04.13:誕生日会後

「尾長。疲れてたみたいね。それとも今日は体調が悪かったかしら」


 クロの無表情な顔が目の前に映る。

 私はソファの上で、眠ってしまっていたらしい。

 辺りはいつの間にか静かになっていて、テーブルの上は片付けられていた。


「もう誕生日会は終わったわ。アナタのためにも色々用意してあったのだけど、見てなかったみたいね」

「ごめん、せっかくの誕生日なのに……何で眠っちゃってたんだろ」


 欠伸していると、クロが私の隣に座り顔を見つめてくる。

 何故だか、少しでも目を離せば殺されてしまうような気がする……。


「気を遣わなくていいわよ。どうせ昨日、誕生日会に何が起こるか不安で眠れなかったんでしょ」

「……どうして分かるの?」


 クロは私の耳に触れ、指の間に挟んで引っ張る。

 クロの指がするりと抜けていく。


「いつも観察させてもらってるわ。ワタクシ、尾長の見た目が好きなのよね。それにいい性格してるし、アナタのことは養ってあげてもいいくらいよ」


 こんな時、私もクロの好きなところを言うべきなのだろうか。

 ……クロのことは正直、嫌いではないし好きでもない。

 よく分からないところが多くて、まだ苦手なままなのである。


 黙っていると、クロはぬいぐるみを相手するかのように私の頬に触れたり、髪に触れたりしてきた。


「こうして誕生日会を開こうと思えたのは尾長のおかげ。クラスのみんなと友達になれたし、よかったわ」


 クロは、満足そうに笑みを浮かべた。

 初めて邪悪でない顔をしてくれた気がする。

 いつもその表情でいてくれたらいいのに。


「出入り口は現してあるから、お昼ご飯食べて帰りなさい」

「……分かった」


 クロはソファから立ち、どこかへ立ち去る。

 玉座の向かいには扉があった。

 私は、テーブルの上に並べられた料理をフォークに刺して一口食べる。

 おいしいけど、何だか寂しい気持ちだ。


 屋敷の扉を潜ると、自宅の玄関へと戻る。

 ただいま、と言うといつもの返事がない。

 居間のベッドを見に行くと、お婆は寝息を立てていた。


 時計の時刻は午後五時を差している。

 私は夕飯の支度を始めた。

 何だか今日は気が乗らないので、簡単に作れる鍋にする。

 そのうち、匂いでおばあは目を覚ますだろう。


 居間のテーブルに鍋敷きとおたまを置き、ミトンを手に着ける。

 グツグツ煮える鍋を掴み、そこに置く。

 取り皿を二つ重ね、箸を二膳そこに乗せて運ぶ。

 取り皿と箸をテーブルに置き、おばあと分ける。

 ……おばあは目を覚まさずに寝息を立てているままだ。

 携帯でも見て、目を覚ますのを待とうかな。


 チャットのアプリを開き、ハクトからのメッセージを確認する。

 あれから何も送ってきてはいないようだ。

 友達のリストはハクトだけ。

 ……今度、蜜木や火売、ブラッドやレアールにこれやってるか聞いてみるのもいいだろうか。


「きいろ」


 おばあは珍しく、弱々しい声で私を呼ぶ。

 ……胸が騒めく。

 私は携帯を置き、おばあの顔を覗き込む。

 なんだか虚ろな目だ。


「おばあ。大丈夫?」

「きいろ、病院行ってくるでな。おばあは入院せなすぐ死ぬ。いつも行っちょるとこにおるけな」

『ワープ』


 おばあはワープで消えてしまう。

 ……何だかんだでおばあは数百年生きてるし、魔法で健康な体に若返ることもできる。

 でも禁忌に触れるからと言ってそうしてはくれない。

 できるなら若返ってくれた方が嬉しいのに。

 携帯を触っているうちにすっかり冷えてしまった鍋をタッパーに移し、冷蔵庫に入れる。

 おばあが入院してるうちは、洗濯とかも自分でやらなきゃ。

 

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