第3話:社畜、ダンジョンでフェンリルと散歩する


 ダンジョン。それは、モンスターの生息する異世界と繋がる、21世紀中期ぐらいに突然世界中に現れた俺たちにとって非日常の存在。


 過酷な難易度を誇り、人類への試練と呼ばれるところもあれば、企業が介入してエンターテイメント施設になっているところ、誰にも入られることなく存在を忘れ去られているところなど、ダンジョンには様々な種類がある。


 特に最近はダンジョンの中を配信する活動が流行っているらしい。俺はあんまりそういう配信は見ないけど、以前親の出身である田舎に帰省した時、配信にすげーハマっている年下のいとこから何度か見せられたことがあるから雰囲気はわかる。


 そういえば、あいつ配信者になりたいと言って爺さん達と喧嘩してたな……。まぁあいつは配信者になったら強すぎるが故に色々と問題起こしそうだし、やらないほうが正解か。今頃何してんのかなぁ、ミヒロ。


「ワンワン!」


「おっと、ごめんな。ちょっと考え事してた。さ、ここならフィルも思いっきり走り回れるぞ」


 俺たちが訪れたダンジョンは、家の近くにある裏山にある。東京都は思えない、良くいえば自然豊かなこの場所が俺は好きだけど、大体の人はわざわざここに入ってくることはない。


 故に、ここにあるダンジョンは忘れ去られた場所と言っていいだろう。実際、ダンジョン検索サイトでもここは登録されていない。


 まぁ、俺もガキの頃親に連れてかれて何度か入ったことあるし、特に危険な目にあったこともないから何も問題はないはず。


「ワンワンワンワン!!!」


「お、もう待ちきれないってか? よし、行くか。ダンジョン突入だぁ!」


「ワワワワーン!!!」


 そして俺たちは早速ダンジョンの中に突入した。うわっ、久しぶりに来たけど相変わらずダンジョンって不思議だなぁ。山の中にあったのに、中に入れば草原が広がってるんだもの。


「ワワーン!!!」


 でもちょうどよかった。フィルのやつ、これ以上ないってぐらい楽しそうに走り回ってやがる。

 第一階層ならモンスターも出てこなかったはずだし、これならあいつを気軽に外に出してやれるな。いやー、ドッグランみたいなのが近くにあって助かったわー、ダンジョン様様だ。


「クーンクン」


「おお、どうしたどうした、俺と一緒に行きたいのか」


 ある程度あたりを縦横無尽に走り回ったあと、今度は俺と一緒に歩きたいらしく近くに寄ってきてモフモフのでかい身体をこすりつけてきた。いやー、本当に可愛いなぁこいつは!!!


「クン」


「ん……あ、お前ポケットにあるビーフジャーキーが欲しいだけか!?」


 修正する。こいつかなり生意気だ。多分俺のことをそこまでリスペクトしているというわけではない。餌をもらえることが優先順位第一みたいだな。


 でも可愛いから許しちゃう。あ、これが親バカってやつか!?


「しゃーねーな。今日はもうこれしかないからあとは明日まで我慢しろよ」


「ワンワン!」


「うまそうに食いやがって……このこの! モフモフを触らせろぉ!」


「キュンキュンキュン〜」


 餌あげたんだから俺にもこいつを好きにする権利があってもいいはず。そう思い俺はフィルの身体モフモフをわしゃわしゃと思いっきり触ってみた。ああ、本当にいい感触……堪らんなぁ。


 それに、フィルも触られるのは嫌じゃないみたいで舌を出して尻尾を振りながら嬉しそうにしている。そんな嬉しそうな顔をされると……もっと触りたくなるじゃないか! このこの〜。


「きゃあああああああ!」


「ん!?」


 え、いきなりどこからか悲鳴が聞こえてきたんだけど。ま、まさかフィルを堪能している俺の姿を見て悲鳴を……い、いやそれは考えすぎだ俺。多分下から聞こえたから、下層で誰かがモンスターに襲われているのかも。


 でもこのダンジョンに人が来てるなんて不思議だ。人目につかないところにあるし、知名度だって皆無なのに。だからこうしてフィルと散歩できてるわけなんだが。


「様子を見てこようフィル。このまま知らんぷりするのも嫌だしな」


「ワンワン!」


 一つ下の下層からはモンスターも出現するようになるが、ガキの頃でも通用してたし問題はないはずだ。ただ、社畜生活のせいで身体が鈍っている可能性は否定できないけど……。


 でも誰かが困っているのは間違いない。それを無視できるほど俺は他人に鈍感にはなれないな。フィルには悪いけど、散歩ついでに一緒に来てもらおう。


「ワン」


「ん、どうしたフィル……おっ? もしかして、お前の背中に乗せてくれるのか?」


「ワンワン」


 『そのほうが早く着くだろう?』 そう言わんばかりに、フィルは立ち止まって指差すように尻尾を背中の方に向けて俺のことを見つめてくる。

 可愛いだけじゃなくてかっこいいんだなお前……よし、乗せてもらうか。


「ありがとなフィル。よいしょっと……うわっ、モフモフで最高だ」


「ワンワンワンワン!」


「ああ、しっかりつかまった。行ってくれ、フィル!」


「ワワワワーン!!!」


 それは風を切るかのように早く、なんとかギリギリフィルの背中から落ちないようにするので精一杯だった。けれど、きっとジェットコースター以上に体感しているこの爽快感は、堪らなく最高だ!!!


「いやっほー!!!」


「ワワワワーン!!!」


 きっとフィルと出会わなければ、酒なしにこんな叫び声あげながら楽しくすることなんか無理だっただろう。本当にお前は最高だよ、フィル!!!

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