04.09:帰ってから
二戸建ての白い四角な家を前に、尾長は袋に入った魔導着を持って立つ。
インターホンを押すと、しばらくしてやつれたシバが玄関のドアを開け、閉まらないようにか左肩にドアを当てる。
「シバくん、こんばんは」
「本当に来たのか。……」
シバは虚な目で魔導着を見る。
良かった、クロはシバを殺したりなんかしてない。
私の魔導着とブラッドのには、裏地に名前が入っていたしサイズも微妙に違っていた。
こういった、その人用に改造の施されてるものを受け取れば嬉しくなって学校に行きたくなるだろうか。
それとも……逆効果だろうか。
とりあえず笑顔だ。
尾長は悲哀に満ちた目を変え、シバに笑みを向けた。
「今日、魔法の実技があったんだよね。その時に魔導着が配られたから持ってきた」
「ありがとう」
シバは無表情で両手を向け、私が差し出していた袋を受け取る。
一昨日の朝と違い、まるで覇気がない。
「……お父さんとお母さんは?」
「遅くまで仕事で、今はオレ一人だよ」
「ごめんね。退屈だよね」
私が謝ると、シバは目を細めてから俯いた。
「心配しないでくれ、オレが悪かったんだし……。それに退屈はしてない、ゲームで時間は潰せる」
「よかった、何もできないわけじゃないんだね」
「ああ。……尾長、お前はオレのこと悪く言わないんだな」
と、鈴の音と共に家から白いネコが飛び出す。
すかさずそれを捕まえ、抱き上げる。
ネコは「シャーッ」と私を威嚇してくるけど、爪は出してきてない。
「悪い尾長」
「ネコ飼ってるんだね。名前は?」
「ロケット。よく一直線に走ってくんだ」
「なるほど。……ちょっと上がるね」
私が家の中に入りロケットを離すと、本当に一直線に走っていく。
そして行き止まりでドリフトし、スタスタと右手にある部屋の中へと歩いた。
シバは家の中へと戻り、その部屋に通じる扉を閉める。
「シバ。明日クラスの何人かと遊園地に行くんだけど、どうかな?」
「……悪い。明日病院なんだ、心の病院ってヤツ」
「そっか。じゃあまた今度行こうね」
私は家を出て、玄関を閉じる。
……よし、気を取り直して帰ろう。
夕あかりの差す帰路を歩き、自宅に着く。
シバの家と比べて小さいけど、庭は広い。
多分家二十個ぐらい建てられる。
「おばあ。帰ったよ」
「きいろ、おかえり」
おばあが居間の方から顔を出す。
小さな倉庫のような更衣室に入り、私服に着替える。
「ねー、おばあ。今日は具合どう?」
「よかよ? ゲームばやっとった」
テレビ画面は、確かにゲームのものだ。
どてかい竜の足を剣で叩いている。
——翌朝。
起きておばあに挨拶し身支度を終え、おばあと一緒にテレビ放送の体操を始める。
おばあはベッドに座ったままでの体操だ。
「おばあ、今日はクラスのみんなと遊びに行くね」
「そうなんね」
おばあは眠たそうな顔をしかめ、湿布のような物を浮かせ、私の上着を捲り背中に貼り付ける。
「何貼ったの?」
「特製湿布よ。貼ってる間、緊張したら気持ちを落ち着けて魔法使いやすくなるんよ。軍校の生徒として国民んことは気遣いなさいね」
「分かった」
おばあは私の服を戻し、尻尾真上の背中をポンポン叩く。
あれ、なんで私が魔法使えるようになってることを知ってるんだろう。
……まあおばあは何でもありな人だから、気にしても仕方ない。
立ち鏡の前に立ち、身だしなみを確認していく。
薄ピンクの短いダミーファーが全体に付いたシャツ、下は短い茶色のズボン。
鏡の自分に向けて両手でサムズアップする。
もうちょっと可愛い感じにできそうだけど、これなら迷子になっても見付けてもらえそうだ。
携帯とハンカチをズボンのポッケに入れ、手ぶらで玄関へ向かい靴を履く。
振り向くとおばあが見送りに、リビングから出てきていた。
「それじゃおばあ、行ってきます」
「うん。楽しくやるんよ」
「はーい」
いってらっしゃい、とおばあは笑顔で手を振っている。
まだまだ剣と魔法の勉強中と言っても、私は軍校の生徒なんだ。
気を付けないと。
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