいいいいいいいい!」


 どうやら朝倉さん的に自分で餌をあげて可愛く食べているのが相当嬉しかったらしく、めちゃくちゃ嬉しそうにしている。よかった、フィルと朝倉さんが仲良くしてくれて。


「先輩、本当にフィルちゃん可愛いですね!」


「だろ」


「あ、先輩が親バカみたいになってる! 先輩も本当にフィルちゃんが大好きなんですね〜。そうだ先輩、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「ん、いいけどどうしたの?」


「先輩って配信活動始めないんですか?」


「…………え?」


 は、配信活動? なぜ? いや、そもそも俺全く配信とかに興味ないから全然知らない世界なんだけど……。


「ごめん朝倉さん。俺、そもそも配信とか見ない」


「そうだったんですか!? なるほど、だから始める気配がなかったわけだ……。これみてください先輩、先輩とフィルちゃんの配信を望んでいる人たちの声です!」


「またまた、そんなものがあるわけ……」


———

【超速報】謎の犬、迷惑系配信者が解き放ったSSSS級モンスターを瞬殺してしまうwwwwwwwwwなお飼い主も男らしいと評判の模様wwwwwww part20


890:名無しさん

配信してくれフィルと飼い主いいいいいいいいいいい!!!


891:名無しさん

おいおい、俺たちがこいつらをみれるのはこれっきりか? 寂しいぞ……


892:名無しさん

神様仏様、どうか俺たちにフィルたちをもう一度見る機会をください!


893:名無しさん

ああ、また今日も配信がない……目撃情報もない……泣く


894:名無しさん

どこにいるんだ俺たちのフィルと飼い主いいいいいいいいいいいいいい!!!

———


 え、なにこれ。なぜか知らんが俺たちのことをやけに渇望している奴らがたくさんいるんだけど。しかもpart20!? これって掲示板の中でもかなり俺たちが話題になってるってことだよな……。


 やばい、俺の想像以上にあの動画は反響があったんだ。


「多分これだけ話題になってたら配信始めてすぐにでも人気になれると思うんです。お金も稼げると思いますし……あ、でも会社は……やめて欲しくはないですけど」


「でもそれってフィルの人気にあやかって金稼ぎするみたいで嫌だな。ん、またビーフジャーキー欲しいのか? ほら、よく噛んで食べろよー。……もうなくなるな、フィルの食費やばいぞこれ」


「それです! 先輩、フィルちゃんの食費を稼ぐためにも配信しましょう! どうせうちの会社は大した給料くれませんし、このままじゃ先輩の生活が圧迫されちゃいます!!!」


 悲しいことを言うけど、朝倉さんの意見はもっともだ。確かにこのまま俺の給料だけでフィルの食費を賄い続けるのは現実的じゃないかも。

 このままフィルに満足な食事を与えられないってのは一番嫌だし……よし。


「じゃあちょっと試しに今度やってみるよ。アドバイスくれてありがとう朝倉さん」


「いえいえ! 私も先輩たちの配信が見たくて見たくてしょうがなかったので、嬉しいです。やった、これでフィルちゃんも先輩も毎日見れる……!」


「ん、どうしたの朝倉さん?」


「なんでもないですよ。そうだ、そろそろ戻らないと会社に遅刻しちゃいます、帰りましょうか」


「そうだね、よしフィル。入り口まで競争するか!」


「ワワンーン!!!」


「ちょっ、お前少しは手加減しろ、早すぎだってえええええ!」


=====================

【大事なお願い】


 よろしければ星やフォローをよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る