第13話:リアルタイム執筆が始まりました⑤

「死ぬとしたらどんな死に方がお好み?」

「人生で初めて言われたよ、そんな質問は」

「私も初めてだよ。こんな質問をするのはさ」

「死に方にこだわりはないかな」


 敢えて言うなら——。

 と、僕は呟いてから。


「トラックに轢かれる寸前の美少女を助けて、自分は死に至るという結末かな」

「安っぽいシナリオだね、その終わり方」

「僕の人生は三流だからね」


 病気で死ぬよりかは遥かにマシだろう。

 あんな終わり方は、ただのバッドエンドにしか思えないからね。


「で、どうする? 私たちの死に方はさ」

「僕としては別にどうやって死んでも構わないよ」

「最後の晴れ舞台になるのに? 投げやりだね」

「投げやりだから自殺するんじゃないの?」

「……風情がないよ、キミは」


 星座橋捺月はつまらなさそうにいう。


「自殺に風情も何もないと思うけどな。必ず死ねるならそれでいいよ」

「キミの言う通りだ。死に損ないの人間にはなりたくないもんね」

「現在進行形で死に損ないの僕には関係ない話だと思うが」


 沈黙が訪れる。

 じゅわぁっと肉が焼ける音が響いた。


「じゃあ質問を変えようかな。キミはどこで死にたい?」

「どこで死にたいか。考えたこともなかったな」

「場所は大事だよ。死ぬ場所は特にね」

「どうして?」

「地縛霊になったらどうするのさ。そこから離れられないじゃん」

「……ここ笑うところ?」

「ボケていったつもりは全くなかったんだけど」


 彼女はいう。


「でもさ、死に場所は重要な要素だと思うんだけど」

「まぁ、気持ちは分かるよ。変な場所で死にたくはないからね」


 死に方にこだわりはない。

 そう言いつつも、僕にはある程度の良識がある。


「周りに迷惑をかけない死に方がしたいよ」

「生きてるほうが迷惑だと思うけど?」

「申し訳ございません。今すぐに死ぬから許してください」

「悲観的だな、キミは」

「楽観的なら『自殺』なんて安易な死に方を選ばないよ」


 それはそうか。

 納得した様子で、星座橋捺月は頷いた。


「人生の勝ち組ってどんな連中だと思う?」

「人生の負け組である僕に言われても困るな」

「自覚があるんだね」

「自覚しかないよ。自殺を選ぶ人間は負け組だからね」


 人生が楽しい。

 そう思える人は、自殺なんて選ばない。

 それにも関わらず、そんな結末を迎えようとしている。

 それだけで、僕たちが負け組であることを認めるしかあるまい。


「さぁ、どうだろうね。自殺は救済なんだよ、私たちにとってはさ」


 ただ、彼女の言い分は少し違っていた。


「世間一般的には、自殺はイケナイことだけどね。私はイイことだと思うんだ」


 自殺は悪いこと。絶対にしてはイケナイ。

 学校の授業で何度もそう習ったことがある。

 その度に、僕も共感する立場だった。

 しかし、彼女はその考えに異論を投げかけるのだ。


「どうしてそう思うの?」

「自分の死期を自分で選べるからだよ」


 彼女は続ける。


「この世には生きたいと思う人もいるように、死にたいと思う人もいるんだよ」


 この世界は残酷だ。

 生きる理由も提示しないにも関わらず、生きろと助長してくる。

 生きた先に何か希望があるかも分からないのにも関わらず。

 それでも、生きることを勧めてくるのだ。そういう奴等は全員自己満に浸りたいだけなのだ。相手を助けることができれば、自分のおかげだと思い込む。相手を助けることができなければ、自分は救うことができなかったと悲劇の主人公振ることができる。要するに、生きてる連中は酔いしれたいだけなのだ。


「僕たちはさ、人生の敗者なのかな?」

「勝者の定義を教えてもらおうか」

「人生というレールを途中下車するじゃん」

「到着地点は皆同じなのにね」

「確かに」

「そう考えると人生はランニングマシンなのかもね」


 星座橋捺月はいう。


「マラソンを走ってるつもりだけど、実はずっと同じ場所を走ってるみたいな」


 その発想はなかった。彼女は面白い表現をするものだと思ってしまう。


「私はさ、自殺を悪いことと思わないんだ。生きる権利を持つと同時に、死ぬ権利も持っていると思うんだよ」

「屁理屈小学生みたいな言い分だね」

「でもさ、そう思わない?」


 星座橋捺月にそう訊ねられ、僕は答えることができない。

 生きる権利と死ぬ権利か。こんな哲学的な考えに至ったことがない。

 思慮深い彼女は『死』という概念に対して、色々と考えているのかもな。


「生きる権利だけが重要視され、死ぬ権利は軽視されるんだ。おかしな話だよ」


 彼女の話は、哲学チックな話だ。

 思慮が浅い僕は普通に言葉を返すことができない。

 なので、話題をガラリと変えてみることにした。


「タイムマシンが欲しいよね」


 会話下手だなと思う。

 実際、星座橋捺月は「はぁ?」という表情だ。

 どうしてこんな話題を持ってきたのかと思っているはずだ。

 それでも、話上手な彼女はしっかりと訊ねてきてくれる。


「あったらどうするの?」

「君が死なない世界線を作るよ」

「口だけは達者だね」

「ネット弁慶ですから」

「ただ残念なことにタイムマシンはこの世に存在しないよ」


 だから、と呟いて、彼女は悲しげな声で言う。


「だから、そんな未来はありえない」


—————————————————

作家から


 小説書くのに手間取ってたわ。

 兎に角、最後まで書くという意思はまだ消えていません。

 熱が冷めるまでに、書き綴ろうと思います。

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