04.14:変化

「尾長、おはよう」

「おはよう」


 尾長はシバに喜びの滲む返事をした。

 シバはまるで人が変わったように生き生きしてる。

 机にカバンを置き、席に着いてシバの方へと体を向ける。

 

「来てくれてありがとう」

「感謝すんのはこっちだ。オレさ、卑屈になり過ぎてた。これからはクロ様みたいに楽しむ生き方をするよ」


 私は嬉しくなってつい手を差し出す。

 シバがその手を掴み、握手してくれた。


「うんうん。楽しくやってこうね」

「尾長、お前には本当に感謝してる。いつか絶対に恩返しするから」


 シバはそう言うと手を離す。

 ……クロが私たちの間に割って入る。


「へえ。シバじゃない。あの時は尾長を盾にした挙句、壊れたように同じ言葉を繰り返してたのに。随分と綺麗ごとを並べられるのね」

「あの時のこと、尾長は許してくれたからな。これからはそれに報いるんだ」

「そう。まあせいぜい頑張って頂戴」


 クロはふと私の方を見た後、何か言いたげに口を尖らせ、真ん中の列の最前席に着く。

 すると、クロの周りに女子全員が集まる。

 男子たちはクロの方見て、女子が少し離れると一斉に集まっていく。

 昨日の誕生日会がそんなに良かったのだろうか。

 ……まさか魔法でみんなを操ってるとか、そんなことしてないよね。

 クロたちのところからレアールが駆け寄ってくる。


「おはよ」

「おはよう」


 レアールはクロの席を見て、「ふーっ」と一息吐く。


「尾長様、クロ様って何でこんなに人気なんだろ」


 国家戦力の権力で買ったようなものだと思うけど、悪口とそう変わらないし言いたくない。


「かわいいからじゃないかな」

「レアの方がかわいい。それに尾長様やブラッドちゃんが、レアの次くらいにかわいいから違うと思う」


 この子はまた、変なこと言ってるけど落ち着く。

 クロの人気を疑問に思ってるなら、洗脳はされてないはずだ。


「他にはないの?」

「クロのことが好きなのはあると思うよ。理由はよく分からないけど」


 ガシャリと漆原先生が教室に入って来て、チャイムが鳴る。

 レアールもクロの周りにいるみんなも、席に着いていく。

 洗脳されていないとすると、みんなクロを利用しようと考えて近づいていたのだろうか。

 でも好きな料理を出された時のブラッドの反応は……うーん。

 今更ながら、シバの言っていたクロみたいに楽しむって言葉が引っ掛かる。

 誕生日会の時に私が寝ている間、その時にクロの人気を裏付ける何かがあったのかも知れない。

 まあ考え過ぎても仕方ないし、何があったか聞こう。

 ……遊園地のことと言い、聞いてばかりだな私。


 授業が終わり、昼休みに入る。

 私はブラッドとレアールと一緒に席へと着く。

 今日はカツ丼だ。

 日曜日にアゲハを倒した記念だろうか。

 そう思うと、クロの学園支配を肯定するようで、何だか箸が進まない。


「尾長ちゃん、今日は元気ありませんね」

「……そうだね」


 二人は心配そうに私のカツ丼を見つめている。

 私は急いでそれを口の中へ掻き込み、コップの水を飲み干した。


「ブラッド。私、昨日の誕生日会で途中から寝てたんだけど。どんなことがあったの?」

「クロさんはみんなに携帯武器の鋳造を約束していました。ワタシの好きな料理を把握していたのは嬉しかったのですが、やっぱり性格としてはあまり……。モノに釣られておいて、言えたことではないのですけどね」


 ブラッドは苦笑いしてる。

 携帯武器……。

 クロが袖から出す拳銃みたいなものだろうか。

 レアールはキョトンとしてる。


「そんな話してたんだ。よく聞いてなかった」

「今朝も鋳造用に外観や機能の書かれた紙をみんな渡していましたよ」

「あれ……みんな絵をプレゼントしてると思ってた」


 レアールはブラッドに向かって、不貞腐れた顔をした。


「もう誕生日過ぎてるじゃありませんか」

「絵が好きなのを昨日知ったのかなって」


 ブラッドは少し呆れた様子でレアールを見た。

 レアールは真顔で「てへへ」と言っている。


「まあ、そういうことがありました。尾長さんも頼んでみては?」

「私はいいよ。剣なら家にあるし」

「なるほど」


 ブラッドはあまり納得していない様子で、口を窄めて言う。


「そういえば、サモンウェポンで出した武器じゃダメなの?」

「尾長さん。クロさんとアゲハさんが決闘してる動画、みてないんですか?」

「見たけど」

「サモンウェポンは武器を魔素変換で作るものです。アンチマジックを受けてしまうと武器は消えます。鋳造したものならアンチマジックでも消えないので、強力な魔法に対する武器になり得ます」


 そこまで分からなかった。

 そんな需要を把握して、みんなはクロに鋳造を頼んでたのか。

 さすが、この学校に入っただけのことはある。


 それにあの映像、クラスのみんなも見ていたとは。

 クロの学園支配に拍車が付いてしまわないか心配だ。


 突然、ポケットの中で携帯が振動する。

 ……見ると、チャットアプリにアゲハからのメッセージが届いていた。

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