第21話:対策会議

その後、部屋に戻ってきた二人と一匹は、部屋の状況に興奮する一匹に手を焼き、トイレ、風呂、食事についての説明をする度に時間がかかり、ようやくある程度落ち着いた頃には、既に日が暮れかけていた。


窓の外が茜に染まり、夕陽が高層ビルの隙間に沈んでいくのを見て興奮したのか、急に遠吠えを始めた白夜があまりにも煩かったので窓を開けると、バルコニーに飛び出した白夜は、何度も何度も遠吠えを繰り返していた。


おそらく外界からは切り離されているので、隣近所には迷惑をかけていないはずだと、自分に思い込ませる瑠夏だった。


「今日は、もう遅いからウンバーにしたいけど、白夜もいるからお肉にしようと思うんだけど、白夜は焼いたお肉って食べるのかな?」


(えっ?何々?ご飯?ご飯なの?僕はお肉が良いなぁ!)


そんなことを念話しながら、瑠夏とミレイが覗き込んでいるパッドの画像を見るために、二人の間に割り込んだ。


(こ、これが良い!これが絶対に食べたい!)


「これは火を通したお肉だけど、生でなくても大丈夫なの?」


(全然問題ないし、どっちかというと少し火を通したお肉の方が好きかもしれない!)


白夜の覗き込んだパッドには、オウトバックステーキのステーキメニューが並んでいた。


(僕は、このトマホウクステーキが良いなぁ!食べてみたいなぁ!食べたいなぁ!)


ジュルジュルジュルルとヨダレを飲み込みながら念話を送る白夜があまりにも必死なので、これは高いからダメと否定することもできずに、今日の夕飯はオウトバックステーキにすることに決めた。


もちろん瑠夏とミレイは、ハンバーガーメニューから選択し、チキンベーコンバーガーとブルーミンバーガーを選び、二人でオジチーズフライを追加した。


「ミレイ、これは早急に収入を増やす対策を立てないと破産するかもしれないから、今日の夕ご飯後に打ち合わせをするからね。」


「判った。了解です!」


更に追加で説明し終わり、チャイムが鳴って、ウンバーが配達されると、あっという間に自分のトマホウクステーキを食べ終えた白夜は、二人の食べていたハンバーガーを物欲しそうにヨダレをダラダラ流しながら見つめるため、諦めた二人はそれの残りを白夜に譲り、トーストを焼き、チーズフライと ホットミルクで食事を終えた。


二人が簡単な食事を終えた時には、先が心配になるくらい、白夜はパンパンの腹を天井に向けて爆睡していた。


「それで、ここに居たまま収入を上げる手段はたくさんありますが、何れも専門の知識や才能が必要とされることが多いです。私みたいな素人同然の人間にできる一番の方法は、一定数以上の固定の視聴者さえ確保できれば、配信活動に夢を託すしかありません。例えばこのチャンネルは、音楽を作る人間が自分の曲を作る過程を見せたり、他人の曲を歌ったりすることで、注目を集めて、自分がリリースした歌を買ってもらうことと、自分の動画にCMをつけてもらうことで収益を上げます。再生数が多ければ多いほど収入が増える仕組みです。」


その動画を見たミレイが、画面から目を離さない瑠夏に訊ねた。


「瑠夏は、歌が歌えたりするの?」


「人並みでしかないし、ダンスや話術も巧みじゃないから、全く人は集まらないです。でも、必ずしも歌は上手くなくても良いんです。見てる人間が面白いと思えれば、人は集まるということが大事です。」


「その言葉は、なんかもう経験したことのある人の言葉に思えるんだけど。」


ミレイの圧の強い視線に耐えきれなくなり、瑠夏はそっと視線を外した。


「歌もそうだけど、自分の得意なことを披露するのも一つの方法です。例えば、こんなチャンネルもあります。」


瑠夏はそう言って、ダンスやマジック、ジャグリングなどの画像を順に見せていった。


「これも歌と同じで、一定の技量がないと、視聴者の興味を引くことはできませんから、収益を上げるなんてことは、かなり難しいと思います。」


「私が魔法を見せるのも一つの手段だけど、すぐに飽きられちゃうかもね。ここで魔法?マジックっていうのを見せてる人達は、見せること楽しませることを主体にしてるから、私の相手を倒すことだけを目的とした魔法とは全く違うから、魔法を見て驚くことはあっても、楽しくはならないかもしれない。」


そんなことを話しながら、ネットに上がっている動画を順番に検討していった。


「やっぱり難しそうだね。」


「まだ結論を出すのは早いですから、もっといろいろなチャンネルを見てみましょうか。」


次々と人気チャンネルを変えていくと、瑠夏が普段見ることのなかったジャンルへと行き着いた。


「これはゲーム配信ですね。ゲームの上手な人達が、いろいろなゲームで相手を倒す場面を配信することで、そのゲームの攻略の仕方を教えてくれたり、その興奮や失敗を視聴者と一緒に楽しむ動画のようですね。僕はもちろん下手くそだから、これも無理だね。」


最後に流れてきたのは、ご当地自慢の動画や、ご当地キャラの活動記録などだった。当然、再生数はそれほど多くなく、収入が期待できるとは考えられなかった。

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