04.--:決闘

 翌日。

 焼壁さんに起こされて朝食を摂り、モニタ室へ入る。

 とても広くて、映画館の一室みたいだ。


「これは複数の魔導ドローンからなる映像と音声になります」

「魔導ドローンですか?」

「はい。魔素をエネルギーとして動いておりますので魔導ドローンです」


 魔導ドローン……。

 武装して魔法を詠唱してくるドローンが頭に浮かぶ。


 大きなスクリーンに映像が映し出される。

 竜炎学園のグラウンドで、クロの向かいにはガチガチの全身鎧を着て、大きな柱と見違うような鉄槌を背負う子供がいた。

 身長はクロの半分ほどだ。


「丁度、始まるところのようですね」


 焼壁さんが私の隣に座り、ポップコーンを手すりのホルダーに取り付けて食べ始める。


「楽しむつもりなんですか?」

「国家戦力の戦ってるところは、滅多に見られませんから」


 確かにそうだけども。

 これは、下手すればどちらかが命を落とす、危険な戦いだ。

 頬に冷や汗が伝う。

 でも隣では、焼壁さんがボーっとスクリーンを眺めている。

 

『それでは、竜炎学園の管理権を賭けた決闘を執り行う! 外部からの手出しは禁止とする!』


 校長のノリに乗った声が聞こえる。

 何だか本当に映画みたいだ。


『それでは、決闘開始!』


 どちらも動かない。

 クロは呆れた様子で、鎧に手のひらを向ける。


『アナタのことは知ってるわ。でもまさか、最年少の国家戦力があんなのに雇われて、ワタクシと戦うことになるなんてね』

『竜炎クロ。アナタのやり方には国家戦力のみんなが気に入ってないんだシ』

『ま、アナタもそっち側よね。いいわ、この世界から消してあげる』


クロは『€ョ#°』と聞き取れない詠唱と起こす。

 四角の光がクロの方から噴き出て、鎧の鉄槌が半分消し飛ぶ。

 ——プシューッと、鎧が煙を出しながら開いて、ボサボサした灰色髪の少女が鉄槌をクロへと向ける。


『¥*%×ギ』

『リペア』『アンチマジック』


 すかさずクロはリボルバー式のマグナム銃を手に取り、鎧へ八発撃ち込む。

 弾は全て命中し、鎧は血を流しながら地面に膝をついた。


『アンチマジックの効果時間は十数秒なのに。タイミングを間違えたわね』


 と、クロに大きな鉄槌が一瞬で叩き込まれる。


 ——パァン!


 鉄槌に触れた瞬間、クロの体はひしゃげた。

 膝を付いていた鎧は消え、全身スーツの少女が校舎の上に姿を現す。

 そしてひしゃげたクロの体は消える。


『手負いの割には早いじゃない。それでどう? 今降参すればアナタのことは許してあげるけど』


 空中へと画面が切り替わって、ボヤけた画質が鮮明となる。

 宙では、クロが透明な椅子にでも座るかのように浮かんでいた。


——グオオォンと、そこへ隕石のような鉄槌が振り下ろされる。

 クロは、地面に寝そべって現れると欠伸をした。

 画面が切り替わり、少女のスーツから血が滲んでゆく。


『竜炎クロ。アナタを反重力の虜にしてやるネ』


 少女の持つ鉄槌が薄く展開していき、クロの目の前に床と壁を作る。

 壁は中心から青白く円状に光っていき——

強く照らしつけてきた。

 そうしてクロは宙に浮かび上がる。


『ふーん。こんなのでワタクシを仕留められるとでも?』


 壁からビュンッと何か小さいものが風を斬り飛んできて、クロの胸を貫通する。

 少女は壁の向こうで石ころを持ち、一個ずつ壁へと投げていく。

 石は壁を通り抜け、クロの体に次々と命中していった。

 穴だらけの体は光が収まると共に地面へ落ちる。


『@%ル』


 緑の光に包まれるクロの体は一瞬で癒え、グラウンドに着地した。

再び壁が光ろうとする。


『€ョ#°』


 壁が消し飛び、クロは少女へと手を向けた。


『こんな死に方、不本意でしょうけど。さよならね』

『降参します!』


 両手を上げて叫ぶ少女に、クロは『サンダー』と言い少女を焼き焦がす。

 少女は口から黒い煙を出しながら倒れた。


 映像が途切れる。

 クロが勝ってしまったようだ。

 焼壁さんは不満そうに、ポップコーンを取る手を止めた。


「もう決着とは。早く終わるような気もしていましたが、準備した甲斐がありませんね」

「焼壁さん。家に帰らせて下さい」

「……今はどうやら揉めているようなので、二人で映画を一本見てからにしましょう」


 スクリーンには、映画制作会社のロゴと短いムービーが流れ始める。

 そして宇宙から地球へと隕石が流れる、迫力ある映像が流れ始めた。

 

 本当に揉めてるのか、焼壁さんが映画を見たいだけなのかは分からないけど、焼壁さんの目は輝いてて何だか楽しそうだ。

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