いわくつきUFOを手放す宇宙人

ちびまるフォイ

禁忌の土地

「人間の生体反応なし」


「よし、着陸する」


誰もが寝静まった深夜のこと。

宇宙人の操るUFOは人里離れた山奥にそっと着陸した。


「マザーシップ聞こえるか?

 無事地球についた。これより地上の調査を……アレ?」


「どうした?」


「通信が……うまくつながらない」


「木々のせいか?」


「あらゆる宇宙デブリを貫通するのに、

 こんな地球の植物に干渉されるわけない」


「それじゃなんで通信できないんだ」


「わからん。まああとで報告すればいいだろう」


宇宙人たちは地上の空気や土や植物を採取し、

次なる移住先の星として使えるかを試していく。


「しかし……なんかここ寒くないか?」


「……たしかに。変だな。気温は高いはずだが」


「それに誰かに見られている気もする」


「着陸時に生体反応は確かめたはずだろう?」


「お前は感じないのか」


「……まあ、薄々感じてはいた。勘違いだと思うが」


「地球人に見られていたら終わりだ。

 いったん、船に戻って再度生体反応を確かめよう」


宇宙人はUFOに戻って生体反応をたしかめた。

結果は最初と同じく0だった。


モニターを見つめる宇宙人がふと顔をあげたときだった。


「うああああ!!!」


「ど、どうした!?」


「窓!! 窓になにかいた!! ち、地球人が!!」


「バカな! 今、生体反応は無しだと……」


そう否定する宇宙人の肩にあきらかな接触感触が急にやってきた。


「うおおお!!??」


「は、離れよう! ここは危険だ!!」


宇宙人たちはUFOを乗り捨ててその場をあとにした。

人間スーツに擬態して人里へと降りると、近くに住んでる人は驚いていた。


「あんた、あの山ン中さ入っていたべか?」


「え? ええ」


「あの山は村ン者でも入らねぇ」


「どうしてですか……?」


「昔、山ンじゃトンネル工事さやってたんだ。

 でも事故でみぃんな生き埋めになっちまっただ。

 それ以来、あっこは心霊スポットなんだ」


「シンレー……スポット?」


「肝試しに若ぇ連中が来たんだが、みんな呪われた。

 だから村じゃあの山を立ち入り禁止にしたんだ」


宇宙人たちはその話を聞いたあとで、心霊スポットを調べた。


そうして自分たちがUFOを着陸させたまさにその場所が、

かつてトンネル事故でなくなった人たちの慰霊碑の場所だった。


宇宙人たちはお互いに顔を見合わせた。


「つまりこれって……」


「ワレワレのUFO、呪われちゃった……?」


彼らは初めて地球で呪われた地球外生命体となった。


「ど、どうするこれから……?」


「バカ言え。生体反応がなければ何もしてこない。

 ただ驚かせるだけのものじゃないか」


「それはそうだが」


「あのUFOにどれだけ費用がかかっていると思う。

 母艦に何機もつめるわけじゃないんだぞ。

 それに地球の調査も終わってる。あとは帰るだけだ」


「お、おい! どこいくんだ!

 まさかあの呪われたUFOに乗るつもりか?」


「当然だ。幽霊などという地球人の思い込みにこっちまで影響されてたまるか」


宇宙人のひとりはUFOへと向かった。

そして、数秒後に半泣きで戻ってきた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛!! いた!! いたんだ!!

 操縦席が濡れてて! それで窓から!! ニイって笑ってきたんだ!!」


「さっきの威勢はやせがまんだったのか!」


「あんなUFOもう乗れないよぉ!!」


「でもあれがないと戻れないだろう」


「母艦が来てくれる! 連絡が途絶えたから捜索に来てくれるはず!」


「たった1基のUFOのために、バレるリスクがある母艦がくるわけないだろう」


「でも!! UFOに幽霊がいるんだ!! もう乗れない!!」


「それじゃ"オハライ"をしにいこう。

 地球人はオハライをして幽霊を追っ払ったと聞いた」


「それができたら苦労しない!!」


提案した宇宙人も言ってから気づいてしまった。


仮に霊媒師がやってきてお祓いをしてくれることになったとして、

その地球人の目の前にUFOを見せることになるのだから。


「ならせめて、幽霊を鎮めるお札やグッズを買ってこよう」


「そんなんで静まるわけ無いだろう!

 それに静まったとしても、あのUFOには乗りたくない!!」


「わがまま言わないでくれ。あのUFOしかないんだ」


「母艦に戻るまで何時間かかると思ってる!?

 その間ずっと幽霊と宇宙旅行することになるんだぞ!」


「う゛っ……それは……」


「途中で御札の効果がきれたらどうする!?

 宇宙じゃもう逃げ道はないんだぞ!?」


地球人のみようみまねで除霊グッズや、素人お祓いをしたところで効果があるかどうか。

むしろかえって幽霊を怒らせる結果になりかねない。


「それじゃどうするんだ。このままじゃ帰れないぞ」


「……作ろう」


「え?」



「新しいUFOをこの土地で作ろう!!」



「ええええ!?」


こうして宇宙人たちは同型のUFOを地球上で作ることにした。

地球人にバレてはいけないため宇宙人だけで作る。


あまりにも地道で気の遠くなるような作業だったが、

乗ってきたいわくつきUFOへ戻るつもりはなかった。


昼間は地球人に擬態して資材を集め、

夜は集めた資材でUFOを作っていく日々を繰り返した。


そしてついに。


「ついに……ついにできた!!」


「長かった……本当に長かった……」


宇宙人たちはヘトヘトになりつつもやり遂げた。

地球の資材だけでUFOを作ってしまった。


「これでやっと星に帰れる……!」


「それだけじゃない。地球のサンプルもたくさん手に入った。

 星に戻ったらワレワレは英雄だ」


「ああ! そうだな! 早く戻ろう!」


宇宙人たちは新品のUFOに乗り込んだ。

発進スイッチを押そうとしたまさにその時。


「おい……あの光は……」


「あれは……マザーシップの光!?」


夜の空にバカでかい光の明滅が見えた。

故郷を思い出させる光の配置。


「連絡が途絶えたワレワレを探しに来てくれたんだ!」


「たった1基のために……!」


宇宙人たちは自分たちが捨て駒のような存在ではなく、

マザーシップがわざわざ来てくれるだけの存在だと思えたことで嬉しくなった。



『こちらマザーシップ、聞こえるか?』



「こちら調査UFO。聞こえるぞ!」


『よかった。連絡がなかったので心配していた』


「こっちはどちらも無事だ。マザー、来てくれてありがとう」


『こちらこそ。地球のサンプル調査に感謝する。

 ワレワレはまもなく着陸する。

 マザーシップに戻ったらみんなでおかえりパーティだ』


「ありがとう! 楽しみだ!」


宇宙人たちは大喜びでハイタッチした。

マザーシップはみるみる地球に接近し、そしてーー。






かつて、自分たちが着陸した慰霊碑の近くに着陸した。



『こちらマザーシップ!

 なぜか視線を感じて、妙に寒い!

 これはどういう状況か説明してくれ!』

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