第4話:フェンリル、迷惑系配信者が解き放ったSSSS級を瞬殺してしまう


 ダンジョンの中を駆け巡り、下層へ向かう階段を下っていくまでほんの数分。フィルのスピードは相当早く、一息つく間も無く下の階までくることができた。


「ありがとなフィル。おかげですぐ来れたよ」


「ワンワンワン!」


 おお、運んでやったんだからご飯をよこせと言わんばかりに訴えかける視線を送ってきやがる。もう結構あげたと思うんだけど、こいつの胃袋は底なしなのか?


「わーったよ、帰ったらビーフジャーキー……は切らしたから、他の美味しいもの食わしてやる」


「ワン!」


「よし、それじゃあ……ん、あっちから音が聞こえてくるな」


 まだ距離が遠いのか音の詳細ははっきりとしないけど、多分向こうに誰かいるのは間違いない。とりあえず向こうに行ってみよう。

 それにしても、下の階なら雑魚モンスターがちょっかいかけてくるかと思ったけど、全然いないな。なんだか異様な雰囲気も感じるし、ただならぬことが起きてる気がする。


「フィル、大丈夫か? 怖かったら先に戻っててもいいぞ」


「ワン? ワンワンワンワン」


 『俺様が怖がるわけないだろ』、そう言いたげに鼻息を立てながらトコトコと先にフィルは進んでいった。犬とはいえ、これだけ図体がでかいんだ。怖いものなんてそうそうないか。


 ……ん、待て。今更思ったんだが、フィルって本当に犬なのか?


 図体は明らかに他の犬とは一線を画すぐらいでかいし、こんなに鋭利な爪や牙も見たことがない。

 そもそも、フェンリルなんていう犬の種類なんて聞いたことがないぞ。ま、まさかこいつって———


「うえええええい! 大人気配信者、「阿澄レイ」ちゃんに強敵モンスターで襲いかかる配信開始でーす!!! ほらお前ら、続きもっと見たかったらチャンネル登録しまくれ〜」


「や、やめて……」


 うおっ!? 音が聞こえてきた方を歩いてきたら、なにやらスマホを女の子の方に向けながらニヤニヤしている派手な髪色の男が大声で何か言っているのが少し遠くから見えた。


 いや待て。そもそもなんだこの状況。おそらくこのダンジョンでは出現しないだろう、凶悪なモンスターたちが女の子を囲んでるじゃないか!?


「いやー、この最強モンスターテイマーの俺ちゃんにかかればこうやってSSSS級モンスターを使役することも簡単ってわーけ。ま、言えないルートで盗んできたんだけどwww」


「な、なんでこんなことするの……」


「なんでって……そりゃ、配信で人気になるためでしょ! 俺の登録者数あんたの足元に及ばないからさ、ちょっと俺の人気の糧になってもらおうと思って。あんたのこと、ボコボコにしたいってやつらも多いからね!」


「い、意味がわからない……じゃ、じゃあもしかして、困ってるリスナーさんを装ってこのダンジョンにおびき出したのも……」


「そう、俺でーす!!! いやー、こんなのに引っかかるなんてあんたバカだねー。あ、バカだから俺様のスター街道の足場になってくれるわけか。さて、楽しみにしてるリスナーたちを待たせるわけにも行かないし、早速———」


「おい待て!!!」


 なんとかギリギリ、男がモンスターを女の子に襲わせる前にたどり着くことができた。おいおい、近くで見たら確信に変わったよ。こりゃ確かに難敵と言われるモンスターたちだ。


 なんでこの野郎がこのモンスターたちを使役できているのかはわからないが……とにかく今はそんなことどうでもいい。女の子を助けないと。


「なにあんた? おじさん?」


「俺はまだ二十代だ!!! おじさんじゃない!!!」


「うわっ、見苦しい。でも邪魔しないでくれない? 今から最高の配信が始まるからさ!!!」


「明らかにお前がやろうとしていることはリンチだろ! 今すぐやめろ、警察に通報するからな」


「うっさ……。おいお前ら、こいつから先にやってくれ。前座にはなるっしょ。いけー!」


 野郎が指を俺に向けると、巨大なモンスターたちが一斉に俺の方に殺意を向けてくる。どうやらまじでこの男はあのモンスターたちを操っているみたいだ。


 それに、やつはSSSS級モンスターたちと言っていた。勝てる気はしない。俺は一族の中で落ちこぼれだから。他の親族と違って、戦闘の才能はない。


 でも、ここで逃げるわけにもいかないだろ。このまま俺が逃げたらフィルも、あの女の子も危険に晒される。それならいっそ、俺がなんとか耐えしのいでフィルと女の子が逃げる隙を作るぐらいしないと。


