04.14:一人きりの朝に
朝になる。
一人の朝は初めてだ。
何だかやる気が出ず、昨日の鍋を小鍋に移して火にかける。
中身をおたまで掻き混ぜていると、魚の切り身がぽろぽろ崩れていく。
取り皿に中身を移して食べ終え、支度してから家を出た。
帰ったらシバの家にプリントを届けて、おばあのお見舞いに行って、家の中を掃除する。
……普段なら何とも思わないのに、今日は億劫に感じてしまう。
道を歩いていると、クロが他の道から通りがかる。
「尾長、おはよう。早いわね」
「おはよう」
クロは私の向かいに立ち塞がり、額に手を当ててくる。
「熱出てるみたいね」
『ヒール』
体のだるさが抜けていく。
でも気分は、あまり良くならない。
「……ありがとう」
「まだ気分悪そうね。尾長、何かあったの?」
「歩きながら話すよ」
クロは向き直って歩き始める。
私はその横を歩く。
クロ相手に話す、と言ってしまった。
……でも嘘の話をしても仕方ないし、正直に言ってしまおう。
「昨夜、おばあが病院に入院して。大丈夫そうだったけど、おばあがいなくなったら私はどうなるんだろうって」
「アナタ、そこそこ自立してそうだけど」
「してないよ。おばあが色々やってくれてるから過ごせてるだけ」
クロは笑みを浮かべる。
「尾長って明るそうでいて、実際は根暗よね。アナタの祖母なら遺書や遺言をどこかに残すでしょうし、それに従えば? あとは遺産目当ての連中さえ捌ければ、他はどうにでもなるんじゃないかしら」
「クロがおばあのことどれくらい知ってるか知らないけど、おばあは隠しごとが多いし、家事かゲームやってるところしか私は知らない。どうにでも、とはならないと思うよ」
クロは悩ましそうな目を一度こちらに向けると、黙って歩いていく。
校門の前まで来て、クロは私の肩に手を乗せてきた。
「まあ、万が一アナタの祖母が死んでもワタクシが身柄を引き取ってあげる。家族になるの。その方が安心でしょう」
私はクロのことをそんなに信用してないのに。
クロは自信満々な顔を私に向けている。
「……ありがとう」
私が感謝を述べた直後に、クロはいつもの冷ややかな顔へと戻す。
「冗談よ。さすがのワタクシでも、そこまで人の尊厳を踏み躙ったりはしないわ。そんな程度のことは乗り越えて、一人前の大人を目指しなさい」
何か気に入らなかったのだろうか。
相変わらず、クロのことがよく分からない。
クロと一緒に教室へ入ると、私の席の後ろにはシバが座っていた。
あの誕生日会はいまだにモヤモヤするけど、こうして顔を出してくれたのは純粋に嬉しい。
シバは私を見て、笑顔を向けてきた。
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