第24話:リアルタイム執筆を開始しました⑯

 千歳駅に着いた。

 僕たちは電車を降り、ホームへと出た。

 その瞬間、凍える空気が僕の肌に突き刺さる。

 息を吐くと、白く染まり、頭上へと上がっていく。

 駅を支える鉄柱は錆びつき、塗装が剥げている。

 昔からこの街の住民が使う場所なのだろう。

 悪く言えば、小汚さが残る駅だった。

 階段を降り、自動改札口を出る。

 それから僕は正面玄関を出たわけだが——。


「……す、凄い……ゆ、雪だ」


 千歳駅周辺は、五十センチほど雪が積もっていた。

 僕が住む九州地方ではありえない光景だ。

 あるとしても、数年に一度の割合。

 それに積もったとしても、十センチ程度しか積もらない。

 それなのに、ここは膝が埋もれるほど降り積もっているのだ。


「これでもまだ序の口だよ。二月はもっと積もるからね」

「えっ……やばすぎるだろ」

「それが私の世界。私が生まれ育った場所だよ」


 そう呟き、星座橋㮈月は走り出す。

 雪が溶け、滑りやすい道路だと思うのに。

 彼女はお構いなしだ。

 地元に帰ってきて、気分が昂っているのか。

 それとも、本来の彼女は活発なのだろうか。


「私が生まれ育った街を見たいんでしょ?」

「うん」

「まぁ〜見て回るような場所はないんだけどね」

「……探索する気満々の僕に言わなくても」

「二十分以内にお願いね」

「……あ、あんまりだ。ここまで来たのに」

「ゆっくり観光する時間がないの。私たちにはね」


 二十分で何を見るか。

 逆に何ができるというのか。

 千歳駅周辺の街並みを確認し、道幅が広く、住みやすそうだ。

 そんな感想しか出てこなかった。あと、雪国と言えども、車道や歩道を通れるように除雪されているようだ。科学の発達は素晴らしい。


「ねぇ、何もなかったでしょ。千歳市は」

「……観光場所に行けなかっただけだよ」


 落ち込む僕の腕を星座橋捺月は掴む。

 彼女の手は氷のように冷たかった。


「よし。それじゃあ、行こうか」

「どこに……?」

「決まってるでしょ。死に場所にだよ」


 死に場所か。

 やっと死ねるか。もう死ぬのか。

 僕の感情はどっちだろう。


「死に場所ってどこなの?」


 単純な疑問を投げかける。

 彼女は満面の笑みを浮かべて。


支笏湖しこつこだよ」

「……シコシコ?」

「支笏湖だよ、支笏湖」

「どこそれ……?」


 聞いたこともない単語に、僕は首を傾げる。

 でも、彼女は何も言ってくれなかった。

 僕の腕を引っ張って。


「ほら、行くよ。時間がないんだから」


 欺くして、僕は彼女に引っ張られ、千歳駅周辺に止まっていたタクシーに乗り込むのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る