04.09:剣と魔法の実技
「まずは魔導剣士として動き易い服を配る。高いものだからなくさないように」
クロがプラスチックの袋に包装された魔導着を浮かべ、クロの元へと並ぶクラスメイトが差し出した腕中に落としていく。
「魔物の素材を混ぜ合わせた生地に竜鱗をあしらった、高級な魔法着よ。着用者には加護が付いて、素肌を露出させた部位の斬撃と魔法もある程度は防げるの。それとこういった魔法具は、魔物が着ても効果はないようになってるわ」
クロから袋を受け取る。
袋に入った服は重く、少々分厚い。
説明はありがたいものの、最後の一言は必要ないのでは。
……いいや、私が着ても効果ないということか!
クロは私に魔力を貸してくれてて、その贔屓が不気味に思えてたからか安心する。
「それじゃ、更衣室で着替えたら体育館へ集まってくれ」
漆原はそう言い、クロと共に教室を出る。
二人は着なくても大丈夫みたいだ。
私たちは着替えて体育館に集まる。
壇上前には台車付きの壁板に、腕から剣を生やした生気のない女子が掛けられていた。
壁板に打ち付けられた長い二本の釘に腕を掛けている。
髪の色は赤色で、私たちと同じ魔法着をきてる。
「まずはお前たちが現時点でどの程度戦えるか、この人形と手合わせしてもらう」
漆原先生が人形のうなじに触れると、人形は一人でに動き始め、台車から降りた。
「この人形の名前はアカだ。アカ、ここにいる生徒二十人と手合わせしたら休止状態に戻れ」
アカはまるで人間のように頷く。
他己紹介の時は二十四人いたはずだから、四人居ない。
……今回も人が減ってしまうのだろうか。
「開始合図は先生がピストルの空砲を鳴らした瞬間となる。これからアカの首に掛ける鉄輪を落とせば終了とする。最初はブラッド、お前が手本を見せてやれ」
ブラッドは人形の前へと立ち、息を整える。
『サモンウェポン』
詠唱が起き、ブラッドの手には禍々しい棘だらけの両手剣が握られる。
武器自体あまり見たことないけど、これはどういう武器なんだろう。
「ブラッド、そういう武器はダメだから。こっち使って」
クロが剣の鞘を持って、ブラッドに向けた。
ブラッドの握っている両手剣は、ブラッドが離すと光に散って消える。
そしてクロの持つ鞘から柄を掴み取り、ロングソードを引き抜く。
——バン!
空砲が鳴り、アカがブラッドに歩み寄る。
——キイィィイン
ブラッドはアカの振り回す剣をロングソードで押し返すと、ふらついたアカの首元を剣先で突く。
鉄輪が開いて地面に落ち、アカは動きを止める。
一瞬で決着がついてしまった。
「流石だな。ま、最初はブラッドみたいにできないのが当然だ。魔法教えてすらいないからな。次は尾長」
「はい」
……剣もなしにどう戦えと言うのだろう。
アカを前にすると、腕の剣へと目がいく。
ちょうど抜け落ちた一本の赤い毛が刃先に触れただけで、二つに切れて空中を少し漂う。
何だか膝が震えてくる。
「緊張しなくていい。先生が魔法の使い方を教える」
「分かりました」
アカの剣がギラリと光る。
そうは言われても、こわい。
——バン!
空砲が鳴り、アカが距離を詰めてくる。
尾長は尻尾をへたらせその場に座り込み、アカから目を背けた。
目を背けた瞬間にアカは一気に距離を詰め、尾長に剣を突き立てる。
まさか、こんな風に終わりが来るなんて。
おばあ。先に死んじゃってごめん……。
……腕に剣先が触れた。
痛くない。
よく見ると、アカの剣を両方ともクロが手に握って止めていた。
「魔法は空気中の魔素から構成される。それを使うこと自体は難しくない、ただ自由に想像し念じればいい。魔法が発現する際にはその魔法を現す詠唱が起こる」
ただし魔力が足りていなかったり、性質が合っていないと詠唱は起きない、初めは想像のスケールを下げていくといい。と先生は淡々と続ける。
その間にクロの握る剣の刃先から、血が柄へと少しずつ伝っていく。
早く剣を離させて魔法を撃たないと、クロの手が。
「尾長、一度深呼吸して。落ち着いてやれば上手くいくから」
言われた通り深呼吸する。
イメージしたのは、クロの手が傷付かないよう、アカの剣が変化する様子だった。
『クッションコート』
剣の刃周りにオレンジの光が纏わりつき、クロは手を離す。
剣先が私の首に触れる。
オレンジの部分だけが当たって柔らかい、ふわふわしてる。
剣を叩きつけられても何ともない。
直接アカの鉄輪に触れて外し、空に掲げて見せる。
「珍しい魔法が出たな。次は山羊梅だ」
「はい」
疲れた、ブラッドの隣に座らせてもらう。
ブラッドは黙って私の背中をさすってくれた。
クロが手に包帯を巻き付けてる。
……あそこまでしてくれなくても良かったのに。
でも、本気で気を遣ってくれてるみたいだ。
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