第18話:リハビリ2
「こんなにもたくさんの新しい知識を得たのに、今の私にはそれを活用する魔力が全く無くなってしまった。」
急に落ち込んだミレイの言葉に瑠夏が反応した。
「えっ?どうして?何があったの?」
その言葉に、一瞬答えづらそうな表情をしたミレイは、詰まりながらも言葉を続けた。
「この胸の中には、魔素を吸収し、魔力を生み出す為の魔臓というものがあるのだけど、私はもう魔素を全く感じ取れないの。だから、魔力を作り出せないの。空っぽなの。」
そう言って、ミレイはポロポロと大粒の涙をこぼした。
これまで他の誰よりも魔法を自由に使い、精霊の巫女として、多くの魔法でその役目を果たしてきた彼女にとって、それはかなりの衝撃だろうなと考えた瑠夏は、すぐに言葉をかけることもできずに、ただ見つめていることしかできなかったが、ふと気づいたことがあり、彼女に確認取るしかないと判断した。
「すごく基本的なことなんだけど、一つ訊ねて良い?魔力は魔素から生まれるんだよね。」
ミレイは黙ったまま、首を縦に振った。
「じゃあ、魔素が無かったら、魔力は生まれないよね。絶対とは言えないけど、僕達の世界では魔法を使える人はいないと思う。こんな世界に魔素なんてあるのかな?そもそも魔素は、何から生まれるの?」
その言葉を聞いたミレイは首を捻った。ミレイの常識では魔素の無い世界など考えられなかった。
「通常は、魔素は植物や動物魔物などと関係なく生きている全ての物から生まれます。魔臓を持っていなかった人族や獣人族も魔素を生み出していたことが判明しています。もしも、この世界に魔素が存在しないと言うなら、もの凄く歪な世界なのかもしれませんが、私にはよく判りません。」
そう言って、魔素のない世界などありえないと、ミレイは知らずしらずのうちにドヤ顔を決めていた。
「私の魔臓が壊れていなければ、調べることは容易だったと思いますが、今となっては不可能だとしか言えません。」
その言葉に反応した瑠夏は、即座に言葉を返した。
「じゃあ、実験してみようか。」
その日はそのまま床に入り、翌朝バタージャムトーストとハムエッグで簡単な朝食を済ませると、瑠夏はミレイを車椅子へと移動させ、自分も木刀やサバイバルナイフを腰につけると、照明付きのヘルメットを被り、玄関へと移動した。
「な、何をするんですか?」
これから行われる実験が想像できず、ミレイがアタフタしていると、瑠夏はドアチェーンを掛けた扉を少し開け、携帯用のLEDライトを転がしてから、ドアモニターから外の様子を探った。
「良し!誰も居ないみたいだから、少しの間外に出てみるよ。今回は実験だから、魔素を感じることができたら終了ね。」
ドアストッパーでドアを固定し、念の為に不要な靴をドアの隙間に挟み、ドアが閉まらないような工夫をした後に、瑠夏は車椅子を押して外へと出た。
洞窟の中はガランとしており、他の者が侵入した気配は感じることができなかった。
ドアが閉まっていないことを確認すると、瑠夏は更に車椅子を移動させ、外の景色が見える所まで、ミレイを連れてきた。
目の前には、深い森に覆われた一面の森林が広がっており、遠くにはゆったりと流れる大河が確認できた。
ミレイは言葉に詰まり、目からポロポロ涙を零しながら、その景色に見入っていた。
やっぱり故郷って良いもんなんだろうなと思いながら、ミレイを見ていると、突然顔を顰めて、胸を押さえた。
「どうした?トラブルか、部屋に戻るよ。」
そう言って、瑠夏はミレイを急いで部屋へと連れ帰った。
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