04.08:いじめ

「ブラッドちゃん、大丈夫だよ。誰にだって恥ずかしい経験あるから」

「うう……情けない限りです」


 クロはブラッドのことを気にも留めず、クラスメイトにゲームルールを説明してる。

 花畑には一瞬で、クロを中心として円状に椅子が並ぶ。


「それじゃあみんな座ってね。ほら、尾長とブラッドも座りなさい」


 ブラッドは立ち上がると、嫌な笑い声を通り抜けて進み、空いている席に着く。

 私は黙って席にお尻を着け、ピシッと座るブラッドを眺めた。

 みんな、シバの時より落ち着いてる雰囲気だけど、気に入らない。

 しかし、いつの間にクロを支持するような子たちが出てきたんだろう。

 昨日の教科書運ぶ時に教室では会話があって、そういうグループができていたのだろうか。


「ルールを説明するわ。リンゴかモモ、どちらか好きな方を一人ずつ言ってね。その後ワタクシがどちらかを言うから、ワタクシと同じことを言った子だけ立って歩いて、音楽が止んだら空いてる席に座って。間違えて立ったり、座れなかった子は殺すわね。じゃ、尾長から時計回りに言って」


 殺すと聞こえたような気がするけど、先生はクロを注意してないし、きっと気のせいだろう。


「リンゴ」


 次の子は言葉を詰まりながらも、「リンゴ」と答える。

 気のせいではなかったかも知れない。

 みんな次々とフルーツの名前を言い始め、リンゴと言った子は何だか安堵しているようだ。

 ブラッドの番になり、彼女は「モモ」と答える。


「モモ」


 モモと言った子たちが席を立ち、歩き始める。

 ブラッドは席から立った後、山羊梅から足を引っ掛けられて転んだ。


「は? ブラッドやる気あんの?」

「また漏らしそうならトイレ行きたいですって言えば?」


 周りから女子のヤジが飛ぶ中、音楽が止みブラッドだけが席から外れる。


『サンダー』

『フロート』


 ブラッドは剣を浮かせて盾にし、クロからの魔法を受け流した。


「お、これで壊れないなんていい剣じゃない。でも殺すと言ったし、次はもう少し出力上げようかしら」


 どうやら防ぐのは構わないらしい。

 殺すと言っていたのに一撃で済ませているあたり、やはり根は優しいのかも。


「次のお題はブラッド、あなたが出しなさい」

「タマゴかヒヨコ……」


 ブラッドは怯えた様子で声を小さくする。


「何? 聴こえな〜い」


 また女子のヤジが飛ぶ。

 赤髪で長髪の男子が少し嫌そうにそちらを睨むも、隣の男子に小突かれて目を逸らす。


「ブラッド。ワタクシも聞こえなかったわ」

「タマゴかヒヨコです」

「何でタマゴかヒヨコなのお?」


 深呼吸して席を立ち、何度も野次を飛ばしてる子の前へと向かう。

 山羊梅……だったっけ。

 さすがにこれ以上は許せない。


「何よ。竜炎様の友達だからって調子乗ってんの?」

「尾長。まだ立つタイミングじゃないわよ」


 山羊梅はジトっとした目をこちらへ向けたまま、足を組んでニヤリとする。


「……ブラッドちゃんは悪いことしてないのに言い過ぎだよ。クロも注意してよ、竜炎様なんて呼んで支持するグループができちゃってるのはクロにも責任あるんだから」


 クロは自身の腕を組んで私をじっと見つめると、フフッと笑う。


「そんなのができてるなんて知らなかったけど、ゲームの邪魔をしてまで言うことなのかしら。まあいいわ、山羊梅。出来の悪い子と思っても悪口は言わないようにね」

「いじめもダメ」

「……いじめもダメ。これでいいかしら」


 頷いて席へ戻ると、背後から舌打ちが聞こえる。

 するとクロが椅子から立ち、山羊梅に手のひらを向けた。


『サイン』


 それを聞いて、私の体は山羊梅の方へ飛び込んでいた。


ビョオオオお、と電撃に溺れるような声が、自分の喉元から聞こえる。


「邪魔しないでよ尾長。今決めたことを破ったらどうなるか、みんなに教えるところだったのに」


 朦朧とする意識の中、山羊梅の方に目を向ける。

 山羊梅は私を見下ろしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る