第12話:リアルタイム執筆が始まりました④

 ヒノキ。

 掘りごたつ式の完全個室へと紹介され、僕たちは座っている。

 メニュー表を確認し、思わず口元を歪めてしまう。

 100g3000円の牛肉だと……??

 スーパーの安売りで売られている肉とは、大違いだ。


「お金はこっちが全部出すから遠慮しないで食べてね」

「……いやぁ。ちょ、ちょっと……」

「庶民派の焼肉食べ放題がよかった?」


 そっちのほうがよかったかもしれない。

 100g食べただけで、食べ放題分は払えるからだ。


「まぁ、最初はビックリするよね。私も同じ感じだったし」


 星座橋捺月は教えてくれる。


「ここは食べ放題じゃないから。自分が好きな部位を好きなだけ食べればいいんだよ」


 量より質か。質より量か。

 お金持ちは、こんな高いものを毎日食っているのか。

 僕はそう思いながら、メニュー表を見る。

 どれもこれも高そうだが、どうせ今日僕は死ぬのだ。


「僕は鳥せせりで大丈夫です」

「折角、焼肉屋に来たのに、鶏肉でいいの?」

「僕は鶏肉が好きなんだよ」

「なら、焼き鳥屋に行ったほうがよかったかな?」

「高級店のせせり肉が食べたいんだよ……」


 実際は、僕だって牛肉が食べたかった。

 100グラム3000円のヒレ肉を食べたかった。

 だが、僕が選んだのは、鳥のせせり肉。

 鶏肉コーナーが一番安かったとは言わないさ。



 注文を終えた僕たちは、真正面に見つめ合う。

 ご主人様から「待て」と言われた犬みたいに。

 隣の個室から漏れ出る煙が食欲を掻き立ててくる。

 だが、喋り声は全く聞こえてこない。防音対応もしているのかな?

 それにしても、早く……肉を食べたい。


「三大欲求って知ってる?」


 肉よ、早く来い。

 そう願っていると、星座橋捺月がそう訊ねてきた。


「性欲、睡眠欲、食欲ですよね?」


 僕がそう答えると、彼女は笑って。


「うん。それ」


 そう呟き。


「なら、その欲求を全部満たしたら、次は何を求めるのかな?」


 僕には分からない。一度も考えたことがなかった。

 ただ、今の僕たちは、性欲を満たし、睡眠欲を満たした。

 で、今から腹いっぱいに焼肉を食べ、僕たちは食欲さえも満たす。


「実際に今から食べてみれば分かるんじゃないかな?」

「投げやりな答えだ。自分の頭で考えてほしいんだよ。はい、今から十秒数えるから、必死に考えてみて。じゃあ、用意スタート」


 十秒間の猶予を貰い、僕は考えた。

 その間にも、可憐な少女は「1〜2〜3〜」と数えている。

 8の数字が言われている頃に、僕は考えをまとめた。

 10秒が経ち、星座橋捺月が問いかけてくる。


「答えは出た?」

「曖昧な答えしか出せなかったけどね」

「ふぅ〜ん。答えてみてよ」

「欲深い人間はまた何かを求めるんじゃないかな」

「何かって何を? 具体的に示してよ」

「……そ、それは」


 口籠っていると、襖から控えめなノック音が聞こえてきた。

 失礼しますと言い、先程の男性スタッフが注文した品を運んできてくれたのだ。素早く品をテーブルの上へと置くと、スタッフは七輪に火を灯す。

 欺くして、僕たちの焼肉が始まるのであった。最後の晩餐が。


 僕と彼女は肉を一枚ずつ焼き始めた。


「さて、灰瓦礫くん」


 星座橋㮈月はそう呟き。


「さぁ、どうやって死ぬかを決めようか」


 焼き上がった肉を一枚掴んで、彼女は口に放り入れる。「う〜ん」と幸せを噛み締める姿が、何とも愛らしい。生を実感しているのだろうか。

 それから、彼女はもう一度問いてきた。


「さて、どうやって死のっか?」

「僕は君に任せるよ」

「人任せだね」

「じゃなきゃ、自殺者オフ会に参加しない」

「確かに」

「今更だけどさ、どうして自殺者オフ会を開いたの?」


 自殺者オフ会を開いた理由。

 僕はそれが気になって仕方がない。

 どうして彼女が「死」を選んだのか。


「死にきれなかったんだよ、一人だとさ」


 彼女はトングで改めて肉を焼き始めた。

 一枚ずつ焼いて食べるタイプのようだ。

 今回、彼女が焼いているのは、カルビだ。


「死にたいと願ってる。死にたいと思ってる」


 でもさ、と彼女は呟き。


「でもさ、結局、死ななかったんだよ」


 網の上にある、せせり肉を取ろうとする。

 だが、肉が網に付着し、上手く取り外すことができない。

 彼女の話を必死に聞いているのに、何だかシュールな光景だ。


「私はね、臆病者なんだ。一人で死ぬのが怖いんだよ、結局さ」

「僕も同じようなものだよ」

「一人で死ぬのは怖い」


 でも、と呟く彼女の声に合わせて、僕も一緒に言う。


「「二人で死ぬなら怖くないね」」


 お互いの意見が一致し、僕たちは笑ってしまう。

 流石は、共犯者と呼ばれるだけの存在だ。

 普通の生活を歩んでいたら、僕たちは気が合うアイドルとオタクの関係になっていたことだろう。あくまでも、恋人同士とか友達同士とは呼ばないのが如何にも僕らしいね。


————————————————————————————————————

作家から


 おはようございます。

 八時に起床してから、書いてます。

 午前中までにもう1〜2話ぐらいは書きたい。

 兎に角、まだまだ続くのでよろしくお願いします。


 細かい表現や誤字脱字は最後まで書き終えたら修正する予定です。

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