04.10:お化け屋敷

 パーク内にはそれなりに人がいた。

 家族連れの夫婦や高校生くらいのカップルなどが、レンガ敷きの通路を楽しそうに歩いてる。


『マインドコントロール』『スリープウォーキング』


 ……クロの詠唱が聞こえた直後に他の人たちはぞろぞろと入場口へと来て、遊園地から出ていく。


「これで並ばずに済むわね」


 みんながドン引きでクロを見つめる。

 クロは欠伸した後、入ってすぐの巨大なマップボードをマジマジと眺めた。


「まずはお化け屋敷にでも行こうかしら」

『ワープ』


 私たちは一瞬でお化け屋敷らしき建物の前に出る。

 苔の生えた外壁と血の跡みたいなのが染み付いたバルコニーは、呪われた古民家ぽくて雰囲気はあるけど。


 恐怖心をワープ前の場所に置き忘れたかも知れない。

 服裾を背後から引っ張られる。

 そちらへ体を捻ると、レアールがお化け屋敷の方を見上げていた。

 

「こわい。入りたくない」

「あ……そうだね。私とレアちゃんは他のアトラクション行くね」


 私がクロにそう確認すると、クロはニヤリと笑った。


「ここに番号を書いたクジがあるから、その順番で二人ずつ中に入って出口から出てきてね。出てきたら次のペアが入って。レアールは……ラドのお父さんとワタクシとで留守番でもいいわよ」

「やっぱり入る」


 クロと一緒に待つのが嫌みたいだ。

 いつの間にかクロは、棒が十本入った空き缶を手に持っている。

 レアールはクジを引きに、クロの元へと駆け寄った。

 みんな黙って引いていき、最後に引いたレオが棒の先に書かれた番号を見て嬉しそうに叫ぶ。


「よーっし! オイラ一番だ!」

「あっ、うち二番だよ!」

「じゃあレオとピアーズが最初ね」


 レオとピアーズがお化け屋敷のロビー奥にある扉へ入っていく。

 数秒後、中から二人の悲鳴が屋敷を突き抜けてくる。

 

「他のみんなも番号言いなさい」

「われ三番」

「ワレは四番」


 ラドとトニックが顔を見合わせ、フッと笑みを浮かべる。

 仲がよさそう。


「おれは五番」

「……六番」


 バツは恥ずかしそうに俯き「よろしく」と言う。

 レアールは返事をせず、こちらへ得意げにピースして指をカニのように動かす。

 何のサインだろう。


「じゃん、私は七番でした」

「八番。……尾長ちゃん、よろしくね」

「うん。恐かったら私について来てくださいね」


 ハクトは少し恥ずかしそうにしながらも、私と目を合わせて話す。

 クロが不満そうにこっちを睨んでる。

何か気に入ってなさそうだけど、理由はさっぱり分からない。


「九番はワタクシね。ワタクシと二人きりじゃ萎縮するだろうから、十番と十一番は一緒に来なさい」

「わたし十番」

「我は十一なのです」


 ハルと甘の目が死んでいる。


 お化け屋敷の隣にあるトンネルから、身を縮めて抱き合うレオとピアーズが出てくる。


「そ、外だ」

「やっと出られたねレオくん」

「うん」


 二人はボーっとしてる。

 お化け屋敷ってそこまで恐いものではないと思うけど。


「早かったわね。……次はラドとトニックね」

「われらは恐いもの平気だからな。すぐ帰ってくるぞ」


 二人は悠々とお化け屋敷の中へと消えていく。

 また数秒で、二人の悲鳴が上がった。


「はい次」


 レアールはバツの手をぎゅっと握り、お化け屋敷の中へと進む。

 かわいい。


「次は尾長たちね」

「行きましょうか」

「うん」


 ハクトと二人でロビーへと入る。

 ロビー内には受付があり、その向こうにロボットがいた。

 観葉植物が置かれていて、お化け屋敷なのに少し落ち着く。


「どうぞ。前の人に気を付けてお進みください」

「分かりました」


 扉からカチッと開錠音が聞こえる。

 ハクトが扉を開け、私たちはお化け屋敷の中へと進んだ。

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