第6話


転移していた。

今度の転移先は、数日前に、登録していた芸能事務所で見かけた、イケメンモデルだった。朝から撮影のために車移動していた。車から飛び降り、銀杏さんと三郎太の所へ向かった。今まで、自分の宿主だった人に会いたいなんて、思ったこともなかったのに。

マンションに着いたときには。警察はもう引き上げていた。三郎太が、銀杏さんに介抱されていた。ふたりは、仲良くなっていた。ちょっとだけ、胸がチクリとした。

 突然会いにいったぼくは、ふたりからしたら、知り合いでも何でもない。銀杏さんに話しかけようとするも、話しかける理由がない事に気づいた。

「あの、誰ですか?」

もう一つ気づいた。銀杏さんが、タバコを吸っていた。香りが甘い。Peaceじゃなくて、ピアニッシモだ。

 誰だ?

 この状況の、論理的な回答は一つ。中身が別人。

僕の知ってる銀杏さんは、転移者だった。


銀杏さん(の中にいた転移者)に、会いたかった。もしかすると、自分と同じかも知れない人。30年近く生きてきて、初めて、会えたかも知れない同類。しかし、自分自身がどこに転移するか分からないのに、他の人の精神がどこに行くかなんて、全く想像も付かない。そのまま、時間だけが過ぎた。

半月ほどたって、ふと、TVで、「オテモヤン」という言葉を聞いた。テレビに映る、笑顔がチャーミングな女性の、ほっぺが真っ赤っかになっていた。

「おてもやんのごたる」テレビに映っている、熊本のローカルタレントが、そう言う。

どうも、オテモヤンとは、熊本の方言らしい。じゃあ、銀杏さん(の中にいた転移者)は、熊本の人? いても立ってもいられず、熊本に行こうと思った。休みを取って、飛行機のチケットを取って……と考える必要はなかった。

瞬間。熊本ローカルの番組に、まさに今、出演しているローカルタレント、豊年万作という男に、転移してしまった。生放送だった。目の前に、頬を真っ赤っかにした女性。

「あなたは、おてもヤンキーですか?」

せっかくの全国中継でローカル番組が取り上げられていたのに、変なことを言い出したと、放送終了後、熊本ローカルのテレビ局のディレクターからたんまり叱られた。

が、放送を見ていた視聴者から連絡が入った。

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