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ここで少し───
彼女の境遇について、話をせねばなるまい。
何せとても特殊な少女なのである。しばしお聞きなさい。
彼女には、欠如しているものがある。
それは記憶。
生まれてから可成り長い間の、記憶である。
気付けば、彼女は旅をしていた。
しかし記憶を失くしている。それ以前の自分については、
全くもって分からぬ状態であった。
彼女は無論困った。
しかし、必死に過去のことを思い出そうと頑張ったところ、
覚えていたことが、二つ。
一、一篇の詩。私が物語を語り始める前に読み上げた、あの詩。
二、自分は"魔女"に会わなければならぬ、ということ。
これだけ。
あとは自分の名前も、親も、何にもわからない。
これに気付いた時彼女は更に困惑したし、随分迷いもしたようである。
まあ、結局のところだけを言ってしまおう。
彼女は、このふたつの記憶に縋り、"魔女"を探す道を選んだ。
何とも頼りない二つの記憶に縋り、
実在するかも分からぬものを探し始めたのである。
彼女は、可成り強い確信をもってこの道を選んだらしい。
その真意は、彼女だけが知る。
しかし、彼女の選択は一応、報われたようである。
とにもかくにも、遂に辿り着いたのだ。
魔女の森は実在したのである。
しばらく立ち止まっていた彼女であったが、どうやら覚悟を決めたようだ。
「…魔女、きっと会えるよね」
そう呟くが早いか、森の中へと入ってゆく。
彼女は導かれるのだ。
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