04.10:バス内

◆◇◆◇◆◇◆


 病院の個室ベッドで横たわる校長を前に、ハクトと漆原が丸椅子に座る。


「……ではハクトくん、手筈通りに頼むよ」

「分かりました」


 ハクトは青褪めた顔を漆原に向ける。

 漆原はその様子を無表情に見つめ返した。


「ルール無用な相手には、ルール無用で挑まなければ勝ち目がない」

「でも、いくら何でもやり過ぎな気が」


 漆原は黙ってハクトの肩を叩く。


「ハクトくんはいい思いができるだろう? ……それでは、漆原先生も頼みましたよ」

「ええ」


◆◇◆◇◆◇◆


 竜炎学園に着く。

 グラウンドに集まってるのは全部で九人。

 みんな私服を着てて、男女別れて話してる。


「割と早く集まったな。われの父親が小さいバス借りてくるから、それに乗って行くよ。ちなみにチケット代はわれが払う、気にすんな」

「待って、ワタクシが払うわ。この中でワタクシが一番お金持ってるし、竜炎パークのオーナーはワタクシと知り合いだから割引きして貰えるはずよ」

「マジ? さすが竜炎さん、助かるよ」


 クロ、やり方は汚いけどクラスに少し馴染んできてる。

 私も負けていられない。

 旅行用のバスが校門前に停まる。

 私たちはバスに入って階段を上がった。

 全員が席に着き、バスにエンジンがかかる。


「親父、発進してくれ」


 ラドの父は左肩の上に右手を乗せ、私たちに向かってサムズアップする。

 窓から見える景色が進み始めた。

 校舎の方を見ると、すぐにビル群の中へ隠れてしまう。

 バス内はハルたち四人が一番後ろで和気藹々としていて、他の子たちは少し静かだ。

 私の隣に座るクロが、肩をトントンしてくる。


「尾長。ハクトがアナタの方ずっと見てるわよ」


 振り向いて椅子の上から様子を見ると、ハクトは窓の外を眺めていた。


「窓の外見てるよ」


 クロが私の耳を人差し指ではねる。


「耳出てるから動きでバレてんのよ。抑えとくからもう一回見て見なさい」


 クロの手で耳を抑えられながらもう一度後ろを見ると、ハクトと目が合う。

 ハクトは顔を赤くして目を逸らす。

 なるほど、昨日の授業や食堂でのアレもそういうことか。

 ハクトは獣になりかけだ。


「ラドとトニック、あの老け顔コンビはアナタの胸ばかり見てるけど、ハクトは少し違うみたいね」

「胸……」


 胸とは少し違うところというと、首?

 だとするとクロに反感を持っていて、クロを倒す前に私の命を狙っているのだろうか。

 


「少し話してみたら?」

「でも、ちょっとこわい」

「らしくないわね。シバより絶対マシよ、二人きりになる時間作ってあげるからイチャイチャしてきなさい。ヤバくなったら助けるから」


 なんと強引な。

 まあシバと違って苦手なわけではないし、仲良くなるため話すくらいは全然いいんだけど。


 突然、バスの前席に座っていたピアーズが長いツインテールの髪を揺らしながら立ち上がり、誇らしげに私たちを見つめる。

 一瞬ブラッドと見間違えたが、目の色は紫で髪は少し金色っぽい。

 ピアーズは大きく息を吸うと、大声で喋り始める。


「うちの名前はピアーズ! 他己紹介とかんときはその、ビビってたけどみんな! このクラスで三年間楽しくやろうな!」


 クロが拍手し、みんなもそれに釣られて拍手する。

 そういえば、クラス替えはないんだっけ。

 だとすると三年間クロと一緒。

 やるべきことは変わらないけど、そう思うと何だか胸焼けしてきた。

 胸をさすっていると、ピアーズは恥ずかしいそうにしながらすっと席に着く。


 バスが遊園地に着き、クロが先に降りていくと私に向かって手招きする。


「他のみんなは待ってて」


 みんなはバスを降りて話し始める。

 私がクロの方へと近付くと、クロは遊園地の窓口にいる角張った顔のロボットに手をかざす。


「イラッシャイマ……ア、ア……ア」


 ロボットは壊れたかのように話すと、口から入場券を出し始めた。

 呆然とするみんなのことを気にするでもなく、何事もなかったかのようにクロが喋り始める。


「ピアーズって目立ちたがり屋みたいよ。小学校ではウザがられてたけど、本人は未だに自覚ないみたいね」

「やめなよそういうの。私はピアーズちゃんのさっきの言葉で尊敬したんだから」


 少し怒ると、クロは横目でこちらを見る。

 とても冷たい目だ。


「ま、今日一緒に遊べば分かることだわ」


 ロボットの口からは合計で十一枚の入場券が出た。

 入場券はトレイの上で束になってる。

 本来は窓口横の発券機にお金を入れて、口から出してもらうのに。

 

「それよりクロ、受付のロボットに何したの?」

「魔法で出させただけよ」


 クロは面倒くさそうに答えると、入場券を持って入口前に立つ。


「みんな、入るわよ。ラドのお父さんも待ってるだけじゃ暇でしょ。入りなさい」


 丁度バスから降りていたラドのお父さんは、丸っこい体を深々と曲げクロにお辞儀すると駆け寄っていく。

 その後にクラスのみんなが続き、一人ずつクロからチケットを受け取ると、入場口の横にある機械に券を入れ、ゲートを通っていった。

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