第17話:リアルタイム執筆が始まりました⑨

「……どうせ死ぬなら東京かと思ってたけど」


 僕の提案を聞き、星座橋捺月はそう呟いた。


「でも、それもそれで悪くないかもしれないね」

「そう言ってくれると、僕は物凄く助かるんだけど」

「それじゃあ、行こっか。今すぐにさ」


 僕の思いつきに過ぎなかった。

 星座橋㮈月の生まれ育った土地に行く計画は。

 それでも、行動力だけは高い彼女はスマホを触りながら。


「キミの生年月日を教えてよ」


 僕が答えると。


「やっぱり私よりも年下なんだね。お姉さんを呼びなさい」


 彼女は軽口を叩いてきた。

 お姉さんと呼んでみたら、「何かな?」と笑みを漏らしてきた。

 もしかしたら、彼女はお姉さんと言われたい願望があったのかもしれない。


「よしっ!! 予約取れたよ」

「予約?」

「飛行機のね」

「飛行機……?」

「うん。というわけで、行くよ」


 星座橋捺月は僕の腕を掴んでくる。

 行くと聞かれても、全く分からない。

 というか、たった数分の間にこう事態急変するとは。


「行くってどこに?」

「決まってるでしょ。北海道だよ。私が育った千歳。行きたいんでしょ?」

「本気で言ってるの?」

「冗談で言ったわけじゃなかったんでしょ? キミの夢を叶えに行くの」


 冗談ではなかった。

 死ぬ前に、星座橋㮈月が育った場所に行ってみたい。

 ドラえもんの道具に頼るように、僕はそう言ってみたのだ。

 しかし、本当にやるとはな……。

 ともあれ。

 自分から言い出しただけに、引くことができない。

 更には、飛行機のチケットを取ったと言うのだ。


「お肉は?」

「予定変更。三十秒で支度しな」

「……あぁ、どうしてこんなことに」


 星座橋捺月はこんな女の子なのだ。

 切り替えが早く、いつも前向き。

 だからこそ、大胆な行動を取ってくれる。


「人生はミステリーなんだよ」


 もう二度と食べられない肉。

 僕は余すことなく、口の中に放り込んだ。

 誰だって、最後の食事と言われたら同じ行動を取るだろう。

 実際、早く行こうと言い出していた捺月もわかめスープを飲み干して。


「もうこの味は最後なんだね」

「噛み締めないといけないよ」

「スープまで全部飲んじゃったよ」


 星座橋㮈月は名残惜しさがないらしい。

 立ち上がると、壁にかけたコートを取った。

 右手、左手と順番に入れ、着飾った彼女は言う。


「人生には勢いが大事なんだよ」


 服の裾を掴んで伸ばす。

 それから、身嗜みチェックを終えた彼女は言う。


「真面目に考え始めると、何もできなくなっちゃうから」


 星座橋捺月を待たせるわけにはいかない。

 そう思い、僕も立ち上がると、スーツを羽織る。


「さぁ、死に場所に向かおうか」


 そう問いかける彼女は手を伸ばしてくる。

 僕もその白い手を握りしめて。


「あぁ。行こう。僕たちの終点へ」


———————————————


作家から


 書くぞ!! 書くぞ!!

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