第8話
人生で初めての肉体を伴う愛情表現は、自分が想像していた以上の気持ちよさはなかった。ネット上に転がるエロコンテンツを見た限りでは、脳が蕩けるような経験だと思っていたが。
勿論、女性の膣内にヌメっと自分の先端部位が入った瞬間は、今までに感じたことがない快感に満たされた。吸盤のように吸い付く感触と、全てを癒すような包容力。
女性を一度も知らない僕にとっては、最高の気分だった。
ただ、女体で興奮したというよりは、童貞を卒業している自分、もしくは犯されている自分という状況に、高揚していたようにも感じられる。僕はナルシスト気質があるのかも。
ともあれ、気持ちいいのは最初だけである。
お互いがお互いを貪り合うような濃厚の体験をしているのにも関わらず、どの口が言ってるんだと思われるかもしれないが。
途中からは気持ちいいとは掛け離れたものであった。
極度の緊張状態で勃起は治らないのだが、如何せん、射精できなかったのだ。長時間、騎乗位状態で、動かれているのに。
心の中では叫んでいた。
イキタイ。ダシタイ。コノママトロケテシマイタイ。
大好きなアイドル様──星座橋捺月にぶち撒けたい。
その想いは時間が経つにつれ、大きく膨らんでいく。
馬乗り状態で曲線美が美しいカラダを上下に動かす彼女の姿は圧巻だった。ぷるんぷるんと大きく実った男のロマンが揺れ、否応でも視線を奪うのだ。子供の頃に見た空中芸を披露するサーカスショーを思い出してしまう光景であった。
ただし、楽しいショーは、終わりに近づいていた。
動きは滑らかなのだが、次第に体力が限界を迎え、動くだけでも辛そうなことが見ているだけで分かったのだ。
平均的な男性諸君の挿入時間は幾らなのか。
僕は気になって調べたことがある。てか、さっき調べた。
その結果は十分程度だと言うのである。
遅漏は、その三倍、三十分以上も続くらしいのだが……。
僕に至っては、もう既にその時間を超えている気がする。
この部屋には時計がないから、厳密な時間は分からないが。
兎も角、僕は焦っていた。
気持ちいいことをしてもらっている立場なのにも関わらず、一向に出すことなく、終わってしまうのではないかと。
というか、中々イクコトができない僕を見て、彼女が愛想を尽かせてしまうのではないかと。一生懸命奉仕してくれているのに、応えられないのは男として最低な行為ではないかと。
結句、僕は普段の自慰行為と同じように足ピン状態にし、射性欲を促した。二分も経たない内に、腹の内側から何かが込み上げてくる。これを逃してはもうイケナイかもしれない。
強迫観念に駆られて、僕は無理矢理でも出すことに精神を集中させる。出ろ出ろ出ろと念じると、急激に下半身がピクピクと痙攣をし始めた。余程の気持ちよさがあったのかもしれないが、僕の脳内は快感よりも義務感に襲われていた。
それ故に「あっ!!」と叫んだ瞬間、溜まりに溜まっていた白濁液が自らの体から放たれて、良かったと思ってしまう。
失敗することなく、僕の仕事を終えることができて。
◇◆◇◆◇◆
最中よりも僕は事後の方が好きかもしれない。
ベッドに横たわって、大好きな彼女と過ごすひとときが。
大の字に寝転ぶ僕の腕を、愛しのアイドル様は枕にして。
「千秋くんってさ、オナニーするとき強く握ってるでしょ?」
「えっ〜? そ、そうなのかな?」
「今後やるときは優しく握ってあげるといいよ」
「は、はい……」
「今は軽度だけど、重度になったら女の子の
「反省します」
沈黙が訪れた。
外気温を調整する機械の音が鳴り響くのみ。
気まずい状況だが、好きな人の側にいるだけで幸せだ。
そう思っていると、星座橋捺月が抱きしめてきた。
「千秋くんはさ、死ぬよね……? 今日、私と一緒に」
肌と肌が擦り合うのは、無性にドキドキしてしまう。
先程まで、粘膜と粘膜を擦り合わせていたのに。
どちらかと言えば、今の方がゾクゾクとしてしまう。
「あぁ死ぬよ。世界で一番愛しいアイドル様と共にね」
「……ありがとう、大好きだよ。千秋くん」
長い髪が僕の首筋に触れる。甘い香りだった。
女性の体内には砂糖が詰まっている。
そう言われても、納得してしまいそうである。
「今から私、とっても変なことを言ってもいいかな?」
僕がコクリと頷く。
すると、捺月はお腹の上に飛び込み、身体を寄せてきた。
輪郭がハッキリした美しい顔を僕の胸板に置くと、彼女はゆっくりと身の上話を呟き始めた。
「私ね、ずっとずっと一番星になりたかったんだ」
「色んな男たちと寝てきたけど、誰も私を見てくれなかった」
