第19話:リアルタイム執筆を開始しました⑪
羽田空港に辿り着いた僕たちは急ぎ足で保安検査場へと向かう。
オンラインで事前にチェックインを済ませていたことが功を奏し、僕たちは搭乗口前の椅子に座っている。荷物が少ないのは楽である。
「私が隣に居なくても、他の女に靡いたらダメだからね」
北海道行きのチケットを購入することができた。
だが、隣同士に座ることはできなかった。
当日予約が取れただけでも感謝すべき案件だけれど。
ともあれ、機内では捺月とバラバラの座席に座ることになるとは。
「靡くわけないじゃん。僕の神様は君だけなんだから」
「死ぬのやっぱりやめたとか言い出すのもなしだからね」
「あぁ、わかってるよ。そう簡単に気が変わるわけないよ」
「そう。それならいいんだけど……絶対に逃さないからね」
「うん。逃げないよ。寧ろ、喜んで捕まるよ、僕はね」
クリスマスを実家で過ごす人が多いのだろう。
多くの方々が、空港に集まっている。飛行機内でクリスマスを過ごす人もいるのではないだろうか。
「北海道まではどのくらいかかるの?」
「1時間40分だった気がするよ」
「言い出しっぺな僕が言うのもおかしな話だと思うけどさ」
僕は言う。
「あっちに着いたら、その後はどうするの?」
「……キミってさ、本当に考えなしなんだね」
「ごめん。本当にこうなるとは思ってなかったからさ」
「お姉さんに任せなさい。私が全部計画を立てるから」
僕は彼女を信じるしかない。
北海道には一度も行ったことがないのだ。
もう彼女に全て任せよう。他人任せと言われるかもしれないが。
放送が鳴り響く。僕たちが乗り込む飛行機だ。
キャビンアテンダントが機内に乗るように促す。
着々と他のお客様が移動し、遂に僕たちの番になった。
「それじゃあ楽しい空の旅と行こうか」
「僕は寝て過ごすと思うけどね」
「まぁ、それでもいいさ。人生最後の睡眠を楽しみなよ。次眠るときは、もう二度と起きることができないんだと思ってさ」
「憂鬱な日々から解放されると思えば、幾分気が楽になるものだね」
◇◆◇◆◇◆
座席チケットを確認し、僕は機内へと乗り込む。
前方とも後方とも言えない中途半端の通路側座席。
僕の右隣には、若そうな母親と小学校高学年程度の女の子が座っている。
飛行機に乗るとテンションが上がるタイプらしく、女の子は足をバタバタと動かしている。その度に、彼女の二つに結んだ髪が揺れ動く。
おしゃべり好きな女の子は話題を欠かすことがない。
「ねぇ、ママ。サンタさん来てくれるかな?」
「さぁ〜どうだろうねぇ〜。イイ子にしてたら来るんじゃない?」
「へぇ〜それならあたしの元には絶対来るね。イイ子だから」
自分のことをイイ子認定するとは自意識過剰なのだろうか。
見ている限りでは、おてんば系にしか見えないのだが。
あ、しまった。
と思った頃には、全てが遅かった。
如何にも快活そうな少女は白い歯を見せて微笑んできた。
「お兄さん、名前は何て言うの?」
「ちょっとな、何を言ってるの。ごめんなさい。この子が」
生意気な態度で接する娘を、母親が叱る。
典型的なコミュ障な僕は言葉を見失ってしまう。
ただ、ここで何も言わないのは相手に悪い気がする。
「僕の名前は灰瓦礫。灰瓦礫千秋だよ」
「……ハイガレキチアキ? どんな漢字を書くの?」
女の子は片言で反芻する。
我ながら珍しい名字だという自信がある。
親切な僕は、彼女の疑問を解消することにした。
「灰色の灰に、瓦礫の瓦礫。数字の千に、四季の秋で。僕の名前は灰瓦礫千秋」
僕の名前を聞き、女の子は大体の見当が付いたらしい。
満足気な笑みを浮かべて、彼女は言う。
「あたしの名前はね、
「…………センゴクバシラ??」
予想外の名字が飛び出し、僕は聞き返してしまう。
「うん。数字の千に、石ころの石に、建物の柱で。千石柱だよ」
「珍しい名字だね。千石柱なんて。そんな名字、僕は一人しか知らないよ」
「へぇ〜。お兄さん。千石柱という名字の人に会ったことがあるの?」
