04.13:誕生日会

 翌朝。

 布団から体を起こして居間へと入る。

 誕生日会でクロが何をしようとしてるのか、またシバから嫌な思いをさせられるのか。

 明日が気になって眠れなかった。


「おはよう、きいろ」

「おはよー」


 おばあは今朝も元気だ。

 縁側で静かに庭を眺めてる。

 今日は誕生日会らしいけど、普通に教室へ向かえばいいのだろうか。


「それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

 支度を終えて家から出る。

 少し歩くと、どこかで見たような屋敷の中へと迷い込んだ。

 クラスメイトもいるみたいだけど、私は夢でも見ているのだろうか。

 とりあえず、ブラッドとレアールの元へ歩いた。


「おはよう。……ブラッド、ここって」

「クロさんの屋敷ですよね」


 私は首を上下に揺らす。

 レアールがブラッドの後ろから顔を出し、「おはよ」と挨拶を返した。


「何をする気なんだろ」

「……あの人の考えてることは分かりません」


 ブラッドもレアールも何だかソワソワしてる。

 他のクラスメイトたちもだけど、見知らぬ場所に閉じ込められた割には落ち着いた様子だ。

 誕生日会をやるってこと、クロは私以外に言ってなかったのだろう。

 このくらい落ち着いてるのは多分、ブラッドがここはクロの屋敷だと言うことを伝えたからかも知れない。

 ……サプライズにしても迷惑だ。

 周囲を見渡すと、随分と広いパーティーホールとなっていた。

 白い掛け布の掛かった丸型テーブルがいくつも並んでいて、奥には趣味の悪い玉座があり、竜の頭を模した金装飾が付いている。

 それを眺めていると、玉座にクロが現れた。


「みんな集まったみたいね。今日はワタクシの誕生日だから学校は休みよ。精霊たち、配膳をお願い」


 青白い光がテーブルにチキンやら、高級そうな料理の乗ったお皿を並べてく。

 みんな立ち尽くしてその様子を眺めてる。

 クロが昨日ああいったんだから、シバもいるはずだ。

 ……入口近くのテーブルクロスが揺れる。

 あそこに隠れてるのだろうか。


「二人とも、私はちょっと別のとこ行くね」


 ブラッドはキョトンとして見つめている。

 レアールは頷いて、「うん」と返事した。


 揺れたテーブルクロスをめくり、「シバ」と囁き声を送る。


「……尾長か。よく気付いたな」


 シバは小刻みに震えてる。

 帰らせた方が良さそうだけど、出口らしきところはトイレに繋がってるようだ。


「どうしよう、出口ないみたい」

「あそこは違うのか?」


 シバはトイレの方を指差す。


「そこ、トイレだよ」

「トイレならそっちに隠れる。じゃあな」


 ……振り向くと、テーブルの下から出たシバにクロの目が向いていた。


「シバ、どうかしら。あの時の無礼は水に流すわ。今日は楽しんで頂戴」


 部屋の中央からミラーボールが浮かんでゆき、光り輝くと共に頭の痛くなるような音楽が鳴り始める。

 ……レオが「おおお!」と感嘆を上げ、料理に手をつけ始めた。

 他のみんなはただ立ち尽くす。


「そうね、このままだと盛り上がりに欠けるわ。有名人のゲストでも紹介しようかしら。出てきなさい」


 ミラーボールから下に白い煙が噴き出し、煙の中から真っ白で綺麗なネコ獣人のお姉さんが、ポーズを決めた姿で現れる。

 どこかで見た気はするが誰か分からない。

 しかし、蜜木が「キャー!」と感嘆を上げ、火売やピアーズ、レアールや愉快な獣人たち、山羊梅までもが目を輝かせていた。


「写真撮ったりするのはいいけど、あんまり話しかけないようにね」


 クロの元へレオがウキウキで駆け寄ってく。


「クロ様!」

「なあに?」


 馬鹿にするような口調でクロはレオに返事する。

 レオは気にしていない様子だ。


「オイラの誕生日にこんな盛大なパーティーしてくれて、ありがとな!」

「……私の誕生日会何だけど、まあいいわ。喜んで貰えて何より」


 レオはクロに笑顔を向けると、愉快な獣人たちのいるテーブルへと向かっていった。

 私はブラッドのところへ戻る。


 レアールは玉座の方にいるようだ。

 有名人が煙と共に退場し、玉座の方へ段々と人が集まっていく。

 聞き耳を立ててみると、よくは聞こえないが……どうやらクロにお願いごとを言っているらしい。


「クロさん。……まるで人を物のように扱ってますね」

「うん。でも国家戦力なんだから仕方ないのかも」

「ワタシには擁護できません。こんな低俗なやり方」


 クロの目がこちらへ向く。


「ブラッド。アナタの好きな物、そこのテーブルに並べてあるから食べて頂戴」


 ブラッドはテーブルに目を向けて、瞳を輝かせる。


「……尾長さん、クロさんは案外嫌な人ではないのかもしれません」


 ブラッドまで……。

 よく見るとシバも、獣人たちと混ざってなんだか楽しそうにしてる。

 ハクトはクロのところへ集まって笑ってる。

 みんながまるでクロに操られているような、喜ばさせられているかのような不快感で胸が締め付けられる。

 私は会場の端にあるソファに座り、靴を脱ぎ、その上で膝を抱き抱え身を丸くした。

 ……早く終わってほしい。

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