第4話



「(今日は災難だったな結局フリーズも1000枚ぐらいで終わっちまったし、全部飲み込まれちまった)」


最悪な気分になりながら、黒方無銘は徒歩で移動する。

手首には、ポリ袋があり、その中には、数少ないメダルで交換したお菓子やカップ麺が入っている。

そのまま、黒方無銘はマンションへと足を運んだ。

番号を入力し鍵を使い、オートロックを解除すると、エレベーターに乗る。

そのまま移動してマンションの扉を鍵を使って開けると、部屋に入る。

サンダルを脱いでズカズカと入っていくと、殺風景な部屋が広がっていた。

実に簡易な部屋だった、まるで引っ越してきた初日を変わらない、辛うじて家具だけが置いてある。


「…おかえりなさい今日はこっちにしたの?」


別の部屋から顔を出してくるのは、一人の女性だった。

淡いチョコレートの様な色合いをした髪を肩元まで生やした女性だ。


「お前の家、パチンコ店に近かったからな」


黒方無銘はそう言うと、テーブルの上にポリ袋を投げる。

敗け続きでイラついているらしく、女性はポリ袋の中身を確認した。


「なに?景品でももらったの?今日は勝ったのかな?…あぁ、ごめん、私の家に来たってことは負けたって意味だよね」


彼女の分かった風の口調に、黒方無銘は舌打ちをしながらソファに座る。


「うるさいな、黙ってろ雪代ゆきよ


即座に、雪代と呼ばれた女性は黒方無銘の隣に座る。

黒方無銘は懐から煙草を取り出すと、彼女はテーブルに置かれたライターで火を点す。

そして、雪代もまた自分のテーブルに置いた煙草を取り出して火を点した。

二人で一服する中、彼女は灰皿に煙草の灰を落としながら言う。


「私の家、ホテルじゃないんだけどな」


そんな事、知った事かと、黒方無銘は天井を仰ぐ。

一日中打ちっぱなしだった為に、腹が空いている事を思い出す。


「腹ぁ減ったわ、何か飯食わせろよ」


「私はあなたの家政婦でもないんですけど…一体何様のつもり?」


煙草を吸い、紫煙を吐く。

その紫煙に向けて手を伸ばし彼女の口に咥えた煙草を掴むと火の先端を親指で消す。


「お前は俺の言う事ォ、聞いとけばいいんだよ」


少しイラつきが優る言葉。

それは脅しの様にも聞こえるが、しかし雪代は平然としている。


「せっかちな人ね全く…、はいはい、言われた通りにすればいいんでしょうご主人様」


立ち上がると、キッチンへと移動する。

黒方無銘は、テーブルに足を乗せながら目を瞑る。

台所からは、飯を作る音が聞こえて来た。


「適当にあり合わせのもので作ったけど、別にそういうの気にしないよね」


料理を乗せた皿が運ばれる。

黒方無銘はその皿を受け取った。

簡単な料理、チャーハンだった。

銀色のスプーンを使い、料理を口に運ぶ黒方無銘。

食事を開始して、開口一番に放つ言葉が。


「お前の飯は、何食っても同じ味だな」


「料理作った人に対してそんな言い方する人初めて」


くすりと笑いながら、彼の隣に座ると、雪代は食事中の黒方無銘の隣で再び煙草に火とつける。

そして、夢を見るかの様に、細い目をしながら黒方無銘の方を見つめた。


「本当にあなたって最低ね」


しかし、それが幸せの様に、雪代は黒方無銘を見ていた。

それ以降何も言わず、料理を完食する黒方無銘。


「ご飯食べ終わった?お皿はそのままにしといて、後で片付けておくから」


雪代は自室へと移動してパソコンのキーボードを弾いている。

彼女の仕事は、自宅で出来るものだった。

黒方無銘は仕事を始める彼女の後ろへと近づき、服の上から彼女の胸を掴むと、彼女は後ろを振り向いて黒方無銘の方を見た。


「何?もしかしてシたいの?急に後ろから掴んでくるなんて…。言っておくけど、私今日は危険日なんだけど」


彼女の言葉に、黒方無銘は吐き捨てる。


「お前の事情なんて知ったことかよ」


椅子を動かして黒方無銘の首筋に手を回す。

黒方無銘は彼女を抱き上げてベッドの方へと向かっていく。


「本当に困った人ね」


困りながら、まんざらでもない様に、雪代は言うのだった。

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