第20話:再会
ドアモニター越しに観察すると、ミレイはその巨大な獣にしがみついてオイオイ泣いていた。
よく見ると、立っているのも難しいような全身傷だらけのその巨大な獣も、まるで娘を見守るような優しい目つきでミレイを見つめていた。
その一人と一匹の空間は、関わり難い厳かな気配が漂っていたため、瑠夏は二人が落ち着くまで部屋を出ていくのを止め、時折りモニター越しに様子を見ていた。
小一時間程の時間が経過し、ミレイが不安な表情で辺りを見回し始めたので、そろそろ大丈夫かなと思った瑠夏は、静かにドアを開けた。
「こんにちは、そしてはじめまして。もう落ち着いたかな?」
瑠夏のその言葉に、飛び上がるほどビクッとしたミレイは、マジマジと瑠夏の出てきた扉を観察した。
「本当に、何も無いところに突然扉が出現するんだね。」
「僕が開くまでは、ただの岩壁だったということ?」
「そう、私はそこから出てきたのに、振り向いた時には、完全に姿を消していた。」
「僕が外にいる時にも、ドアを閉めたら消えてしまうかもしれないから、いろいろと確認しないとダメだね。」
そんなことを話しながらドアをしっかりと固定する二人を、白夜は黙ったまま横からじっと見つめていた。
(人の姿を成す不思議な者よ。我の名前は白夜という。この度は我が主を救って頂き、言葉に尽くせぬ程の恩を受けた。心より感謝し、主が許すならば主に対するのと同じように変わらぬ忠義を尽くしたいが受け入れてくれるか?)
「へっ?」
間抜けな声を上げて、瑠夏が思わず白夜を振り返った。
「キミ、喋れるの?」
「へっ?」
今度は、ミレイが間抜けな声を上げて、二人を見つめた。
「白夜は、私とは主従の関係にあるから念話が交わせるけど、これまでは他の誰とも念話を交わせなかったよ。白夜、そうだよね。そうだったよね。」
(その通りだ。我もそう思っておったのだが、この者を見ていたら、なぜか通じる感じがして、試してみたらできた)
「えぇぇぇぇ!」
「ミレイ、大変なところ申し訳ないんどけど、この白夜さんが、キミが許してくれるなら、僕にも忠義を尽くしたいと申し出てくれたんだけど、どうすれば良い?」
ミレイの目は、四白眼になるほど大きく見開かれた。本来契約状態にある者は、主は複数の従者と契約できても、従である者が契約できるのは一人と決まっていたはずだった。全く意味が判らなかった。
以前のミレイであれば、受け入れることができなかったかもしれないが、一度これまでの価値観が崩壊してしまった彼女であれば、それを受け入れるのは容易だった。
これからの生活を考えれば、仲間はより多いほうが助けになるし、仲間同士の意思疎通が可能であれば、その力はより大きく育つ可能性があると判断したからだ。
「私は全く問題ないわよ。白夜と瑠夏が仲良くなってくれるなら、それほど助かることはないわ。」
「判った。で、僕はどうすれば良いの?」
「本来は、白夜の額に手を当てて、魔力を通せば良いのだけど、瑠夏は魔力を使えない、う〜ん、白夜が言い出したんだから、きっと白夜が上手くやってくれるよ。」
そう言われて、瑠夏が右手を白夜の額に当てると、瑠夏の身体から溢れ出てくるように銀色の光が拡がった。
(うーん、全く判らないけどどうやるんだろ?お~い聞こえますかぁ?)
(そんなに大きな声出さなくても、普通に聞こえるよ。喋りかけるかわりに頭の中で、俺に話しかけるようにしてくれれば通じるから。簡単だよ)
(ねぇ、この話ってミレイちゃんには聞こえてるの?)
(普通はチャンネルを結ぼうとした相手にしか伝わらないから、それはないだろうな。でも、俺もこんなことは初めての体験だから、どうなるか全く判らないっていうのが真実かな)
(ねぇ、今頭の中にキラキラと輝いているものがあるんだけど、これは何?)
(キラキラって、俺には全く判らないけど)
(明るくなったり暗くなったりで、なんか蛍光灯が消えかかっているような感じがするんだけど)
(そんなものまで見えるのか?多分だけど俺の身体がかなり弱ってるからかな、でも、さっきからなんか身体の芯が訳もなくポカポカしてあったかいんだけど、これってお前のせいか?)
(判らない。ねぇ、そのキラキラしてるものにイメージ的に触れそうなんだけど、触っても良い?)
(別に構わないけど、触ってみたら)
そんな念話が交わされているとも知らずに見ていたミレイの目の前で、瑠夏がそのキラキラに触れた瞬間に、白夜に纏わりついていた銀色の光が急速に光を増し、まばゆいばかりの光を放ち、それが白夜の身体に吸収されていくと同時に、二人の前にはまだ幼体と言えるほど幼い氷狼がチョコンと座り込んでいた。
「えっ!白夜が私と出会った頃の姿に戻っちゃった。傷は全部消えちゃったけど、これって大丈夫なの?白夜!私が判る?」
ミレイにガクガクと全身を震わされる白夜は瑠夏を見たが、全く意味が判らずキョトンとしており、全身の力がいっぺんに抜けた白夜だったが、これから二人の主と共に歩む時間を考えるとワクワクが止まらず、思わず二人の周りを走り回ってしまい、さっそく幼い身体に精神が引っ張られたようだった。
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