第8話:社畜、後輩女子とお酒で盛り上がる


 数日前の俺なら、きっと今起きている状況を聞いても「そんなわけないだろ、仕事ばっかりしすぎて頭がおかしくなったか?」と答えるだろう。


 そもそも今だって信じられない。朝倉さんが俺の家で夜ご飯を作っているだなんて。


「ふふんふーん」


 何か手伝おうかと言ったら「私に全部任せてください!」と言われてしまったため、フィルと一緒にできるのを待っている間に朝倉さんをついつい見てしまう。


 台所で鼻歌交じりに料理を作っている朝倉さんは随分と楽しそうで、なおかつ可愛らしい。それに料理もいい香りがしてきてお腹がすいてきた。

 フィルも料理のいい香りで食欲がそそられたのか、ヨダレを垂らし始めたし。いや待て、お前はさっき夜ご飯あげただろ。


「先輩、お待たせしました。生姜焼きの完成です!!!」


 ニコッと笑いながら、朝倉さんは食卓に作ってくれた生姜焼きを置く。それに加えてあとは味噌汁も作ってくれたらしく、それと白米も食卓に並んだ。


 おお、料理を作っている段階からすでに美味しそうな香りがしてたけど、完成したものを見たら確信した。これは絶対美味しい。


「さぁさぁ召し上がってください先輩!」


「それじゃあ……いただきます!」


 食前の挨拶を済ませて、早速俺は朝倉さんの作った生姜焼きを食べてみる。んんっ! 醤油ベースのタレがうまいこと肉に絡まって、なおかつ玉ねぎが食感に多様性をもたらしている。ご飯との相性も最高だし、味噌汁も落ち着いた味で最高だ!


 これは、めちゃくちゃうまいぞおおおおおおおおおおおおおおお!


「美味しいよ朝倉さん! 料理上手なんだね」


「えへへ〜昔からよく作ったりしてたので。先輩に美味しいって言ってもらえて嬉しいです!」


「これはお酒が欲しくなる……そうだ、朝倉さんもお酒飲む?」


「いいんですか? じゃあいただきます!」


「了解。いろいろ種類あるけど、何飲む? ジムビール、焼酎ハイボール、トリス、角ハイボール……あとは……あ、ハイボールしかないや」


「あっはははは! 先輩本当にハイボールが大好きなんですね。そしたら角ハイボールください、私もそれ好きなんですよ」


「朝倉さんもハイボール好きなんだ、よかった」


「そうです! だから先輩、今度機会があったら一緒に飲み行きましょうね! それじゃ、かんぱ〜い!」


 お互いの缶を当てて乾杯したあと、俺たちはグビグビとハイボールを体の中に流し込む。ぷっはぁ〜これこれ。これだよ、やっぱ仕事終わりにはハイボールしか勝たんわ〜。


「先輩いい飲みっぷりですね、私も負けてられません!」


「おお、朝倉さんもいい飲みっぷり! なら俺はもっと飲んじゃうか!!!」


「ワンワンワン!」


「おお、フィルもお酒飲みたいか!? でも流石にそれはダメか……よし、ならビーフジャーキーたくさん食え!」


「ワワワワーン!!!」


 酒と楽しい空気に飲まれた俺らは、多分いつもでは考えられないぐらいはしゃいだ。フィルもたくさんビーフジャーキーをあげたことで、尻尾がもうちぎれるぐらいフリフリするぐらいハイテンションになっている。


「いやーフィルちゃん可愛い〜! いっぱい写真撮っちゃおーっと! それと先輩の飲みっぷりも保存しちゃおー!」


「おお、残せ残せ! 俺も朝倉さんがなんども見返したくなるような飲みを見せてやる!」


 お酒とは恐ろしいものだ。飲めば飲むほどテンションが上がり、普段の自分では考えられないような奇行を行なってしまう。実際今の俺も、まだ多少理性が残っているから自分で変なことしているなぁとは思うんだけど……。


 それを止めるブレーキはとっくにぶっ壊れちゃった♪


 朝倉さんも想像以上にお酒を飲むので、ストックしてあったハイボールがものすごい勢いで減っていく。


「しぇんパーイ、私もここに住んでいいですか〜。毎日フィルちゃんモフモフしたいですし、先輩と楽しく晩酌したいです〜」


「おおいいなそれ!!! 俺も朝倉さんとこうやって飲むの楽しいからしたいわ〜」


「えっへへへへへへ〜先輩からそう言ってもらえてうれぴー。ねーフィルちゃーん、私たちお似合いかなぁ?」


「わん」


「えー、その反応は肯定的なの〜? もしかして、私に先輩とられるの怖い〜?」


「わわん? く〜ん……わん」


「あ、やっぱりフィルちゃん先輩のこと気に入ってるのかぁ、寂しそうな顔しちゃって、このこの、モフモフ気持ちい〜…………」


「……あれ、朝倉さん?」


「すう……すう……」


 フィルにもたれかかるように、朝倉さんは静かに寝息を立てて眠ってしまったらしい。それに気づいた瞬間、俺は少し酔いが覚めた。


 しまった……調子に乗って飲みすぎたぞ俺ら!? やばっ、冷蔵庫の中にあったハイボールが半分以上なくなってる。やっちまったな、普段人と飲まないからペース配分間違えた……。


「ワンワン」


「ごめんなフィル。とりあえず朝倉さんを起こすか。朝倉さん、起きて」


「……すう、すう」


 ダメだ、全く起きる気配がない。朝倉さんも相当飲んでたからな……やべぇ。このままだと朝倉さん家に帰れないじゃん。


「どうすっかな……。家に泊まってもらうにしても、変なことをしたって思われるのも困るし……」


「ワンワンワン」


「ん、庭の方がどうした……あ、もしかして俺が庭で寝ればいいってか!?」


「ワン」


 とんでもない提案だが、ない案でもない。朝倉さんには寝室で一応来客用の布団があるからそれで寝てもらおう。

 で、俺もそこで寝るわけにはいかないから他の場所で寝なくてはいかないんだが……ま、庭で寝るのも悪くないか。ちょうど親父が残したキャンプ用の寝袋もあるし。


「よし、それじゃあ朝倉さんを寝室に連れて行くか。フィル、先に庭行ってくれ」


「わん!」


 先に寝室に布団を敷いた後、朝倉さんをお姫様抱っこで寝室まで連れて行って寝かせた。一応朝起きた時に二日酔いになっているかもしれないのでペットボトルの水も置いておこう。


「さて、次は寝袋を……よし、あった」


 そして倉庫から寝袋を取り出し、俺はそれを庭に置いて中に入る。おお、あったかくていいなこれ。


「くーん」


 するとすぐ隣でフィルが寝転んでくっついてきた。もしかして、一緒に寝たかったから庭に誘ってきたのかな?


「よしよし、フィル。おい見ろよ、星がよく見えて綺麗だなぁ」


「くーん? わん!」


 庭から上を見上げると、雲ひとつない夜空からいくつかの星がキラキラと照り輝いているのが見えた。きっとこれはフィルが誘ってくれなかったら見れなかった景色だろう。


「ふわぁ……。よし、寝るかフィル。スマホのアラームは……よし、つけた。朝の散歩の時間に起きなかったら起こしてくれよ」


「ワンワン!」


「お前はいつでも元気だなぁフィル! ほんと、お前にはいっぱい元気をもらってばっかりだ……ふぁああ。おやすみ、フィル」


「わん」


 そして俺は寝袋の中で、フィルと横並びになりながら眠りについた。


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