04.09:喧嘩

『サモンウェポン』


 山羊梅は槍を手に取り、シュバッと一気にアカの首元へ突き立てる。

 しかし届かず、剣の刃がそれを叩き落として槍はカランと床を滑った。


 ——ズドッ。


 山羊梅は急いで槍を拾おうと振り返るも、背後から薙ぎ払われて壁に叩き付けられる。

 そして立ち上がる暇もなく、剣をドスドス刺され始めた。


「せ、先生。アカを止めなくていいんですか?」


 その言葉など聞こえていないかのように、先生は黙って山羊梅を見つめていた。


 このまま見てられない、私はアカの方に手を向け『クッションコート』と唱える。


 ……あれ? 詠唱できてるのに魔法が発動しない。

 仕方ない、私が槍を拾って——


 ゴォン。


 見えない何かにぶつかった瞬間、目の前が薄緑色に光る。

 魔法障壁だ……。


「尾長は友達だから助けたけど、他の子は弱いならこうやって死んでもらうわ。尾長のように頭を使えるわけでもなく、アカに一撃入れられない程度のザコ、いらないし」


 殴られ続けた山羊梅は、ゴトンと床に倒れて口から血を漏らす。

 それと共に、アカは動きを止める。


「そうそう、魔法着があると言っても衝撃は多少あるの。あんな感じで一方的に攻撃を受けたら死ぬわね。じゃあ次、レオ」

「はい!」


 レオは苦い顔をしながら、アカの方へと駆け寄っていく。

 尾長は立ち上がり、山羊梅の近くへと歩み寄る。


 ——目の前で人が死んだ。


 立ち尽くしていると、誰かが私の体をズリズリと引っ張り、山羊梅から引き離す。



 実技の授業が終わり、更衣室内で着替えていると、私とブラッドのところへハルと甘が来る。

 私以外のほとんどはサモンウェポンとかいう魔法で武器を出して戦ってた。

 魔法だけを使ったのは蜜木と火売、甘ともう一人だけだ。


「尾長ちゃんは初めて魔法使ったの?」

「うん。あんな感じで出るんだね」


 あの時の感覚を思い出しながら、手をニギニギする。

 魔法の使い方はおばあから教わっていたけど、今まで使うことは出来なかった。

 やっぱりクロが魔力を分けてくれているから、さっきは使えたのだろう。


「変なのです、魔法を今まで使ったことがないなんて。クロさんみたいに使えないのはともかく、フロートだとかは日常的に使うのです」


 甘がジットリとした目をこちらに向けた。

 そういえば、クロがモノを浮かせる時そんなの使ってた気がする。

 魔力を借りてるって正直に言った方が、この子と仲良くなれるだろうか。


「実は私、魔法は」


 言おうとすると、クロが割り込んできて尻尾を掴んできた。

 ……背筋がゾクゾクする。


「尾長。ちょっと来て」


 クロに更衣室まで引っ張られる。

 そして扉を閉め無理やり魔導着を脱がせてくると、私の素肌をジロジロ観察し始めた。

 女子たちはみんな、こちらを見ないようにしてる。


「クロ!」


 クロは私の叫びを無視して両手を掴み上げてきた。

 うう、さすがに恥ずかしい。


「魔法使ってたとはいえだいぶ斬られてたでしょ。……ふーん、怪我はないみたいね」

「それよりどうしてこんな、模擬戦でクラスメイトを死なせるなんておかしいよ」

「そりゃあ、あんなのでも爆弾を抱えさせれば使えるかも知れないけど。その程度で倒せるような敵はいないのよね」


 クロは一体何の話を……。


「ザコは軍校に要らないのよ」

「友達を作りたいって言ってたのに。本当にそれでいいの?」


 掴んできていた手が離れる。

 大事な目標、思い出してくれたのだろうか。


「尾長はシバのこと、忘れたのかしら。……アレがいい例よ。ザコは組織内部を腐らせる発想しかない。ザコだから敵を倒す選択肢、取れないのよ、。分かったらさっさと服着なさい」

「それならそうと教えた方がいいんじゃないの? 教えずにただ命を奪うなんて……」


 クロは鼻で笑うと、つまらなさそうな顔で更衣室から出ていった。

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