詩「海。にて」

有原野分

海。にて

日本海。のはざまで空を仰ぐ、ぼくは悲しくてここに立っているのではない、ぼくは愛。

されたいことを受け入れるために海。に来たのだ。正月だったと思う、何気なしに、父に

「寒中水泳がしたい」と言って、二人並んで車の中、ラジオの音、風が吹いた、遠くから、

異国の、水玉模様だ(僕は、鬱。について考える。それは永遠に近い感覚で、実際は人生

の中の一瞬だ)死んだ兄は鬱。だった。蒸発した姉も鬱。だった。だから、ぼくは飛び込

                                       も

                                       う

                                        、

                                       海

                                      の中

                                     白い泡

                                  が揺れる過去

、「写真、撮ってほしい」ざぶん。なんだ、案外、あたたかいじゃないか、真冬。の海。の

中は真っ白な景色が目の前に浮かんでは消え光がキラキラと輝くその世界はどこか見覚え

のあるような不思議と懐かしい感情が湧き上がってくるのです。(このままでは、ぼくは一

生海。の中から這い上がれない!)

 ――ねえ、撮った?

 ――ボタンがどれかよう分からん。

狂おしいほどの痛み。の中で、いつか母が脳卒中で倒れ、年老いていく父、一家離散か、

いや、まて、人。生はまだこれからも続くはずだ「その証拠にぼくはこれまでの思い出を

大切にとっているんだよ」「アルバム?」そう、アルバム…、生まれたころの記憶はあまり

ないのが不思議だった五歳頃の夢。は自分が自分のままでいることだったと、ああ、黄昏、

無知ほど幸せなものはないのかもしれない、父よ、母よ、ぼくはあなた達にとって本当に

                                       愛

                                       し

                                       て

                                       い

                                  る、のだろうか。

海。の、夢

。だ、空白の、半。世紀、

うれし泣き、セックス。の果て

の、誤解された、

愛。情

その、

(トリップ)

現在だ。


「いいから今は親の言うことを聞きなさい、あとでいくらでも恨んでもらって構わないから、今だけは私たちを信じなさい」


 結婚詐欺、 + 、失いかけた祖母。の遺産、


夕暮れの電話 1+ 2、 届かないメー

                    ル  、  死につい

  て

    「兄が、、、」

※自殺。した

 - 3、 人生の


                     4 +  また騙されて、て

ちがいだった、 生まれていく

、 + +  消えた

             命、

                           「言うことを聞かないと、

                                   死んでやる」

                                     (脅し

)または、 +           踊り、 + 5   -、

6、 +、    -

                    逃。げるように、

                            7 -

                                過ぎ去っていった


。きみの後ろ姿は は、

            ハハハハハ――  8   + +


こめかみから

       首から

             血    

                   9   -  、    

                               「さようなら

(思えば、それはぼくだったのかもしれない)

春、

   そして冬、

時間は幸福を奪っていく、

   時間は不幸を置き去りにして、

                走っていく/

            厄年/

         猫/

      電信柱/

   蚊/

生。きていることの有限は宇宙だ、宇宙の葉緑体だ、まるで星々の痴話ゲンカ、ああ、な

んて美しい景色なんだ、腐りかけている卵。の鳴き声、チュチュチュチュン、チュチュチ

ュン…、ベランダの向こう側に昇る太陽を眺めながら、愛する人と生きている実感に、気

がつけば娘よ、きみはいったいどこから来たのだろうか、思えば、そこは誰しもが通る道

であり、そこにぼくの轍はあったのだろうか、娘よ、どうか世界を楽しんでほしいどうか

んで、ああ一緒だ。

      ぼくも、/ちち。も

   /はは。も

一緒だったのだ、生。きる。青空のように、嘘をついてばかりの言葉に、哀れな愛に、愚

かな油絵のような夢に、きみに、ぼくに、泡に包まれて、愛。そろそろ上がろう、水面の

向こうの曇天の上にはきっと広がっている、風、深い闇、空気と水の分離帯、マイナスイ

オン、自殺した兄の残したカケラのような最後に会話した思い出の中の「金、困ってない

か?」

う、が詰まって言えないとき、人は経験の中に答えを探す、神。の不在に嘆く、割れた卵、

巣立つことと相別れることの違いについての考察、思い出の写真を切り刻んで送ってきた

蒸発した姉。の最後は、いったい誰がどのような会話をしたのだろうか、ぼくはなにも分

からない、なにも、なにも、なにも、なにひとつとしてぼくには分からない、蒸発の時代。

                              ――生きてて楽しい?

                              ――死ぬよりはいいさ。

酒と煙草に溺れてから、数々の精神病にかかって、引きこもりだとかニートだとかとテレ

ビに言われて、たくさんの病院、施設に運ばれて、今、ぼくはあの頃を振り返ると、なん

だか幻でも見ていたかのような気持ちになるのですが、それはつまり、いま、僕はとても

なの

です。ありがとう、生。きていたいと思えるようになったのは誰かの犠牲の上だなんて思

ったこともなく、ただ単に目の前にふわふわと浮かんでいる空気にすら感謝の気持ちが湧

く時がふとあって、遠くの鳥の声、空のささやき、娘の寝ぼけ眼、愛するということの神

秘的で不可思議でムダなことの繰り返しがきっとぼくの人。生の海を鮮やかにするのです。

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詩「海。にて」 有原野分 @yujiarihara

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