第5話


翌朝。悲鳴で目を覚ました。

自分の部屋に戻らずに、床の上に寝てしまってた。

「あんたダレ? 出ていけ!」

 蹴られ殴られ、部屋を追い出された。寝ぼけてるのか。


 すごすごと部屋へ戻る。頭がガンガンする。ちょっと呑みすぎた。顔を洗う。

来訪者があった。僕にではなく、銀杏さんに。隣室から、明らかな悲鳴と怒声。

「ふざけんじゃねえよ!」

 来訪者の声が響く。銀杏さんが、逃げようとしている声。ドタバタする音を聞いて、恐る恐る部屋を覗く。すると、一人の男が、銀杏さんを組み敷いているところだった。銀杏さんは泣いている。明らかに尋常じゃない。

「お前誰だよ?」男から睨まれた。

「……あの、隣人です」

「この女に手ェ出したのか?」

 話が通じそうにない。

瞬間。殴られた。銀杏さんを置いて、僕に向かってくる。ケンカ慣れしてる。ヤバい。でも、逃げるなんてできない。今、銀杏さんを守るのは、自分しかいないんだ。でも、足がすくんで動かない。

「やめてください。あの、嫌がってるじゃないですか」鼻水と涙まみれに訴える。

「嫌がってるわけねえだろうが。お前、この女が誰か、知ってんだろ?」

 銀杏さんは裸にされ、泣いている。男が言うには、銀杏さんは、元セクシー女優だという。だから、SEXが大好きなんだと。そんなわけあるか。男は、銀杏さんの元彼で、僕の存在を劇団のメンバーから聞いて来たという。

「俺の女に手ェ出したんだろ? どうだった?」

ゆっくりと、男が、下卑た笑顔で僕の方に向かってくる。僕の身体が震えている。身体は、柿沼三郎太は、こういうタイプの男が苦手で、怖い。だから、足がすくんで動かない。

「このクソださ男が!」

また殴られた。

「手なんか出してない……」

「嘘吐け」また殴られた。

「嘘じゃない……」鼻血も出てきた。

「出せよボケ。俺の女は手を出すほどじゃないってのかよ?」

更に、マンションの階段から突き落とされた。衝撃で腕の骨が折れた。

「やめてよ!」

止めに入った銀杏さんが、更に殴られた。逆上した僕は、全身の痛みを堪えながら、男に掴みかかった。殴り返された。三発、四発。それでもすがりついて、必死に抵抗した。

そのうち、警察が駆けつけてきた。マンションの住民の誰かが呼んだらしい。男が、逃げるようにいなくなった。銀杏さんが、心配して声をかけてくれる。ああ、まず服を着てください。

瞬間、痛みで気絶した。目が覚めたときには、見知らぬ車の中にいた。

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