04.15:病院

 一度家に帰って顔を洗い、病院の受付まで歩く。

 徒歩八分で着く、少し大きな病院だ。


「あの、尾長さくらさんと面会したいのですが」


 受付にいるナース帽を被った丸顔の鋼鉄ロボットへ声を掛けると、ロボットは首を一周ぐるんと回し、口を開けてスピーカーの穴を見せる。


「尾長きいろ様ですね。さくら様から聞いております。さ、端末をお渡しします。ホログラムで表示される矢印に従い、移動なさってください」

「ありがとニャン」

「面会時間は十八時までとなっておりますので、気を付けるニャン」

「分かりました」


 このロボットは語尾にニャンとか付けると真似してくれる。

 かわいくて、つい笑んでしまう。

 ロボットが差し出した携帯サイズの黒い板を受け取る。

 板からホログラムが浮かび上がり、道に矢印を向けた。


 私は次々と向く矢印の方へと進む。

 しばらく階段を上がり、扉の前に着く。

 引き戸を開くと扉の先は個室で、ベッドの上ではおばあが体を起こしていた。


「きいろ。ごめんね、家で一人は寂しかろ?」

「大丈夫だよ、こうしておばあと会えるんだし」


 おばあは案外元気そうだ。

 私はベッドに付いている机に昨日の鍋を入れたタッパーを置く。


「これ、昨日の鍋だよ」

「ああ……わざわざありがとうね。きいろ、決闘はどっちが勝ったんね?」


 おばあとはその日あったことをお互いに話すのが日課で、昨日はずっと校長室にいたけど電話でやりとりをしたのだ。


「……クロが勝ったよ。アゲハさんは……その」

「そうかあ。……実はね、おばあは小さい頃のクロとも会うとるのよ」

「え? おばあがあのクロと?」


 おばあは珍しく、難しそうな顔をして頷いてる。

 どういう経緯で会ったのやら。


「どこで会ったの?」

「魔族の討伐でな、竜の家族じゃった。討伐を終えて隠れとるのを引き摺り出したら子どもでね。竜はへんげを使えるんでな、人間として生きるよう言うといて、知り合いに預けた」


 だとすると、クロは魔族だから私によく絡んでくるのだろうか。

 ……ちょっぴり複雑な気分だ。


「んー。でもクロはクラスメイトの命を奪ったり、とんでもないことしてるよ」

「魔族を散々殺しとるんは国家戦力と軍校卒業者じゃし。その復讐かもねえ」


 復讐……。

 クロのことは知っておきたいけど、本人から理由を聞かずに考えても仕方のない気がする。

 それにこんなことよりも、おばあとは話さなければならないことがある。

 


「クロのことより、おばあは大丈夫? このままだと老衰で死んじゃうって聞いたけど……若返りとかしてくれないの?」

「しない。魔力は巡りものやからね、他に返す頃合いを変えたくはないのよ」

「そっか……」


 覚悟してたけど、おばあとはもうすぐお別れしなくちゃいけないのか。

 悲しくて……目の前が霞んでくる。


「ハハハ、きいろが人の命を大事に思える子でよかったわ。よしよし」


 おばあは私の耳を撫でるように摘んだ。

 

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