04.15:再戦
『もうすぐ決闘開始です』
観客席が一瞬、静寂に包まれる。
『ワープ』
詠唱が起きたと同時に、竜首の口から火の玉が飛び出していく。
演出なんだろうけど……ドローンに当たらなくてよかった。
クロは魔導着姿でフィールドに現れ、仁王立ちしている。
そこへアゲハもワープしてきた。
『今回闘技場で行われるのは、竜炎学園運営委員会代表であり、国家戦力のエレメンタル、竜炎クロ。国家戦力最年少であるヘヴィ・ウエポン、神在アゲハの決戦となります。お二人とも、準備はよろしいですか? 僕がはじめと言ったら開始です。……それでは、はじめ!』
『サモン:アウトドムア』
——グモオオオ!
そう雄叫びを上げながら、アゲハの元に背骨の長い、まるで牛の頭蓋骨と、羽虫の羽にミミズのような手足をした、大きくて奇怪な魔族が現れる。
クロの十倍くらいの大きさで、その辺の民家ぐらい大きい。
魔族はフィールドを高速で這いずり、細いミミズの集まった腕でクロを踏み潰そうとした。
クロがそれを避けた先にアゲハは現れ、突き出された腕が、魔導着ごとクロの胸を貫く。
クロは突き刺された腕を掴む。
『ヒール』
すると、再生するクロの体に押し潰されてアゲハの腕は千切れた。
『アンチマジック!』
アゲハは巨大生物の元へと向かい隠れる。
クロはそれを追うが、巨大生物に阻まれバンバン拳銃を撃ち始めた。
——ズバッ
斬撃が飛び、クロの体と巨大生物の体が切り崩れる。
「……ざ〜こ」
巨大生物の体は霞んでいって消え、魔封じの剣らしきものを肩に携えたアゲハが立つ。
クロは顔色を変えず、切り崩れる体を両手で抑えながら、血を溢れさせる。
アゲハはクロに近づいていく。
「アタシを殺すって言ったんだから、自分が殺されても文句ないでシ」
「へえ、そう。魔封じの剣。でも残念ね、ワタクシはまだ死んでいないわ」
「もう死にかけだよネ!」
アゲハはクロに剣を振り下ろす。
——しかし、その剣はクロに当たらずに手から滑り落ちる。
カメラを切り替えても、何が起きたのか分からない。
アゲハは床の上に倒れる。
『ヒール』
クロは自分の体から手を離し、背伸びした後アゲハの死体を見下ろす。
「今回はアンチマジックが遅過ぎたわね」
『おおっと、アゲハが倒れました! 一体何が起こったのでしょう! とりあえず、勝者は竜炎クロです!」
会場は、クロのことを恐れてか静かになる。
ブラッドの方を見ると、深刻そうな顔をしていた。
「これ、死んだふりなんじゃ」
「いえ。アゲハさんの腕をクロさんが掴んだ時に、何かがアゲハさんの腕に埋められていました。それがアゲハさんを内側から殺したのかと」
「そんな……」
映像を見ると、アゲハの鎧を突き破って花のようなものが生えてきていた。
尖ってて……目が痛くなる色の花だ。
「……こんな植物、見たことありませんけどね」
観客は一気に歓声を上げ始める。
クロは『ワープ』と唱えた。
目の前にクロが現れる。
「尾長きいろ、どうだったかしら。よく撮れてた?」
「……どうして殺しちゃうの。今回なんて、クロと同じ立場の仲間なんじゃないの?」
「違うわね、全員敵よ。話したから分かる。そのうち全員殺すわ」
何を言っているんだろう。
どうして、そんなことしようとしているんだろう。
「ダメですよ。……武力で争うのは、国家戦力ではないはずです。国家戦力は、国同士が争わず平和でいるための役職です。なのに人間同士争うなんて、馬鹿げてます」
「筋違いな話ね。まあ今回は決闘だし、アゲハも十分私を殺すつもりだったでしょう。こないだの決闘が微妙過ぎたわ」
『決闘は終了しました。みなさん、速やかにご帰宅ください』
観客席にいる人たちが徐々に減る。
フィールドは竜首のオブジェクトに戻っていく。
私はパソコンの電源を落とし、ゴンドラを押す。
あとはこれを校長室まで運ばなければならない。
……やっと校長室に着く。
クロとブラッドが私の後ろについて来ていたらしく、扉を開けてくれる。
「ありがとう」
入ると校長室の机から校長が不満そうにこちらを見ていた。
首には包帯を巻き付けている。
「あら。まだ牢屋に入ってなかったのね」
「竜炎クロ。あなたは学校の生徒を死なせて……他の国家戦力を殺して、何がしたい」
「アナタとは話す気ないわ。さて、機材の置き場所はどこかしらね」
校長は机を押し叩き、立ち上がる。
「答えなければ教えない」
「探してるだけよ。なければ場所を変えて置くだけなのに、何一人で熱くなってるの? ……誘拐犯は警察が来るまで大人しくしていなさい」
校長は座ると、クロを睨みつけた。
「大の大人がみっともないわね。行きましょ」
機材を室内へ入れると、クロは私とブラッドの手を引いて部屋から出る。
校長先生、私に用があって待っていたのではなかろうか。
……誘拐のこと、謝るつもりだったのかもしれないけど。
校長先生は私を呼び止めなかった。
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