04.08:お泊まり会
ご飯を食べてこれまた広いお風呂に入り、用意されている浴衣に着替え寝室へと入った。
室内には魔族の皮だろうか、何か妙な感触をした緑色のものが敷かれている。
その上には、たった今並べたかのようなベッドが三つ並んでいた。
「寝る前に少しお話ししましょ」
クロはベッドに座り、ベッドとベッドの間に足を入れ込むと、私たちを見つめてくる。
私とブラッドはベッドに正座で座った。
クロはブラッドが他己紹介を受けた時に笑ってたし、悪い予感がする。
「尾長が入学したのは魔族たちと対等の力を得て仲良くなるためだったわよね。ブラッドは何のために入学したの?」
「近くにあったからで、特に理由はありません」
「まあ大体はそうよね。趣味は?」
ブラッドは咳払いすると、目を瞑って答える。
本当のことを言いたくはないけど言っておこう、そんな雰囲気だ。
「ゲームしたり、漫画読んだりとかです」
「そうなんだ。どういうの?」
「ゲームはパソコンでできる人気のものは大方。漫画は少年漫画とか……。アニメ見たりもします」
クロはどうもピンと来ていないらしい。
詰まらなそうな顔で「へぇ〜」と声を漏らす。
私はゲームなら、夜におばあがやってるのをよく見る。
「VRのMMOオンラインゲーム知ってる? マジックネスっていう」
「それやってます。尾長さんも?」
「ううん、おばあがやってるところをテレビの画面共有で見てる」
ブラッドが嬉しそうに微笑む。
……クロはつまらなさそうに私たちを見てる。
クロは案外、普通にお喋りするつもりなのだろうか。
だとすると知らないことの話って混ざりづらいだろうし、話題を変えておこう。
「そういえば、クロはどうして入学したの? 国家戦力なら、入学する必要なんてないと思うんだけど」
「竜炎学園はワタクシの親が出資して建てたものでね。暇だしちゃんと運営してるか気になって入ったんだけど、校長のこと気に入らなかったから。ワタクシが運営することにした訳」
「そうだったんだ」
「……照明が明るすぎるわね。ちょっと暗くする」
クロが指を鳴らすと、天井に浮く四角の照明から出る色が、白から薄オレンジ色へと変わる。
クロは欠伸し、ベッドの上で横になった。
「尾長ちゃん。クロさんからちょっと聞いたのですが、尾長ちゃんは魔族と仲良くなりたいんですか?」
「私、よく獣人と人のハーフって言われるけど。獣人の血は流れてない魔族だから。駆除のニュースとかは、見てて何とも言えない気持ちになるんだよね」
ブラッドは何か言おうとしてやめる。
掛ける言葉がないというヤツだろう。
ちょっと重いこと言ってしまったか。
……クロはなぜか嬉しそうに笑ってる。
「そう言えば、ブラッドはまともに他己紹介できてなかったわね。今ここで簡単にやる?」
「やります」
「じゃあ、名前は飛ばして好きなことを一個挙げていきましょうか。ワタクシが好きなのは魔族の駆除ね。ブラッドは?」
ブラッドは固唾を呑む。
クロ相手にまだ緊張しているのだろう。
私もちょっとこわいけど、クロの反応からして他己紹介で笑ってたのは気のせいだった気がしてきてる。
……今言ってた好きなことも、多分悪気はない。
「ダラダラするのが好きです、たくさんお昼寝したりとか。……尾長さんは?」
「庭で日向ぼっこするの好きだよ」
ブラッドとクロは頷く。
そんなに納得できる好みだったろうか。
「じゃあまずは尾長、ワタクシのことをブラッドに他己紹介して」
「この子は竜炎クロ。クロが好きなことは魔族の駆除だよ」
「ブラッド。尾長を他己紹介して」
「この子は尾長ちゃんです。尾長ちゃんの好きなことは日向ぼっこです」
「次はワタクシね。この子はブラッドレス・ハインフォード。ハインフォード家といえばワインの醸造所が有名かしら。好きなことはダラダラすることね」
クロは一人で拍手する。
なんだろう、このイヤではないけど決して心地良くもない雰囲気は。
「ま、これから仲良くやっていきましょう。おやすみなさい」
クロはそう言ってベッドに潜り、寝息を立て始める。
ブラッドは肩の力が抜けた様子で、私に寄りかかった。
「ブラッド、大丈夫?」
「今日はお互い大変でしたね。クロさんも……お疲れみたいです」
ブラッドの声色が優しい。
クロが眠ってくれて、ようやく気が休まりそうというような様子だ。
「もしブラッドが明日虐められても、助けを呼んでくれたら助けるよ。クロも、あんな感じだけどそうすると思う」
「ふふっ……ありがとうございます」
ブラッドは私に寄りかかったまま倒れ、眠り始める。
あまりに早かったので、気を失ってしまったのかと思ったけど、ただ眠かっただけみたいだ。
私はブラッドをどうにか布団の中に入れ、クロとブラッドの間で目を瞑る。
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