「顔が可愛い女だから。それだけの理由で、ベッドの上で一時的に愛されて、でもその後はポイっとされるだけの存在」
「私には存在価値なんてないんだと思い知らされたよ」
「でもね、誰も身寄りが居なかったから、誰も頼れる人が居なかったから、その一時的な愛が私には救いだったんだ」
——あぁ、自分はここで生きていていいんだって——
——この瞬間だけは彼は私を見てくれてるって——
「今なら思うけど、拠り所が欲しかったんだ」
「だから、カラダも簡単に明け渡した。愛されるために」
「アイシテル。そのたった五文字の魔力に導かれた」
「ベッドの上で語る言葉なんて、全て嘘だと知ってたのに」
「それでも、そんな陳腐な愛情を、私はずっと求めてた」
「もしかしたら偽りの愛情でも本物に変わるかもと思って」
——でも、そんなことは一切なかったけどね——
——相手は妻子持ちのおじさんだもん——
——若い女は抱き心地は良くても、それ以上の感情はない——
——夫婦はさ、繋がってるんだよ。肉体関係以上の愛情で——
「だからね、憧れちゃったんだ。肉体関係以上の関係性に」
「カラダを許さずにも、愛される方法があるのならって」
「でも、私はバカだから分からなかったよ。普通の愛情を受けて育ったわけじゃないから、何もかも理解できなかったよ」
——それでもさ、テレビを見てて思ったんだ——
——歌って踊れる存在になれば愛されるんじゃないかって——
——多数のファンを抱えて愛されるアイドル様になれば——
「不特定多数の誰かに知られれば、一人ぐらいは普通に愛してくれるんじゃないかなって。天下のアイドル様になればって」
話がひと段落したのか、星座橋㮈月は強く抱きしめた。
ここから先が一番重要だと言うように。
星々が燦々と輝く夜空のような瞳を浮かべて。
「ねぇ、私はさ、キミの一番になれたかな?」
「一番??」
「うん。私はさ、キミにとっての一番星になれたかな?」
「なってるよ。君と一番最初に出会った日からね」
僕の言葉に満足したのか、捺月は唇を重ねてきた。
ねっとりとしたキスばかりを御所望なのかと思っていたが、今回だけは意外なことにあっさいとしていた。
赤らめた頬のままに、彼女は唇を離して、大胆にも。
「私ね、セックス大好きなんだぁ〜」
女性の口から漏れるセックス大好き発言。
僕は思わず「ぶふっ」と吹き出してしまった。
何となくは気付いていたが、本人が直接言うとは思ってなかったのだ。
「清楚系アイドル振ってる女が淫乱な子でガッカリしたぁ?」
「……僕はエッチなアイドルがいいよ」
「変態さんだね」
薄く笑みを浮かべて、そう呟くと。
「千秋くんはさ、セックス好き?」
「…………ええと、好き」
「それならもう一回しようか。二人が朽ち果てるまで」
「私はもう準備万端だけど……千秋くんは?」
「……さっき出したばっかりでむ、無理です」
「ダメだよぉ〜。そんな弱気な発言は禁止だからねぇ〜」
数分も経たない内に、シナシナだった僕のブツは復活した。
タオル越しに擦り擦りされただけなのに。
僕のカラダはどれだけ正直者なのだろうか。
「えっ……? 捺月……ご、ゴムは?」
下半身を覆っていたタオルを外し、早速自分のカラダへと僕の聳り立つ部位を入れようと企む星座橋㮈月を注意する。
しかし、彼女は聞く耳を持つはずがなかった。
「どうせ私たち死ぬんだもん。別に要らないよね……?」
だって、世界で一番可愛くてワガママなアイドル様だから。
「千秋くん、キミが大好きなアイドルがここに居るんだよ。ほら、この薄汚い売女を罵りながら犯してみなよ。偽りだらけで、空っぽな女を。思う存分、自分の欲望をブチまけて!!」
僕は何度もギブアップを宣言した。
だが、刺激を求める彼女が動きを止めるはずがない。
人間扱いされず、
もうやめてと頼んでいるのに、腰を振り続ける彼女は、レイプ犯として警察に突き出してもいいぐらいであった。
それにも関わらず、カラダは正直だ。
高鳴る心臓の鼓動。
興奮が治まらず、逆立つ股間。
幸福物質に満たされた脳内。
痙攣が治ることがない下半身。
僕は彼女に犯されて、悦んでいたのだから。
————————————————————————————
作家から
エッチなお話はここまで。
次回からは通常通りの物語へと戻ります。
文章が曖昧な部分がありますが、自主規制です。
本来はもっと細かく艶っぽい文章を書きたかった。
ただ、サイト上の問題で、思い切り書けませんでした。
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