04.09:孤独さ

 私たち三人は一緒に学校へ向かう。

 ブラッドは相変わらず浮かない顔だ。


「そういえば二人とも。休みの日は何してるの?」

「ワタシは勉強とかが終わったらダラダラしてるだけです」

「ふーん。尾長は?」


 多分、私たちを遊びに誘ったりする気なのだろう。

 ブラッドはいいけど、今クロと仲良くなり過ぎるのは避けたい。

 失うものが多いだろうし、小学生の頃と同じ日々を過ごすことになる気がする。


「おばあと一緒に過ごしてるよ」

「じゃあ今週末は三人で、どこか遊びに行かない?」

「ごめん、おばあが最近体調悪くしてるから離れたくない」


 クロはワタシの方を睨んだ後、ブラッドの方を見る。


「ワタシは休日、一人でゆっくり過ごしたいから……」

「仲良くする気あるのかしらね。まあいいわ。来週、学校のある日に催しをやるから。クラスの全員強制参加よ」


 ブラッドと一緒に、クロを見たまま固唾を呑む。

 何をやるのか想像付かない、でも何かイヤなことが起こるのは間違いないという予感がする。


「期待していいわよ。絶対楽しいから」


 ブラッドの方を見ると目が合う。

 クラス全員ということはシバもなのだろうか。

 不安だけど、クロのやることを誰に止めることができるのだろう。

 その日が来るのを待って、まずいことが起きそうなら抵抗するしかない。

 

 教室に入ると、何人かが私とブラッドの方へ駆け寄ってくる。

 黒い長髪で日焼け肌の女子、レッサーパンダのような体色と眉模様を持つ猫獣人の小さい男子。

 その子と同じ背丈のオレンジに白いバツ模様がある犬獣人男子、それより少し小さい、短い銀髪でジットリとした赤い目を持つ狐獣人の女子……。

 そんな四人に取り囲まれた。


「尾長ちゃんとブラッドちゃん、クロちゃんおはよ」

「尾長様、昨日は凄かった。感動したよ!」


 日焼け肌の子が口を開き、続いて猫獣人の子が口を開く。


「ハルちゃんとレオくん、それにバツくんと甘ちゃん、おはよ」

「あの勇気ある行動には尊敬してしまうのです」

「オイラたち、二人のこと大好きだ! 今度一緒に遊ぼうな!」


 四人は元気そうに言うだけ言うと、私の席より一つ前にある、クラス中央の席へと集まり楽しげに会話を始めた。

 まるでこのクラスの中心にいるみたいな風貌だ。


「アイツら、尾長に共感して見せてこのクラスを仕切るつもりみたいね。まあ、シバや山羊梅みたいな害はなさそうだし放っておくけど」


 クロはつまらなさそうに右前の席に着く。

 蜜木ちゃん、火売ちゃんがクロのところへ寄っていった。

 と、山羊梅が教室に入ってくる。

 良かった、生きてた。

 だけどクロやクロを支持するクラスメイトから何かされてないか、これから何かされたりしないか心配だ。


「山羊梅ちゃんおはよ」

「何。叱りに来たの?」

「あの後、クロから何もされてないよね」


 山羊梅はこちらを見ずに黙っている。

 私のことを随分と嫌っている様子だ。


「またクロが何かしてきても私が守るから、安心してね。……じゃあまたね」


「気絶させられてたくせに、何様よ……」


 尾長が離れると、山羊梅は小さな声で呟いた。


 尾長は席に戻り、何気なくクロの方を眺める。

 蜜木と火売はクロから離れると、二人でコソコソとした会話を始めた。

 尾長の少し弛んだ耳がピンと張る。


「全然ダメ、おだてても乗ってくれないね」

「どうしよう。あたしたちもそのうち殺されるかも……」

「けど他にやりようないし、もうしばらく頑張ろう。クロに付ければ、もっと自由に楽しく過ごせるだろうし」

「そーね」


 なんだか打算的な内容だけど、状況がひどいせいで前向きなものに聞こえてしまう。

 私はクロを止められるよう、頑張らないと。


 ……山羊梅ちゃんの方はボーっと窓の外を眺めている。

 なんだかあまり気分がよくない。

 全く違う事情なのに、小学生の頃の自分と山羊梅ちゃんを重ねてしまう。

 あの時と同じ寂しさを感じる。

 

——キーン コーン カーン コーン


 誰がクラスからいなくなったのか確認する暇もなく、一限目の予鈴よれいが鳴る。

 みんなが体育館シューズの入った袋を持って、教室から出ていく。

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