「こいやあああああああああああ!」


 ああ、奴らが俺に攻撃し始めた。フィルよりも大きなトロールはこん棒を振り下ろして、カニみたいなやつはハサミを突き刺そうとしてくる。でも俺に攻撃がくれば絶対フィルもあの子も逃げる隙を作れるはずだ。


 そう考えた俺は、できる限りギリギリまで奴らの攻撃から逃げずにタイミングを見計らおうとした。


 だが、そんな俺のお節介は奴には不要だったみたいだ。


「わおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!」


「フィ、フィル!?」


 俺に攻撃が当たるすんでのところで、鋭利なフィルの爪が自分よりもでかいトロールを激しく切り裂く。そして、俊敏な動きを生かして他のモンスターたちにも同じように攻撃をしていき、あっという間に奴らの動きを鈍くする。


 その瞬間をフィルは逃さない。鋭い牙で奴らの身体をとことん痛めつけ、モンスターたちは息絶えたのか地面に倒れ込んでしまう。


 ……


 ……


「フィル、お前つっよ!!!」


「ワオーン!」


 俺はすかさずモンスターたちを瞬殺したフィルの元に駆け寄って頭をわしゃわしゃと撫でる。フィルも自らのかっこいいところを見せられて嬉しそうにしていた。


 いやー、まさかフィル、可愛くてかっこよくて生意気なだけじゃなくて、めちゃくちゃ強いとは。ああ、帰ったらいっぱいご飯食べさせてやらないと!


「はっ!? SSSS級モンスターを瞬殺……!? も、もしかしてあの犬、【神】級モンスターに該当する伝説のモンスター、フェンリルか!?」


「おいお前」


「ウギャ!?」


 おおっと、忘れるところだった。この野郎は許しちゃダメだ。逃げようとしたのですぐに腕を掴んで拘束し、身動きを取れないようにする。いやー、ちょっと痛い目見てもらわないとねぇ。


「うちのフィルがクッソ強かったからよかったけど……危うく大惨事になるところだったじゃねーか!」


「うううごめんなさい! 許してください!」


「許すわけないだろ。警察に連絡するから。あ、ごめんそこの女の子。手が離せないから警察呼んでくれる?」


「は、はい!」


 それからしばらく経った後、警察のダンジョン課の方達が来てくれて男はお縄についた。女の子のケアとかも警察の方がしてくれるらしい。ひとまず一件落着ってところかな。


 ちなみに俺は警察の方からモンスターを飼った時の手続きとか病気の予防接種とかをしておくように注意された。つまり、フィルはやっぱり犬じゃなくてモンスターだったらしい。


「お前モンスターだったんだなぁ」


「わん」


「ま、そんなのどうでもいいけど! さ、帰るぞフィル!」


「ワンワン!!」


 最近はモンスターをペットに飼う人も増えているらしいし、警察も多分フィルを飼うことは問題ないし、ダンジョンの中を散歩するなら大丈夫と曖昧ながらもオッケーって回答もらったから問題ないだろう。


 それに俺はこいつがどんな生き物であろうとも、ずっと一緒にいたい。


 さぁて、帰ったらフィルにどんなご飯あげようかな。



その頃、掲示板にて。


———

【超速報】謎の犬、迷惑系配信者が解き放ったSSSS級モンスターを瞬殺してしまうwwwwwwwww なお飼い主も男らしいと評判の模様wwwwwww

———


 社畜とフェンリルはこの時知らなかった。彼らの勇姿が勝手に配信されており、その切り抜き動画がめちゃくちゃバズっていることを。

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