出会いと別れと出会いと友達ノート

04.16:真面目に

 お昼休みになる。

 窓の外は少し暗い。

 今日はこの学校に入ってから初めての雨だ。

 気分は晴れないけど、窓越しの小さな雨音が心地よくて何だか落ち着く。

 ……とはいえクロのことが気になる。

 

「尾長さん、食堂へ向かいましょう」

「うん」


 ブラッドの後ろからレアールが顔を出す。

 ……一瞬、席に着いているクロと目が合う。

 なぜだか誘われるのを待ってるように見えた。

 でも私は、いつもの三人で食堂へ向かう。


 向かいにはブラッドとレアールが座る。

 今日のメニューは親子丼。

 私は親子丼が苦手だ、何故なら想像できる名前の由来が野蛮でおぞましいのだ。


 でも食べる。

 かつおダシが効いていておいしい。

 乗ってる長ネギも甘くておいしい。

 命名した人のことは苦手な気がするけど、食べ物にありがとう。

 料理を発明してくれた人、ありがとう。


「尾長さん、ワタシは昨日の試合で確信しました。国家戦力というのは恐ろしく強いのだと。……身近な同級生としてあんな別次元の子がいるとは、不思議な気分です」

「そうだね」

「それに魔法だけが全てではないのだと思い知らされました。ああいった植物の知識もつけなくては」


 ブラッドは真面目だなあ。

 私は正直、魔法についてもあまり興味がない。

 便利だけど、剣術の方が奥深くて好きだ。

 

「尾長様とブラッド、あの時どこにいたの?」

「フィールド周りの観客席にいたよ」

「そっか。……一緒に観戦したかった」


 レアールはしょげながら親子丼を鉄匙で突く。

 ブラッドが宥めるかのように、レアールの肩をさする。


「しかし、アゲハさんが亡くなってしまったのは残念です。なんであんな……。親御さんは、クロさんのこと恨むでしょうね」

「アゲハは両親いないし、その辺は大丈夫よ。それとオリエンテーションで殺した子の親は面倒だったから、始末したわね」


 クロだ。

 レアールが驚いた顔をして、背筋を伸ばして椅子に座り直すとご飯を口へ入れる。


「クロ、何もそんな風にしなくても」

「子が子なら親も親なのよ。ワタクシから殺されることで罪を償って、新しい世界へ飛び立てたんだからいいんじゃないかしら」

「それ、クロってどういう存在なの……」


 クロは「神」と呟くと私の隣に座り、私たちのよりも豪華そうな……ステーキ定食を食べ始めた。


「何よ尾長。よだれ垂らしても分けないわよ、下品だもの。……あ、昨日の決闘動画ちゃんと見た? 尾長はよく見ときなさいよ」

どうして?」

「もっと強くなってもらいたいからよ」


 ……昨日の決闘内容は覚えてるような覚えてないような。

 眠ってからほとんど忘れてしまった。

 昨日はとにかく眠くて、決闘はどっちが勝ったのかさえあやふやだ。

 

「……そうなんだ。私あの時眠くてさ、あんまり覚えてない」

「ふむ。それなら放課後に、携帯で見ませんか?」

「見る」

「では、放課後ワタシの席に来てください」


 ブラッドは食い入るように私を見つめる。

 どうも、観戦が好きらしい。


 お昼ご飯を食べ終え、教室へと戻って残りの授業を受ける。

 月曜日にまた実技があるようだ。

 魔導着を忘れないようにしなくては。


 放課後になり、ブラッドの席へ行こうとすると誰かが目の前に立ち塞がる。

 シバだ、元気そうに笑ってる。

 それを見て頬が緩む。


「尾長、またな」

「またねー」


 シバが挨拶して帰っていく。

 何だかちょっと嬉しい。


 ブラッドの席へ向かうと、既にレアールが来ていた。


「尾長さん。動画流しますよ」

「うん」


 ブラッドの隣から携帯の画面を覗く。

 ……あの時、観客席から見えたものとは違うような、同じような。


 クロが近づいてくると共にレアールが離れ、私の後ろに隠れる。

 クロはレアールの方をチラリと見て鼻で笑うと、ブラッドの携帯画面を覗き始めた。


「よく撮れてるわね」

「そうですね。クロさんのかっこいいところがバッチリ映ってます」


 クロは動画に集中するブラッドをよそに、私をジッと見つめてくる。


「尾長。ちょっと来なさい」

「何?」


 教室を出るクロについて行く。

 クロは教室への扉を閉めると、再び私の顔を見つめてから携帯を取り出して、画面を見ながら弄り始める。

 私の携帯からバイブレーションが鳴る。

 クロはまた私の顔を見てからスカートを見つめてくる。

 取り出せと言わんばかりの目だ。

私はスカートのポケットから携帯を手に取り、画面を見る。


 チャットアプリからの通知が出てる。

 クロからみたいだ。

 メッセージ内容には、友達登録しといて、と書かれてる。

 私はクロを友達登録し、OKと返事を返す。


 クロからの返信はない。

 それにクロはもう、どこかへ行ってしまったようだ。

 一先ず教室に戻ると、二人が心配そうな顔でこちらを見る。


「クロさん、怒ってる風でしたけど大丈夫でした?」

「うん。ごめん、また見てもいい?」

「ええ」


 動画を見せてもらい直す。

 一回目の決闘よりも早く、決着がついているような。

 ……そろそろおばあのお見舞いに行かなくては、面会の締切時間が来てしまう。


「尾長様、どうしたの?」

「いあ、何でもないよ。それじゃ私、おばあのお見舞いに行くから」


 教室から出る。

 ……お見舞いが済んだら昨日は服の洗濯できてないから、忘れずにやらなくては。

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