第3話


数時間後、目が覚めたとき、部屋は、キレイに片付けられていた。

業者がきて、一気に掃除したらしい。ポスターなどのドルオタグッズも捨てられ、汚物は消毒され、フローリングはピカピカに磨かれ、壁紙も新しくなっていた。

安いマンションの一室。1K。部屋には、TV、PC、ベッド、生活家電一式。言うほど、底辺ではない気がした。マンションも2階建ての2階で、築10年ほど。

「自分が誰なのか」を知らないので、部屋にあったスマホとPCで確認したが、PCに保存されていた文書ファイルは、家族、会社、友人(?)への恨み言ばかりが何十何百と綴られていた。いくつかのSNSでは、政治への文句、他人への嫌がらせ、攻撃、誹謗中傷、そのためのいくつのも捨て垢、罵詈雑言だらけ。

「熱愛! イケメン俳優・此花瑞樹と、国民的アイドル日野向日葵、電撃婚約会見!」

とても不服な顔をしている、イケメンとアイドルの姿が、これでもかとネットニュースに上がっていた。それらの記事のSNSに対して、書き込んだコメントがあった。恨み言や嘆き、本気かどうかも分からない言葉が羅列されていた。きっと本気なんだろう。

分かったのは、宿主の名前が、柿沼三郎太ということと、無職だということ。それ以外、人とのつながりも希薄で、何も分からなかった。銀行口座には、1〜2ヶ月は生活できそうなまとまった金額が入っていた。とりあえず外出して現金を下ろして、隣人に部屋のクリーニング代を払いに行こうと思った。立て替えてくれていたので。


僕をグーパンで気絶させた金髪ギャルは、隣の部屋の住人だった。

外出から一度部屋へ帰って、自分自身の姿を、改めてまじまじと見つめる。

くさい。

風呂に入る。シャワーを浴び、頭を洗う。髪の毛は脂ぎっていて、ギトギトのゴワゴワ。体毛も伸び放題。全身がかゆい。何度もゴシゴシ洗う。何回も、何回も。身体の肉を削り落とすように。ゴシゴシゴシゴシ。ついでに買ってきたシェーバーで、ヒゲと、全身の体毛を徹底的に剃った。鏡を見れば見るほど、贅肉に覆われただらしない身体で、あまりにも哀しかった。ただ髪の毛は、ないように思ってたけど、薄く張り付いてるだけだった。しっかり洗ってブローすると、まあ、それなりにはあった。

部屋にある中で、比較的マシな服装を選んで着替えた。

身支度を調えてから、隣室の金髪ギャルの部屋へ。

「やだ、別人」

金髪ギャルは、開口一番そう言った。鼻をクンクンさせ、「よしよし」と、においチェックされた。お金を渡すと、「少し多い気もするけど、迷惑料って事でこのままもらっとくよ」と、がははと顔に似合わぬ笑い声を上げて、遠慮なしに受け取った。少しほっとした。すると、金髪ギャルはちょっと話そうか、と、部屋に入れてくれた。ぐう。お腹がすいた。みそ汁をご馳走になった。温まる。

金髪ギャルの名前は、並木銀杏。20歳代半ばくらい。

タバコを取り出して、火を付ける。Peace。いい香りだ。

「まず痩せろ」

 いきなり命令された。

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