覇者の靴

04.07:愚者の盾

　クロが魔法で教科書を全て宙に浮かせて運びながら、漆原の真後ろを歩いている。

　隣にはブラッド、シバは私の背に息を当て、隠れながらついて来てる。

　そこまでして来なくたって良かったのに。

「アンタら悪いわね。ワタクシ一人で運んじゃって」

「……クロさん。どういうつもり、なんですか？」

「何が？」

　ブラッドはすぐに振り向いてきたクロへの返事をためらいつつも、言葉を続ける。

「入学式で、人にあんな酷いことして。さっきの喧嘩は正当防衛に見えましたけど、でも暴力で何でも解決してたら……みんな恐がっちゃいます」

「何言ってんの。アナタたちにはもっと恐がって貰わないと困るのよ」

　クロはそう言って立ち止まると——私の後ろにいるシバが、何かから押されるようにして出てくる。

　クロの魔法か何からしい。

　シバは私の目前に座り込んで、身構える。

「で、何でアンタも手伝いに来たのかしら」

「オレは尾長と昔っから仲がよくて今も付き合ってる。朝のだって、尾長に言われたからやったんだ！」

　少し鳥肌が立つ。

　私を盾にするために告白して、こうして一緒に来たという訳らしい。

　クロはシバを見つめると、笑みを浮かべた。

「そうなんだ。朝は随分と威勢が良かったみたいだけど、ワタクシに腕を折られたのがそんなに痛かった？」

「本当だ、本当に尾長に言われたからやったんだ。な、そうだよな？　さっき言ってたことだって覚えてるよな？」

　そんな風に助けを求められても困るけど。

　……でもどんなにイヤな子が相手でも、友達でいるのは悪いことじゃないはずだ。

　私、クロ、とキョロキョロ視線を移し慌てふためいているシバに、クロは冷ややかな目を向けている。

「見苦しいわね」

「クロ。シバの言ってることは本当」

　私が言いかけると、クロは裾から拳銃を出し、シバの首筋を銃口でなぞる。

「尾長から言わされていたのね。でももしそれが嘘なら……嘘を付いたその度胸をじっくりと試してあげる」

「ほ、本当だ。本当なんだ」

　クロは銃を離す。

　シバは座ったまま壊れたように、「本当、本当なんだ」と呟き続ける。

　その様子を黙って見ていた漆原に、クロは微笑みかけた。

「残念ね、人間ですらない欠陥品にまで入学を許してたなんて。魔物と間違えちゃいそう、これじゃ友達になりようがないわ」

「法で裁かれないとはいえ、やり過ぎだ」

　漆原はシバの前でしゃがみ、肩を叩き何やら耳打ちした後クロの方を見る。

「お前たちは先に教室へ戻っていろ。シバが落ち着いたら教室へ戻す」

「あら。退学処分を下そうと思ってたのに」

「そこはシバに決めさせてやれないか。尾長、お前も何か言ってやれ」

　無表情で私を見つめる漆原先生。

　腕組みして睨むクロ。

　下唇を噛み口元を震わせるブラッド。

　俯いたままのシバ。

　冷たいものが額から頬を通る。

　シバをこれ以上庇えば、私だってただじゃ済まないかも……でも、庇わなかったらシバは二度と学校に来なくなるかも知れない。

　黙っていると、クロは私に詰め寄ってくる。

「そう言えば尾長、何か言い掛けていたわよね？　シバが言ったことはどうとか」

「本当だよ。……私がシバにそう指示した」

　言ってしまった。

　これで私の学校生活は終わりだ——。