第7話 十二天魔

 俺は陰助の言葉で唾をごくりと飲んだ……


 「目の色が鮮やかであいつの周りには白い人型の小さな妖精らしきものが飛んでいたんだ。そいつが俺の弟を殺した。その悪魔の名前は俺もしらない」


 俺は確信した、まだ経験こそ浅いが陰助の目で捉えた悪魔の特徴や大聖の弟さんをも圧倒する力……それは上魔じょうまの悪魔に違いない……。俺はまだその真実をあえて教えることはしなかった。


 そして次の日俺たちは朝を迎え人無山に出発することにした。人無山での散策は他の降魔師とも合流した。


 山の中はやけに薄暗く奇妙な感じがする。そして俺の今回もう一つの別任務があるそれは……蝶野ちょうの あや様から直々に頼まれている《悪魔の血のサンプル回収》だ。


 綾様からの化狐かこによると、血のサンプルは斬禅に近ければ近いほどありがたいらしい。多分十二天魔の血の事だろう。俺はこの別任務も行っているちなみに期限は無し。取れるときに取ってきてくれたら良いとの事らしい。


 歩くこと三十分俺たちは山の中腹あたりで休憩をしている。降魔大聖の休憩は順番制だ。全員が一気に休むと悪魔に襲われるかららしい……まともな理由だな。


 俺達が休憩をしていると奥の方から金属同士が弾け合う嫌な音が鳴り響く中微かに聞こえる悲鳴の声も感じた。俺たちはすぐさまその現場に向かうとそこには降魔大聖たちが相打ちをした形跡があった。両方とも治療の施しようがないぐらい酷い怪我だ。


 俺は先輩降魔師に聞いた。


 「降魔大聖って、仲間討ちは重要事項で禁止ではなかったのですか?」

 「確かに禁止だ、守らなかったら本部で首をはねられるだろう」

 「ではなんで?」

 「俺にも分からない……」


 先輩の降魔師でも分からないぐらいに奇妙な事件だ。何よりも仲間を大切にする降魔師が仲間討ちをするのは非常に考え深い……。俺たちはそう考えていたらまた草むらからゴソゴソと音がする。次の瞬間、草むらから血だらけの降魔師が俺達に斬りつけてきた……。


 「なにするんだ!」

 「……ち……がう……わ……したちは……あや……つ……ら……れている……」


 襲ってきた降魔師が奇妙なことを言った。操られている?俺にはそれが不思議過ぎた。でも間違いなく悪魔の仕業だろう……。たくさんの降魔師を全員操っているなどできるわけがないと思った俺が悪魔を探そうとした次の瞬間、陰助が奇妙な声で言った。


 「み~つけた」

 「陰助ほんとか?」

 「あ~、俺はこういうの探すのが好きだから」

 「でかしたぞ!」


 俺たちは陰助の活躍により悪魔を特定することができた。


 「あ~あ、どいつもこいつも使えない不良品……。ミサ、私が遊べる人形さんはあるの?」

 「あ~、姉ちゃん……人形また壊しちゃったのか……」

 「ねぇー、姉ちゃん……降魔師が来たらしい……俺の代わりに殺してくれない?」

 「いいねぇ~楽しみね」


 月に照らされた山の道中、俺達は陰助が見つけた悪魔の元へ向かっていた。周りには操られていたであろう降魔師たちの無残な死体がたくさん木に吊るされていた。


 「……唯……カヤ……君たちを呼んだのは他でもない……」

 『っは』

 「私の子供たちが危ない……目的地は《人無山》だ……」

 「僕たちは仲間を見捨てない……」

 「そうだね~、少し悪魔を懲らしめないとね~」


 俺たちは目的の悪魔の目の前まで来た……、俺ら含めて周りの降魔師は息を殺して突撃の合図を待っている……。楓は俺たちに息を殺しながら「あいつは私たちの気配に気づいている」と言ってきた。確かにあいつはちらちらと奥の草むらを見ている。その行動自体は他の部隊は気付いてはいないだろう。「突撃!」の合図で周りに控えていた降魔師は飛び出し切りかかった。俺たちは一応止めたが皆行ってしまった。


 「馬鹿な降魔師ども……私を殺すなんて百万年早いのよ……」


 悪魔がそう言った矢先に、周囲は血の海と化していた……。悪魔はたった一振りで三十名ほど殺していた。俺たちは後ろに居たので殺されなかったのだが横から別の悪魔が来て、その攻撃を陰助が防いだ……。


 自然に俺たちは1、1、1に分断され楓は女の悪魔、陰助は刺客の悪魔、俺はまだ奥に悪魔の気配があると言われそっちに向かった。


 「あ~あ、とうとう僕のとこまで来たんだね。降魔師さん……」


 影もないのにどこからか幼い少年の声がした。俺が「どこだ!」と叫ぶと、息を吐きながら例の悪魔が下りてきた。その少年は背が低く、色白だ……。


 「君が僕の大切な時間を奪っている人かな?」

 「お前らは人を殺して遊んでいるのか!」

 「なにがおかしいの? ただ僕は遊んでいるだけだよ」

 「俺はお前を殺す!」


 俺は"殺す”宣言をしたが少年は腹を抱えて笑う。笑い疲れたのであろう少年は息を大きく吸い自分の片目に覆いかぶさっている髪を手でかき上げて俺に見せてきた。


 「僕は《十二天魔じゅうにてんま下魔ノ四げんまのし ミサだ……》」


 それを聞いた俺は冷や汗が大量に出た……確かに、神山で戦った十二天魔もどきより斬禅より血が濃い……。俺は目の前に居る十二天魔に全神経を使った……。


 


 

 

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