04.17:友達ノート

 お縁の屋根に吊るした物干し竿を使い、洗濯物を干し終える。

 今日は晴れてくれて助かった。

 危うく、洗ってない制服を着て登校しなければならなくなるところだった。

 って、今日は学校休みじゃないか。

 宿題終わってて遊ぶ約束もない、何しよう。

 ……思い付いた。


 朝食を食べた後、部屋に戻って折り畳み机を開き、その上にノートを置く。

 クロは私のことを大親友扱いしてしまっていて何だか息苦しいけど、クロの秘密を知ってしまった以上は協力したい。

 クロが魔族という問題よりも、クロはどうやら人間不信らしい。

 ……入学式の翌日、クロと話したことを思い出す。

 クロもみんなと仲良くなりたくはあるのだ。


 よし、まずは私がクラスメイト全員と友達になる。

 そしてクロにクラスメイトそれぞれと仲良くなるためすべきことを伝授し、それからクラスメイト全員とクロが友達になり、みんなに正体を明かしてもらう。

 確実ではないけど、これは私がクロのために

できる最大限のことだ。

 ……同意を得る前だけど、とりあえず準備しておこう。

 私は早速、ノートに鉛筆を走らせる。

 ページの上半分を使い、ブラッドの似顔絵を書く。

 ……ちょっと顔が大きくなり過ぎたけどいいか。


#ブラッドレス・ハインフォード

よほど素行が悪くなければ、友達になってくれると思う。

でもダメなことはダメだと、ハッキリ言えないと嫌われるかも。

でもブラッドは時々、好意と受け取るや否や心を許してしまう節がある。

ちょっと心配だ。


#レアール・クロスベル

優しく話しかければ、友達になってくれると思う。

自信家なところがあって承認欲求は強い方、素直でいい子だ。

ただ、ボディタッチが多くてちょっと甘えん坊に感じる。


#シバ・ドラント

最近明るくて、少し嬉しい。


 ……むう。

 書けない、シバは嫌なことをしてきた子だけど、それはノートに残したくはないし。

 ここから先は実際に仲良くなって知るしかないか。

 ノートを閉じ、とりあえず病院へ向かう。


 病室に入ると、おばあは昨日みたくベッドの上で体を起こしていた。


「おばあ、おはよう」

「きいろ。学校は?」

「今日は休みだよ」


 おばあは笑っている。

 でももうすぐ死んじゃうのか……。


 涙を堪え、とにかく笑む。

 おばあのことは笑顔で見送ってあげたいし、いなくなるまでは普段通り過ごしたい。


「きいろ、今日は友達と遊ばんの?」

「うん。帰って家でゆっくりしてるよ」

「ならおばあがやっとるゲーム、代わりにやっといてくれんか? 挨拶されたら孫です言うて、週一回ギルドホームの掃除だけしてくれたらええ」


 おばあが私にゲームを触らせるなんて。

 今までやろうとすると、体を宙に浮かせられて何もできなくさせられてたのに。


「でも勝手に触っちゃっていいの?」

「よかよか」


 おばあからの頼みごとは初めてな気がする。

 そう考えると、割と嬉しい。


 病院から帰ってきて、早速おばあがゲームする時に着ける首輪を巻く。

 そしておばあのベッドで横になる。


 目を瞑ると、木で出来た小さな小屋の中にいた。

 特に埃が溜まってる感じではないけど、床は泥だらけだ。

 立てかけられていたモップを手に取り、床を拭いていく。

 突然、チャットウィンドウが視界の左下隅に開いた。


骨肉斬太郎:おはです


 私はチャットウィンドウに文字を打ち込む。


SAME:おはよう

UME:おはです。孫です。

骨肉斬太郎:孫?

SAME:うめさん、別荘に敵湧いたから駆除お願い

UME:本人ではないので無理です。

SAME:またまたご冗談を

別荘の場所送っとくからよろー

骨肉斬太郎:本当に本人ではないのでは

SAME:孫さん今どこ?

UME:木でできた小屋の中です。

SAME:はいよー


 ——ギイィ……


 すぐにドアが開き、拭いた床が靴跡で汚される。

 顔を上げると、サメの頭をした人が気の抜けるような顔で突っ立っていた。

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