04.12:誕生日前
教室に入ると、レアールが私に飛び付いてきた。
そしてクロの方を見上げると、私から離れて席に着く。
……何なんだろう。
「みんな、おはよう」
みんながクロにちらほらと挨拶を返す。
ハクトはラド、トニックと話している。
つい、目元に力が入ってしまう。
……なかったことにする気なのだろうか。
いいや、変な想像するより聞いてしまおう。
私はカバンを机に置いて、ハクトの方へと歩み寄った。
「ハクトくん。昨日のこと……」
ハクトと話していたラドとトニックが、気遣ってくれてるのか少し離れる。
「昨日? 一昨日じゃないかな、急に倒れてさ。大丈夫だった?」
胸が妙にモヤモヤする。
私はハクトの手を取った。
「今すぐ話したいことがあって。来てくれる?」
ハクトは顔を赤くしながら頷く。
よくもここまで演技できるものだ。
私はハクトを、上の階にある家庭科室前まで連れていく。
着いて立ち止まり振り向くと、ハクトは私の顔をじっと見つめていた。
「……一昨日のこと隠すつもりなら、話合わせられるようにしときたくて」
……我ながら、自分の言っていることに虫唾が走った。
ハクトのことがこわいという気持ち。
ハクトとみんなのことを取り繕いたい気持ち、やるべきことを自分の良心で誤魔化す不快感。
それらが押し寄せてきて、嫌な鼓動に胸を打たれる。
「本当にごめん! ……連絡先教えるから、あとはチャットアプリでやり取りしよう」
「分かった」
私は携帯を取り出して、ハクトと連絡先を交換し二人で教室に戻った。
戻ってすぐ席に着き、ハクトにメッセージを送る。
一昨日、私が気絶した後 >
どうなったの?
< 君をワープであそこへ送ってから
みんなと合流したんだ。
君のことはご両親に連絡して迎え
が来たと説明した。
すぐに返事が来る。
ハクトの方を見ると、携帯の画面をじっと見つめていた。
分かった。 >
それで合わせる。
< 本当にごめん(´;ω;`)
それと、クロはこのこと >
知ってる?
< 怪しんでたけど、知らないと思う
よ。
クロは遊園地から帰った後、ハクトが私の誘拐に関係してると知ったのだろうか。
……クロにも誘拐のことはみんなに隠しておくよう言っておこう。
そうでないとハクトを誘えないし。
突然、後ろから携帯を掴み取られる。
振り向くと、やっぱりクロだった。
クロはさっと画面を見て私に携帯を返す。
「やっぱ、主犯は校長かしらね。あの後すぐ逃げていったし」
「クロ。ハクトのこと、クロの誕生日会に誘うよ」
「そう。ちなみに昨日言った立場が何なのかは分かったかしら?」
「私の友達……とか? 難しいよ」
クロは嬉しそうに微笑むと席に着く。
合ってたのだろうか……。
続いて、私の元へと蜜木が駆け寄ってくる。
「おはよ、尾長ちゃん」
「おはよう」
「クロ様ってさ、尾長ちゃんには素直だよね。最近過激じゃないのは……尾長ちゃんの影響受けてたりして」
クロはどこも変わってないと思う。
きっと蜜木が慣れただけだ、でもこんなことは黙っておこう。
「そんなことないと思うよ」
「またまたあ。それじゃまたね」
「うん」
しかし何とも引っ掛かる言葉だ、クロが私には素直だなんて。
……今までは違和感を感じてなかったけど、レクリエーションが終わった後に私とブラッドを屋敷へ誘ったのには、何か特別な理由があるのだろうか。
——授業が終わり、シバの家へプリントを届ける。
今日もまた、シバが受け取りに出てくれた。
「シバくん。明日クロの誕生日会があって……」
「アイツの誕生日なんてとても祝う気にはなれない」
「だよね。でもクロはシバくんのこと、無理にでも参加させるって言ってた。……気持ちの準備だけでもしといて」
シバの顔が段々と青ざめる。
「最悪だ」
「無理言ってごめん。でも私が側にいるから、何も起きないとは思うよ」
「……いやいいよ、お前はお前で明日を楽しむべきだ。俺のことは気にしなくていい」
あの時、シバが呟きを繰り返していたことが脳裏に浮かぶ。
シバにとっては行くこと自体が悪夢だろう。
そう思いながら、染み出るような苦い感情を嫌々味わった。
「どのみち、クロとパーティーしても楽しくないだろうから気にしないで」
「……じゃあ頼らせてもらうよ。またみっともない姿見せることになるかも知れないけど、許してくれ」
「大丈夫だよ」
シバの手を握ると、その顔色が少し明るくなった。
「じゃあまたな」
「うん、また」
シバは頷き、玄関のドアをゆっくりと閉じる。
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