「遠い昔の話だけどね。その人は、僕のことなんて忘れていると思うけどね」
「そんなことないと思うよ。灰瓦礫なんて、絶対忘れないと思うけどなぁ〜」
忘れてしまっただろう。
僕が知る千石柱の名前を持つ相手は。
だって、千石柱という名字を持つ相手は、僕の父親なのだから。
僕と母親を捨て、他の女の元へと逃げ出した最低な屑男なのだから。
そんな折、機内の後方がガヤガヤと騒がしくなっていた。
何が起きたのか。そう思っていると——。
後ろの座席に座っている冴えない男たちの噂話が聞こえてきた。
「星座橋捺月が居るらしいぞ。この機内に」
「いや……嘘だろ? 今、ライブ中じゃないの? クリスマスライブ」
「星座橋㮈月は参加してないらしいじゃん」
「だからって、どうしてこの飛行機に乗ってるんだよ」
「実家に帰るんだよ。クリスマスだから。ファンよりも家族を取ったんだよ」
「だからって……そ、そんなことが……」
マスクとサングラスを付けたところで、芸能人オーラは隠せない。
星座橋捺月ほどの逸材になれば、隠したくても漏れ出てしまうのだ。
故に、後方では星座橋㮈月を一目見ようと企む者たちで溢れているのだろう。
批判する気にはなれないね。
同じ立場なら、僕も同じ行動をしているかもしれないし。
「ママ!! 捺月ちゃんがいるの? ここに!!」
現役最強に君臨する絶世のアイドルだ。
小学生の彼女には憧れの的とも言うべき存在だろう。
つぶらな瞳を光り輝かせて、母親に訊ねている。
「捺月ちゃんがいるわけないでしょ。そんなはずが」
「そっか……そうだよね。いるわけないよね……」
両肩を落とし、「はぁ〜」と退屈そうな溜め息を吐き出す。
そんな千石柱麻衣に、僕は聞く。
「麻衣ちゃんはさ、星座橋捺月が好きなの?」
「うん!! 大好きだよ。世界で一番大好き!!」
僕と同じく彼女も、星座橋捺月に魅了されているようだ。
「去年はね、家族全員でライブに行ったんだよ。あ、ママ。スマホ貸して」
母親からスマホを受け取り、千石柱麻衣はフリックする。
目当ての品を見つけ出したのか、彼女はスマホの画面を見せてきた。
「これはね、捺月ちゃんのライブだよ。今年の夏にね、ママとね、それにパパと一緒に行ったの。あぁ〜とっても楽しかったなぁ〜。それに可愛かったなぁ〜」
思い出に浸る
千石柱麻衣が見せてきた一枚の写真。
そこに映っていたのは、紛れもなく僕の父親だったからだ。
決して忘れるはずがない。
僕がまだ小学校に上がる前、家族三人で楽しく暮らしていた。
正に、幸せの絶頂に居た僕と母親の日常を壊した男の顔だ。
脳裏に浮かぶ際には、毎回悪どい顔を浮かべているのに。
それなのに、写真に映る姿は優しい父親にしか見えない。
家族三人。
スーツを着た利発的な父親と、若くて綺麗な母親。
その間に挟まれて、満面の笑みを浮かべる娘。
あの忌々しい男にとって——。
これが。
僕と母親を犠牲にして手に入れた幸せの形なのだろう。
それなら僕と母親で良かったじゃないか……?
僕と母親で十分だったじゃないか……?
それなのに、どうしてあの男は僕たちを見捨てたんだろう?
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作家から
明日中には完結します(確定)
本来は今日中で終わる予定でした。
ただ、もう少しだけ伸びました(笑)
父親関連の話は、私の後出し設定です。
はい、申し訳ございません。
書き終わり次第、こちら側で調整したいと思います。
本来ならば、飛行機内でトラブルを起こす気はなかったんだよ。
明日は一日中忙しいです。
今から徹夜して書くか。明日帰ってきて書くか。
ともあれ、現在の計画通りに進めば、明日中には終わるはず(多分)
眠気問題だけど、1時か2時までは粘ってみるわ。
兎に角、イイ子は寝てください(笑)
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